八
【艦霊】は、人に望まれて作られる艦艇に宿る神のような存在だ。進水前からなんとなくぼんやりと人の形を取ることが多く、進水することで定まる。進水してからは【道】や現世で暮らすための【練習艦】による訓練が始まる。今日はその最後の日だ。訓練を終えるのはDDHの【かが】。あと一時間後に【くらま】が自衛艦旗を降ろすと同時に【かが】の自衛艦旗が旗竿に掲げられらる。それをもって【かが】は訓練を終え任務に就く予定だ。昨年の十二月、【くらま】こと鞍利と和解した彰はそれからこれまでの時間を埋めるかのように鞍利と行動を共にしていた。それこそ白幸とは叶わなかったことを一つずつ実現し取り戻すかのように。鞍利はこれを好機とし彰を甘やかしに甘やかした。彰はというと元々の性格と性質のお陰か、それはそれは喜んで構われた。ただ、構われすぎると休憩がてら俺の所に戻ってきて好き勝手するなんて日も少なくはなかったのだが。そして今は鞍利の膝の内に収まって、これから任務に就くことになる【かが】……もとい加織の様子を伺っているようだ。加織も彰のことが気になるようでよく目は向けるものの特に関わっていこうという姿勢にはならない。DDHは構いたがりが多いので少し意外だ。
「【かが】あとちょっとだな」
「はい」
鞍利が時計を見ながら加織に声をかける。そして自分の膝の横に置かれた帽子を取って加織に差し出した。
「俺の三十六年のその先は、お前だ。彰を頼んだぞ」
「……はい」
加織は帽子を受け取って返事をする。そして加織も自分の帽子を鞍利へと差し出しもう一度口を開いた。
「彰、これからよろしく」
彰は加織の言葉にニヤリと口角を上げる。造形がいいだけに余計に悪い顔になっている。急がしそうな甲高い音で時計のアラームがなる。鞍利が手を伸ばしアラームを止め、そのついでにと言わんばかりに彰を撫でる。
「時間だ。じゃあな彰」
「いってきます」
鞍利がひょいと彰を膝から降ろし立ち上がる。それに加織も続いて立ち上がった。鞍利は彰に手をふりながら部屋を出る。それとは対照的に【かが】が静かに戸を閉めた。彰はそれを何も言わずに見送っていた。
今日は終わりと始まりの日。
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