第5話 あの頃と今

「とりあえず座ろうか」


徹に促され、3人が近くの席に腰かけた。

それを見計らってここぞとばかりに徹が説明し始める。


「さて、見学ということだけど、ここで君たちに耳より情報。実はこの創作部、すっごく人気の高い部活になっております!理由は二つ!一つは創作というジャンル自体が幅広く、いろんなことができるから!二つ!俺も白羽もSランク!ましてや白羽なんて、軍事戦略も情報技術もSとかいうダブルSランクだし…、ファンクラブまであるんだぜ」

「お前もあるだろうが」

「で、そんなわけでこれから希望者がたんまり来ることが予定される。定員は30名。しかも今なら卒業した先輩たちが3人いたので、空いたのも3人!早い者勝ちとなっております!さぁ入るなら今!!」


『どっかのテレビ番組で商品販売してるおじさんみたい…』

そう3人は思いながら身振り手振りで説明する徹を見ている。


「でも、ちょうどいいんじゃないですか?うまく3人とも部活希望一致したわけですし」

「そうだね、私も異論はないよ。姫歌は?」

「わっ…私も…入る!!」


「よーし!けってーい!あ、定員に達したため募集していませんプラカードさげてこよーっと」


徹が入口の所へプラカードを持ち出ていく。

それと同時に入部希望の生徒に出くわしたらしく、何やら説明をしている。


「しばらく戻ってこないだろうなあれは…」


遠くから見ていた白羽がため息をつきながらそう呟いた。

そして近くにあった棚からタブレットとペンを取り出すと、3人の座っているテーブルに置く。


「ここにそれぞれ入部届の署名をしてくれる?」

「はーい」


ではさっそくというように、空が一番最初にペンを持ち名前を書いた。

そして横に座っていた亮へと渡す。

亮もすらすらと自分の名前を書き、姫歌へ。


『白羽くんと一緒の部活~~~っっ!』


姫歌の頭の中で、小さい姫歌が目を回しながら走り回っている。

少し震える手でペンを持ち、なんとか自分の名前を書き終える。

3人が書き終えたのを見た白羽が、スッとタブレットを回収し、名前を確認した。


「鴨頭草さん、高澤さん、桜川…」


白羽が止まる。

タブレットから姫歌へと視線をやって、少し驚いたように見つめた。


「そう…か、…久しぶり…」

「う…うん…」


ちらっと一瞬だけ見た白羽の顔は、姫歌にとって少し微笑んでいるようにも見えた。

恥ずかしそうに俯く姫歌は、返事をするだけでいっぱいいっぱいのようだ。


「あれ、お知り合いだったんですか?」


すかさず亮から質問が入る。


「わっ…!えっと…昔…ちょっと…だけ…」


顔を真っ赤にした姫歌に2人はニヨニヨとしている。


「あ、よかったら作品とかあったら見せてほしいです!!」

「あ、僕も見たいです!」

「でもその前にトイレ行きたいんで少し席外しますね!!」

「わっ…ちょっ…!」


空から切り出した注文だったのに、空は亮を引っ張りあっという間に工芸室から出て行った。

その場には姫歌と白羽だけになる。


『えぇっ!?うそうそ、ちょっと待ってよ…!!いきなり2人とかハードル高すぎだよぉ…!!』

半パニック状態の姫歌に、白羽がクスッと笑い少し呆れながら声をかける。


「作品出すから、手伝って」

「はっ…!はいっ!!」


隣の小部屋に通じるドアから中に入ると、白羽が棚をガサガサと漁り始める。

丁度よさそうな長方形の箱を見つけると、持ってと言うように姫歌に差し出した。

何を話していいのかわからず、箱を受け取った状態で姫歌は黙って待っている。


「2つ言っておかないといけない事がある」


静寂から真剣な面持ちで最初に話し始めたのは白羽だった。


「はい…」

「なるべく俺の身体に触れないようにしてほしい。理由は…言えない。もう一つは…、昔の俺と今の俺は違う。だから、同じに考えるな…」


そう言われ、姫歌は少し考えてから寂しそうに答える。


「わかりました。昔と今が同じ人なんて居ないですし大丈夫です…」

『そうだよね…、あの時のままなんてないよね。私だって変わったもの…』


すんなりと受け入れ、俯いてしまう姫歌を、白羽は複雑そうな顔で見ている。


「でも、俺と話す時は…、昔みたいにタメ口でいてほしい」

「えっ…?!それはっ…先輩じゃないですか!!しかもSランクで…ファンクラブまであって…」

「ダメ。」

「だっ…。……ーっ。…皆に何て言われるか…。タダでさえ…目立たないようにして生きてるのに…」

「もし…何かあったら、俺に相談してくれればいい。あの頃も今も…、桜川の味方なのは変わってないから」

「…あ…う…。わかったよ…」


半ば強制的にため口にさせられたことについて、あまり納得のいっていない姫歌がほっぺたを膨らましながらふてくされている。

そんな姫歌を横目に、白羽は渡した箱に作品を入れ終えると満足げに鼻で笑った。

小部屋から出ると先ほど座っていた席に、空と亮が戻ってきており、ニヤニヤしながらこちらを見て待っている。


「どうしたの姫歌~ぷっくり膨れ顔しちゃって~」

「むぅ~…、後で話す~…」


ぷっくり顔のまま、姫歌は持ってきた箱をテーブルに置き席に戻った。

それと同じくらいに、やれやれと言わんばかりの徹が戻ってくる。


「いや~、疲れた疲れた~。一気に30人くらい並んでるんだもんな~」

「お疲れ」

「今度白羽やってよ~」

「嫌だ」

「お、なになに作品紹介?…( ^ω^)…なんで俺の作品ばっかりなの?」

「部長だし」

「お前なぁ…」


徹と白羽のやりとりを聞いていると、漫才をやっているかのようにも聞こえる。

でもこれが日常なのだろう。

仲がよさそうな二人を見ながら、姫歌はこの部活に加われたことに嬉しさを感じていた。


「まぁ…いいや、これから探すのも面倒だし」


そう言いながら、徹が作品を紹介し始める。

2か月に一度、自分で制作するものを決めるようで、その中にはガラスのドーム、木製の食器、ポーチ等、様々なものが並んでいる。

そしてそれを2か月に一度、定期展覧会を開き見せ合うのだ。


「一番大規模なものは、文化祭の時かな。その時は自分の作品を売りに出すんだ」

「文化祭は確か11月の中旬でしたよね」

「そうそう、高澤くん把握するの早いね。その時は学園外からはもちろん、県外や海外からもお客様が見えたりするよ」

「結構大規模なんですね」


続けて白羽が補足する。


「文化祭は文化部だけじゃなく、各学科の技術発表や合唱コンクール、騎士同士の親善試合もあるんだ。だから2日かけて文化祭を行ってる。」

「2日間あるのは忙しそうだけど楽しそう!楽しみになってきた」


わくわくしている空を横目に徹が続けた。


「11月なんて遠いなーとか思ってたら直ぐきちゃうもんだよ。その前にいろいろ行事もあるしね」


徹の言葉の終わりと共に、姫歌達にとってまだ聞きなれていないメロディーが流れ始める。

部活終了を告げる合図に、姫歌、空、亮の3人は寮へと戻ることになった。

また来週…と言いながら工芸室から出ていく3人。


「姫歌さっきなんで膨れてたの?」


階段を降りながら空が尋ねた。


「う…あれは…、学園内だと話しにくいよ…」


白羽のファンがどこに隠れて聞いているかもわからない状態で、姫歌は話すのを躊躇っている。


「なら明日、皆で買い物に行くのはどうでしょう?荷物の整理をしてると、どうにも足らない物もありますし、皆で外で食事もしたいですし」

「いいね!のった!!」


場所を変えての方が話しやすそうだと思った亮が、2人に提案をする。

間もなく空がそれに応じ、姫歌も頷いた。

3人は1度部屋に戻り着替えた後、寮に併設されている総合施設のラウンジで待ち合わせる事にした。

寮は男子と女子が別々で、5階建ての大きな寮だ。

他の学校と違う点は、相部屋ではなく、それぞれ独立して6畳くらいの部屋が、一人一人に割り当てられる事だろう。


「姫歌何号室だった?」

「えっと……4-11って」

「ほんと?私も4階、4-8って書いてあるから会いやすいかも!」


部屋のカードキーを受付でもらい、案内図で部屋の番号を確認すると、やはり近い事がわかった。

2人で喜びながらハイタッチする。

そして4階に行き、また後でといいながら2人はそれぞれの部屋へ向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る