六
【しらね】が役目を終えたと同時に【いずも】が就役した。これまでのDDHの傾向としてはネームシップは温和で真面目、堅実な性格の者が多かった。例に漏れず【いずも】も温和ではあったものの、真面目堅実かと問われれば首を傾げずにはいられないと言うのが実状である。そして、彰は【いずも】が大変お気に入りのようだ。
「彰ちゃん! 彰ちゃん!」
今日も軽快な声が彰を呼ぶ。声の主はもちろん【いずも】こと出凪だ。そして何故か帽子を深く深く被りしゃがんでいる。更に両手を頬についており、顔がよく見えない。仕草だけ見れば幼い子供のようだ。彰が素直に出凪に近寄っていく。
「ばあっ!!」
出凪は顔を撫でるように帽子を後ろへと飛ばし、その顔を現した。瞬間、彰が垂直に跳ねる。珍しく完全に不意を突かれたようだ。
「なにやってんだ?」
彰の後ろから出凪を覗きこむと、そこには顔のない人……所謂のっぺらぼうというやつがいた。
「【いずも】、そのマスク出所は【あすか】だろ」
「なんで分かったの?!」
「【道】の常識だ」
出凪は一瞬虚をつかれたような仕草をしてその後すぐに腹を抱えて笑いだす。若いだけあってとても表情豊かだ。彰がスッと俺の視界から外れる。嫌な予感がして顔を上げると笑い続ける出凪の背後に彰がいた。彰は五歩ほど下がってトントンと跳ねる。そして短い助走で軽やかに飛び上がり、鮮やかに出凪の頭を踏み抜いた。今度は出凪が不意を突かれた。出凪はそのままなす術なく顔面から床に崩れ落ちた。
「うわぁ、いい音……。いずも、大丈夫か?」
額に手を当てうずくまる出凪を尻目に彰は満足気に笑い駆け出しそうな程軽やかな足取りでこの場を去っていった。
訓練終わり、賑わしい夜の食堂で【くらま】と並んでカレーを掻き込む。
「なあ、鞍利」
「んー?」
「彰と【いずも】ってどうなんだ?」
鞍利は俺の言葉を聞き一瞬動きを止めた後に、可哀想な者を見る目でこちらを見つめてくる。そして、ゆっくりとスプーンを置いて口を開いた。
「金剛さん、彰ちゃんの依存条件って知ってる?」
「【自分を見つけてくれる人】だったか?」
「そうそう。因みに彰ちゃんにも好みがあってな……」
鞍利はニヤニヤと笑い続ける。
「【真面目な奴】。出凪はお前の後釜狙ってるみたいだけどな。まあ、無理だと俺は踏んでる」
今度は俺が固まる番だった。そんな俺をよそに鞍利は三回目のおかわりを要求しに席を立つ。実質二回目の死刑宣告は俺の苦難が簡単には終わらないことを改めて感じさせてくれたのであった。
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