僕は普通の恋がしたい!

絢爛豪華な道化師

第1話 決別

「す、好きですっ、僕と付き合って下さい...!」

 卒業式の後、誰もいなくなった教室に僕の声はよく響いた。緊張と恐怖で足がガタガタ震え、口の中はすっぱかった。胃酸が逆流してくるのをこらえ、冷や汗と一緒に溶けてしまいそうになるのを頬を噛んで耐えた。

 僕らの間には数秒間の沈黙が立ちこめた。無限に続くと感じられたそれは、相手から断ち切られた。

「...どう、してかな。キミは、このままの関係じゃ、ダメ、なのかい?」

 相手、神奈崎美琴は、ひどく動揺した声で言った。声だけではなかった。目には涙を溜め、制服の袖を握り、悲しい顔をしていた。

「かな、ざき...」

 僕は初めて見る神奈崎の表情に、弱々しく名前を呼ぶことしかできなかった。

 神奈崎は雑に涙を拭うと、はっきりとした声で告げた。

「ボクはきみと付き合えない。...さよなら」

 バッグを背負い踵を返し、迷いのない足取りで教室をあとにした。

 僕はただ呆然とその去っていく背中を見送るしかなかった。

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