第2話 憑依

「う、う~ん……」

(うん?ここは何処だ?)

 辺りを見回すと知らない部屋だ。

「俺は確かトラックに轢かれて……」

(うん?なんか声が違うような)

「それに背も縮んだような……」

 部屋にあった姿見の前に立つと驚いた。

 黒い髪、銀の瞳、身長130くらいで年は10歳といったところか。

「へ?誰だ?」

 そう思うと頭に激痛が奔った。

「ッ~!?」

 声にならない悲鳴を上げた。

「これは記憶?」

 突如として俺が知らない記憶が頭の中に流れ込んできた。

「え、ええ……いや確かに行きたいとは言ったけどさあ……」

「まじかよ……」

 俺はどうやら月下の巫女姫の悪役煉城暁に憑依したみたいだ。

「俺また死ぬじゃん……」

 そう俺が憑依した煉城暁は数多くあるルートの中で全てバットエンドで終わるキャラなのである。

 原作では暁は暴君だったが俺は暴君なんかごめんだ。

「いや……まてよ……」

(ならば、バットエンドのフラグを全て無くしてしまえばいいんじゃね?)

「おお、そうだよ!その手があった!」

(幸い俺には月下の巫女姫の知識があるからこれを上手く利用すれば……)

「俺は最強になれる!」

(さてとなればこれからどう行動するかが問題だが……)

「まず妖刀が欲しいな」

 妖刀とはその名の通り妖怪を封印した刀のことだ。この世界で妖刀は全部で五本。

 朱天、茨、大嶽丸、玉藻、叢雲だ。

 朱天には酒呑童子、茨には茨木童子、

 大嶽丸には大嶽丸、玉藻には九尾の狐、

 叢雲には八岐大蛇。

 この五本の妖刀を天覇五剣と呼ぶ。

「手に入れやすいのは朱天、茨、玉藻だな」

(確か叢雲は榊原静影が持っていたよな)

 榊原静影、彼女はヒロインの榊原鈴音の姉で攻略対象では無かったが、その事でファンたちが運営に問い合わせたことで有名だ。ちなみに俺もその一人。ぶっちゃけ彼女が一番好きだった!容姿もさることながら実力もある人で、主人公達のピンチに颯爽と現れ敵を瞬殺するという公式チートだ。

「よし!あの人に弟子入りしよう!」

(そのためにはまず妖刀を手に入れなければいけないな)

「さてどの妖刀を手に入れよ……」

 そう考えていたらコンコンとノック音が聞こえた。

「ああ、はい!」

 ガチャリと扉を開けたのはメイドだった。

「暁様朝食の準備ができました」

 どうやら朝食のようだ。

「ああ今行く」

 そう言うとメイドは目を見開いていた。

「どうした?」

 俺がそう聞くと慌てたように返事をした。

「い、いえ!?な、ななんでもありません!?」

「そうか」

 俺はそう言い部屋を出た。

(あっぶねぇぇ!?そうだよな暁はいつも文句をつけてたよな!?)

 どうやら暁はこの頃からすでに暴君だったようだ。

「そういえばお前名前は?」

「え、ええと秋葉です!」

「そうかよろしくな」

 俺はこうして食事をとり部屋に戻った。








「さてとここから一番近いのは朱天と茨か」

 朱天はこの家からおよそ西に三キロほどの祠、茨は東に三キロの祠。

「しかし俺に妖刀が制御できるかどうか」

 妖刀は所有者を選ぶ。選ばれなかった者が持つと暴走し妖怪となり最終的には刀に封印されていた妖怪に体を乗っ取られるという危険な代物だ。

「ふむ……朱天かな」

(どのみちこのままでは俺は死ぬからな)

「そうと決まれば早速行くか」

 俺は力を手に入れる為に朱天の祠に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る