春の、苦い、あれ。

かなた

ネットの

 『ひまり』。会話が弾む相手。愛くるしい笑顔とわがままな性格で、いつも、どんな時も俺を困らせ、なのに笑顔にさせた。

 俺たちはネットで出会った。ネット、というか、LINEのオープンチャットで、だ。オリジナルのキャラクターになりきり、会話や恋愛を楽しむだけ。ただそれだけ。もちろん相手の顔なんか知らない。だから親は、そんなよくわからないものしないで。スマホに、ネットに依存しないで。そう、何度も言った。やさぐれていた俺は、そんな言葉をなぎ払い、オープンチャットに加わった。ちょうど、新型ウイルスの感染が流行り、学校は休みで、家ですることもなく、ただただ寝て起きての毎日を繰り返していた。きっとそこのメンバーも同じであろう。そう思って、いろいろなグループに入ってみた。もちろん俺に合わないグループもあり、最終的に二つに絞れた。そのうちの一つのグループでできた好きな子なのだ。

 入ってすぐの時は、日茉利のことを

「嫌いなタイプだ、きっと仲良くなれない」

そう思った。だから少しツンケンした態度で接した。

それが受けたらしい。

毎日、毎日、

「先輩好きな人できた〜?」

とか、

「先輩の好きな人って〜、誰〜?」

と繰り返し俺に問うた。

だんだんと俺もそんな彼女をかわいい、もっとかまってほしい、と思うようになっていった。自分の淡い恋心をうっすらと自覚し始めた。

 そんなある日、ある男の子が入ってきた。その子とは生活時間が似ており、よく話した。俺はその子と話すのが好きだったし、ひまりや他の子と同じように接していた。だが、ある日

「伝えたいことがあるので、ちょっといいですか」

そう、LINEがきた。俺がいないときの他メンバーとの恋バナや、そのLINEの文面から、何を伝えられるのかは薄々気づいていた。

俺も満更でもなかった。思った通り、彼からは

「好きです」

と伝えられた。

だが、俺は、彼よりもひまりの方に好意を寄せていた。だから俺は。なのに俺は。その事実を伝えずに、優しくし、振り回して、フる時も曖昧な言葉で濁して。自分勝手なのはわかっていた。それでも彼のことも好きだし(男同士とか関係なく)、ひまりのことも好きだ。

「君を傷つけてしまっただろうか」

その言葉はどうしても送信できなかった。あんなに曖昧に濁しても、彼は

「待ってるよ。ゆっくりでいいんだ」

そう、言ってくれた。

俺はその言葉に甘え、2日ほど、何事もなかったように接した。

 その日、日茉利が一旦グループを抜けた。

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