デートプランは変更出来る?

忍野木しか

デートプランは変更出来る?


 メモ帳には今日の予定がびっしりと書かれていた。

 佐久間大志は袖を上げて、淡々と時を刻むタイメックスの秒針を見た。

 八分遅れだ。

 大志はイライラと腕を組んだ。

「大志、遅れてゴメンね?」

 待ち合わせから遅れて十二分。テニス部の先輩である三月静香が大志の肩を叩いた。

「もう、遅いよ! 映画に遅れるちゃうよ!」

「ゴメンゴメン、ねぇ、映画に遅れたらコスモでも行こうよ?」

「何言ってんの、もうっ」

 大志は静香の手を掴むと「行こう!」と手を引っ張った。

 ほんとは映画なんて見たくないんだよね。静香は大志の少し幼い顔を見上げた。今日のデートは大志に全てをお任せしていたのだった。

「映画を見たら、ジャンで軽く昼食。その後はストリームで散歩。美味しいたい焼きがあるらしいよ、静先輩」

 大志は嬉しそうに語った。サラサラと清潔感のある髪が風に流れている。

 こんな大人しそうな顔して、強引なとこがあるんだよね、大志は。

 静香はクスクスと笑った。

「ねぇ大志、ジャンは今日定休日だよ?」

 静香は嘘をついた。ええっと大志はアイフォンを取り出す。

「いや、やってるけど?」

「ふふ、あたしの情報網を舐めないでくれる? 内装工事で休みだって絢香が言ってたよ?」

「嘘だぁ」

「ほんとほんと。だから映画が終わったら、代々木公園でも行こうよ? 美味しいパン屋があるの」

「嫌です!」

 大志は拗ねてしまった。静香の手も離してしまう。

 あらら、これはやっちゃったかな? 

 静香は不安げに後輩の顔を覗き込んだ。大志はふんっとそっぽを向く。怒ってはいるようだが、まだ愛想をつかれた訳では無さそうだった。

「大志、勝手な事言ってゴメンね? 今日は全部大志に任せてるんだったよね? ほら、あたし先輩だから、色々言いたくなっちゃうんだ」

「……いいですよ。静先輩の性格は分かってるつもりだし」

 大志は不機嫌そうに静香の手を掴んだ。静香はほっとして笑顔になる。

「静先輩、映画に行きたくないんでしょ? じゃあ次のプランだ」

「次の? 他にもプランあるの?」

「あるよ! いっぱい考えて来たんだから!」

 大志はメモ帳にズラリと書かれたデートプランを見せつけて来た。

 次のページにも、その次にも隙間なくプランが書かれている。

 メモ帳を眺めていた静香は、何だか熱心な後輩がたまらなく愛おしくなった。静香は背伸びをして大志の唇に顔を近づける。

「わっ、ちょっと、それはまだ先です!」

「ふふ、じゃあ静先輩じゃなくて、静香って呼んでよ」

「ええ? し、静香……」

 静香は大志の唇を、そっと塞いだ。

 

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