第10話 富山市中央商店街

富山市中央商店街は富山市中央商店街という名前が書かれたアーチ形の看板ゲートから、アーケード商店街として東西に1キロの長さに伸びている。

洋服はもちろん、靴、雑貨、カフェやレストラン、商店街ならではの食べ歩きなど、いろいろなものが楽しめる。


「白羽ちゃーん、てっちゃーん」


商店街に入って少し歩いていると肉屋のおばちゃんが白羽と徹を呼んでいる。

二人はその声に反応し肉屋へと近づいていった。


「あーら、白羽ちゃんまた少し見ない間に背が伸びたんじゃない?」

「ちわー」

「ご無沙汰してます」


徹と白羽の順にそれぞれ挨拶を返す。


「噂は聞いてるよ、白羽ちゃん今学園トップなんだって?」

「えぇ…まぁ」

「てっちゃんも5位だって聞いてさ、おばさん嬉しくなっちゃって。あんたたちがこの町を守ってくれたらっていつも思ってるのよ」

「やだなぁおばちゃん、俺らまだ学生だから軍隊所属じゃないよ」

「でもいずれ軍隊に入ったら、あんたたちがもし日本のどこに配置されたとしても、おばちゃんは心強いし、いつまでも応援してるからね!」

「うん、ありがとう」

「どうも…」


照れくさそうに返事をする二人。

と、また後ろから


「おーい徹、今度うちの店よってけやー!お、白羽のぼっちゃんもいるじゃねーの、元気かー?」


どこかの店の店主から二人が声をかけられている。

学園がこの町にとって大きな存在で、注目を集めていることは言うまでもなかった。

それどころか、二人は商店街では有名人で、さらには知り合いも多く愛されているという事だ。

姫歌や空、亮にとってもその光景はとても誇らしく、自分たちの先輩であることに嬉しさと喜びを感じた。


「あらやだ、白羽ちゃん!てっちゃん!彼女連れてきたなら早くいいなさいよ!もーおばさん気付かないでいて…あんた~!!」


白羽と徹の後ろにいた姫歌や空におばちゃんは気づいたらしい。

何かを言い返す暇もなく、おばちゃんは奥にいるだろうご主人を呼びに行ったようだ。


「かの…じょ…?」


姫歌と空が顔を見合わせる。

姫歌の気持ちを知っていた空に、自分が白羽の彼女であるという選択肢はなかった。

ということは、空は必然的に徹の彼女になるということだ。

全くそんなことはないのだが、他人からはそう見えるらしい。


「おー白羽、徹、彼女つれてきたって!?隅に置けないじゃねーの、よし、祝いだ、うちの特製コロッケおごってやる」


奥から出てきたご主人は皆を見ながら、おもむろに下ごしらえの済んでいるコロッケを、加熱してある油につっこんだ。

ぱちぱちと油の跳ねる音がする。


「で、どっちがどっちのなんだい?いやいや、まってまって、おばさん当ててあげるから。そうね…」


少し考えて、グーを作った右手を左手の手のひらにポンと重ねた。


「わかった!黒髪の子が白羽ちゃんで、水色の髪の子がてっちゃんね!」

「あはは、まぁ…そんなとこかな」

「…」

「うふふ、いいわねぇ、青春ねぇ。若いころを思いだすわぁ」


なんとなくそうじゃないと言いにくい雰囲気に、そういう事になった。


「できたぞ~!熱いから火傷しないように食えよ!」


耐熱性の紙に入れられた人数分のコロッケ。

徹がまず最初に亮へと手渡す。

その後、白羽に二つ渡し、徹から空へ。


「はい、熱いから気を付けて」


そう言いながら差し出されたコロッケを、空は少し不満げそうに受け取る。


『誰がちっちゃいって言う奴の彼女になんか…』

そう思っていた空だが、それでも徹自身に魅力がないわけでもない。


「い…言っときますけど、今度ちっちゃいって言ったら怒りますから…」

(もう怒っている)

「あれ…そんなに気にしてたの?ごめんごめん、もう言わないよ」


なんとなく可愛い会話の二人を見ながら、白羽は姫歌へコロッケを差し出す。

姫歌も白羽の手に触れないように、そっとコロッケを受け取った。


「ありがとう」

「おぅ…」


なんとなくぎこちない。

それでもなんだか嬉しくて、あったかくて。

好きな人から手渡されただけのコロッケだけれど、特別なコロッケに思えた。

出来立てのコロッケは熱い。

でも揚げたてがコロッケの一番おいしい時間だ。

ふぅふぅと冷ます空気を当てながら、はふはふと口で熱そうに食べる。

ほくほくのジャガイモに、ニンジンや玉ねぎの野菜、そしてひき肉が入った特製コロッケ。

そんなコロッケを食べながら、みんなで肉屋の夫婦にお礼を言うと、また商店街を歩きだす。

空がレモネードのお店に反応したり、雑貨屋で徹が変なお面をかぶったり。

そんな中、ちょうど中央あたりにある広場に人だかりができている。

どうやらそこがアウトドアフェスティバルの会場のようだ。


「そういえば来月行く旅行の予定、確か山だったなぁ」


会場に近づいて思い出したのか、徹がぼそっと話し出した。


「どこの山なんですか?」

「地元だよ。学園の人数が多いから、幾つかのグループと班に分けて、S~Cまでごちゃまぜの班でやるはず。場所もグループごとに場所違うから、どこっていうのはわからんなぁ。たぶん来週あたりその話先生からあると思うよ」

「毎年海か山なんだ。旅行っていうか林間学校だろうな…」


臨海学校か林間学校かで毎年交互にやってくる校外学習。

林間学校は5月、臨海学校の場合は7月下旬だ。

その目的は、学園の人間との交友関係を広めることと、協力性の大切さ、そして自分たちで考え成し遂げる行動力を鍛えることだ。


「先生から説明があると思うけど、とりあえず先生がやる事って、グループ、班分け、場所の発表のみなんだ。まぁ食糧とかテントはキャンプ場で支給されるけど、どうやって進行するかは各班にまかされてて、学園からその場所まで、自分たちで移動しなくちゃならない。尚、キャンプ場へ着くまでは魔法を使ってはいけないという制限付き」


徹の説明に白羽が続ける。


「A・Sクラスの人間が各班に一人は入る。おそらく8~9人の班編成で、班が決まったその日から、週に一回1時間時間割を使って、ルートの設定、持ち物の確認、集合時間までありとあらゆる必要なものを班で話し合うんだ」

「へぇ~…」


真剣に聞いていた3人。

もちろん今まで家族や友人とキャンプをしたことはあるし、小学校や中学校でも、そういう学習はあるのだが、必要なものを一から自分たちで考え、それを成し遂げるというのはなかなかに難しい事だろう。

一般の人であれば魔力も乏しく、何もできないため先生が引率して執り行うのだが、学園の生徒はもとより、先生達も魔力は強く、監視体制があるため、そのようなことになっているらしい。


「そういえば、班分けって先生が決めてるんですか?」

「いいや?学園専用のAIがいてね、全生徒の能力や関係を収集蓄積していくから、そのAIがうまい具合に組んでるはずだよ」

「AI…なるほど、そうしたら先生の偏見や生徒同士の偏りがなくなるから、問題も起こりにくい…」

「そういうこと」


一般の学校でもよくある仲良し同士での班編成。

もちろんそれは楽しい時間を与えてくれるのだが、交友関係を広めるという目的は達成できない。

学園もひと昔前までは先生が頑張って考えて決めていた。

だが、技術の発展と共に、AIという文化が誕生し、学園もそれを採用したことで、生徒間でもトラブルをある程度防げるようになったのだ。


「と、いうわけで、来月の林間学校の予習も兼ねて商品とか見ながら楽しもう!」

「おー!」

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