平成三十一年四月三十一日2355 おまけ
長いゴールデンウィークのちょうど真ん中に当たる本日、【道】の一角では宴会が催されていた。夕方から飲み始めた【艦霊】も居れば、ひたすらに好きな物を食べ続けている【艦霊】もいる。個人差はあれど皆、酒を飲み、煙草を吸い、歌を歌いまさに大騒ぎ。これが現世であったならばたちまち警察に通報されてしまうだろう。
「あと五分!」
潜水艦が大きな声で言った。加織の足の間でチョコレートを齧っていた彰がそれに反応し、潜水艦の集まっている方に顔を向けた。
「ひいっ!」
潜水艦は彰が自分達を見ていると分かると、途端に静かになった。潜水艦と対潜哨戒機の力関係は、口で説明するよりも見た方が早いといわれるくらい非常に分かりやすい。
「彰ちゃん、ダメ」
加織が彰を嗜めると、彰は潜水艦から視線を外しまたチョコレートを齧りはじめた。加織はそんな彰の頭を片手で撫でながら、もう片方の腕の時計を見る。時計の針は、新しい時代が目前に迫っているとことを示している。
「彰ちゃん、【こんごう】はいいの?」
「いい」
「……そう、か」
彰は何かにつけて心の拠り所にしている【こんごう】のそばへ行き、心身のバランスを取っている。そして、DDHに促されれば【こんごう】の元へ行くことを拒否することはなかった。しかし、彰は加織の膝から動くことはなかった。その意思表示に加織を含むDDH全員の目を丸くした、その時だった。
「2359(フタサンゴーキュー)」
【こんごう】が声を張上げる。先程まで大騒ぎしていた【艦霊】たちは皆口をつぐみ、それぞれの腕時計や壁に掛けられた時計を見つめた。
「五、四、三、二、一、じかーん」
「よっしゃー!!元号三つ目!!」
【こんごう】の号令を聞き【やまゆき】が愉快そうに笑う。【やまゆき】は来年の今ごろにはこの世にはいない【艦霊】だ。それだけに今回の改元には思うところがあるのだろう。だが、しかし、DDHはそれどころではなかった。
「……明日も宴会かな?」
出凪が呟く。他のDDHたちも一様に頷き、嬉しそうに笑う加織の足の間で船を漕ぎ始めた彰を見つめる。
新しい時代が来たことを【こんごう】はまだ知らない。
君に大団円を 加茂 @0610mp
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます