十一
加織は献身的だった。彰が呼べばすぐさま駆けつけ、腹が減ったと言えばポケットからチョコレートが出てくる。もちろん、彰好みの銘柄まで押さえている。彰も次第に俺よりも加織と過ごす時間が日毎に増え、ついには俺の寝室で寝ることも少なくなった。経過は順調ということなのだろう【いせ】も【ひゅうが】も特に俺に注文をつけることなく日々、彰と加織を見守っているようだ。そんな日常の中、彰が突然姿を消した。それが二日前のことである。
「【こんごう】、いよいよ依存先がお前から【かが】に遷るみたいだ」
【いせ】が俺の執務室のソファに座り、俺の目を見て言う。【いせ】の表情は穏やかであるが、目の奥では不安が見え隠れしている。八年前にも見た目の色を隠しもせずに【いせ】は続ける。
「絶対に探しに行くなよ」
「分かってる。もう懲りた」
言われるとは思っていた言葉を粛々と受け止める。【いせ】を始めとしたDDHたちにとって俺は要注意人物であることがよくよく分かった。
「本当に探すなよ。お前は自分の仕事だけやればいいんだからな」
そう念を押し【いせ】は俺の執務室の扉に手をかける。きっと彰が俺の事を心の片隅に置いておくのは今日が最後になるだろう。パタンと優しい音を立て扉が閉まる。それは八年続いた歪な縁を切る音だった。
君に大団円を。あなたに祝福を。
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