【23時間目】魔王様、沼池大掃除のお時間です‼︎


四月初旬しょじゅんの風は気持ち良いものだと僕はこの世界にきて初めて知った。

この物語の初め───つまりはプロローグにまでさかのぼる話ではあるが、あのアオハルを感じる語り、僕が書いたわけではないってみなさん知ってましたか?


『いちいち確認すんのもめんどくせぇよボケがっ!』って思う人は初めの番外編を読んでくれたら嬉しいんですけど、聖良いわくあの時に僕がそのプロローグにツッコミを入れる予定だった(らしい)んですって。


いや知らないよ。

そんな打ち合わせ聞いてないし知りもしないし多分Si◯iも知らないよ。でもゾルタ◯スゼイアンなら知ってるかもね?あ、今『うっわすげぇ懐かしい』って思ったでしょ。僕もそう思った。結局ゾルタ◯スゼイアンうんぬんの都市伝説?の真偽しんぎはどうなったのかね。


閑話休題かんわきゅうだい

あのプロローグの話に戻るんだけどあれ後から読み返してみたら割と僕もそう思ってた事に気づいたんだよね。まあなにせ書いたのが聖良だし、やっぱ付き合い長いと変なとこフィーリングが合っちゃって、つまり何が言いたいかって言うと────



「くっそ風にあたりてぇ……!!」



僕はここ───私立黒瀬川学園の───裏手の緑が深々しんしんしげった森にある沼に来ていた。

んで、ここで何してるかと言うと(前話を見てくれた人なら分かるとは思う)大掃除をしに来ていたワケなのだ。


え?沼の掃除?沼の掃除ってなんだよ。

『緊急SOS!池の◯ぜんぶ抜く大作戦』みたいなことすんの?って思う方がいらっしゃるとは思います。


が!それが!それがね!この沼大して深くないんですわ。

どれぐらい深くないかと言うとおそらく沼の最深部であろう中央に行っても腰が埋もれるぐらいしかないワケで……。


とどのつまり!

大して深くないせいでここの掃除担当の教員が「おめぇら沼にかってゴミ拾えや」と『走れメ◯ス』に出てくる邪智暴虐じゃちぼうぎゃくなあの王よりも酷い命令を出したのであった。

そんでそんな圧政をかれた僕らは仲良く肥溜こえだめに等しい沼で延々えんえんと続くであろうゴミ拾いに注力しているのである。



「我が盟友!!良いものひろったぞ……!!」



そんな絶対王政に辟易へきえきしている僕とは打って変わってこの少女───種田 冬火さんはゴミ拾いと聞くやいなや嬉々ききとして沼に特攻していった、ある意味勇者である女の子である。


まあ多分初めてできた友達と初めて行う学校行事に浮き足立っているのであろう。

僕は空気の読める人間なのでそんな無粋ぶすいなことは絶対に言わないが。



「わっ…何拾ったの種田さんこれ?」



「ん〜〜分からん!我が盟友はなんだと思う?」



「え、なに拾ったの冬ちゃん」と共に作業をしていた奈賀井さんまで(正直この人は速攻でサボると思ったけど予想に反してちゃんと素直にゴミ拾いをしていた。今日は雪でも降るんじゃねぇかなと思うけどみんなはどう思う?)もこっちに寄ってきた。


奈賀井さんとともに種田さんからブツを受け取るとしっかりと両の手を使い、そのブツの正体をあばいていく。


この独特のざらりとした触感しょっかん、適度に重さを感じるこの質量、そして片栗粉のような粘度ねんどと硬さ、これは───間違いない。



「種田さん………こ、これは………!!」



「こ、これは……なんだ!?」



「ただの泥じゃん、これ」



いや正体言わんといて!!

せっかく種田さんが「これなんだろう!う〜〜んわからないからお父さんに聞いてみよう!」と意気込む夏休みの小学生みたいな顔で持ってきたのに!!


あ、ほら!種田さんしょげちゃったじゃん!!

てかちみっこだから泥が胸のあたりまでついてるけどそこまで言ったらもう身動き出来なくない!?あ、そうか!ちょっとテンション上がっちゃって冒険気分で深いとこ行ったんだ!!危ないからやめてほしいね!うん!!



「もしもし……そこの方たちサボらずに仕事をしてください」



容赦ようしゃなく、そして躊躇ちゅうちょなく種田さんが持ち込んだ泥を粉砕ふんさいする奈賀井さんの横から「ぬっ」と頭が出てきた。



「あ、すみません。ちょっと友達がめずらしいものを拾ったって言うもんで少し……」



僕は反射的にあやまるとそれが正解の選択肢だと確信する。

なぜなら僕らを注意してきた相手は二葉亭ふたばてい 逸華いつかと大掃除前のミーティングで僕らホオズキクラス沼地担当班に名乗った───私立黒瀬川学園生徒会会計・書記の人だったからだ。


本来、生徒会主導であるために掃除には参加しなくて良い(生徒会のメンバーは見回りと状況確認と相互連絡が仕事だと水原さんが言っていた)はずなのだがこの人はここの担当教員の笑えないブラックな指令に僕らと共に腹を立て、「私も掃除、参加します!!」と意気込んで僕らと一緒に泥にまみれた人なのだ。


まあ言うならば───すんごい良い人であるのだ。

そんな人を失望しつぼうさせる訳にはいかないのである程度僕らも真面目にやっていたのだったが───



「あ、ねえねえ友達くん。私も良いの拾ったわ。ふふっ。見てよ」



意気消沈いきしょうちんする種田さんを尻目しりめに今度は奈賀井さんが僕に拾い物の鑑定をしてほしいとブツを差し出してきた。


またも僕は両の手を用いて─────いや、待ってこれ。



「いやこれ泥やなくてドクロやないかぁ〜〜〜い!!って、いや言うてる場合ちゃいますよ!!なんで!?なんで人骨!?ちょ、誰か船越英◯郎呼んできてぇーーー!!」



「待って躑躅森くん!これただの人骨じゃありませんよ……!」



二葉亭会計・書記がかけている丸眼鏡の奥が光る。

え、こいつは……まさかリアルな事件が勃発ぼっぱつしていたのか……!?

表の顔は名門進学校と通っているが裏ではよなよな人さらいをしている、とか……!?



「この、骨は……ですね。"北京原人"の骨、ですね……!」



「……は?」



「急に言われても分かりませんよね……。北京原人とは中国の北京市房山ほうざん周口店しゅうこうてん竜骨山りゅうこつさんの森林で発見された化石人類で、1921年にスウェーデンの地質学者ユハン・アンデショーンとオットー・ズダンスキーの発見を嚆矢こうしとして…」



「Wiki◯ediaやめてーーーーーっ!!って、いやいや北京原人がなんたるものかが分からないんじゃなくてなんで北京原人の人骨が日本にあるんすか!!てか北京原人の骨って紛失してましたよね!?あ、そういう!?紛失した先はこの学園の裏手の沼地でした!って言うことですか!?って、んな訳あるか〜〜い!!」



いやそんな「……?」みたいな顔でこっち見られても困りますよ!!

あれもしかしてこの人もそういうボケかましてくる人なのかな?ファーストインプレッション的にはすごい真面目で勤勉きんべんで正直な人かと思ってたけどこれあれだわ、天然がそれらの要素差し置いて先走ってるやつだわ。

んで、勤勉さがたたって会話してると余計なうんちくはさんでくる人だわ。あー、いるよね。会話してるとうんちくと会話サンドウィッチの"言いたいだけ"の人。うん、多分そういうタイプだこれ!!



「我が盟友……っ!今度は今度はちゃんとしたモノ拾ったぞ………!これ、悪鬼の生贄いけにえにされたため生まれつき身体が……」



「それは泥じゃなくて"どろろ"やーーーーーー!!!!」



☆心が叫びたがってるんだ。──────



───────────────────────


【登場人物紹介】


●躑躅森 逢魔


魔王の息子で主人公。

さくら子の奸計によって沼地の大掃除のチームリーダーを任されるハメに……とは実は嘘でさくら子もまさか沼地の掃除をさせられるとは思ってもなかったのでそう通達された時に平謝りされたもんだから逢魔も断れなかっただけである。

……優しさは時に罪であるのだ!



●種田 冬火


1人目の能力持ち厨二コミュ障ぼっち少女。

この作品が始まった初めて2番目に自己紹介蘭を任されたので緊張している(大嘘)。

今回の話はちょっとぼっち特有の哀愁が漂っている。みんな優しくて良かったね。



●奈賀井 風花


3人目の能力持ち奇想天外奇々怪界魑魅魍魎少女。

彼女の性格上掃除などはサボるだろうと逢魔は予想していたが彼女の性格を鑑みるならば実はサボりこそしないのだ。

詳しい事はこの先、明かされるだろう────!!



●二葉亭 逸華


私立黒瀬川学園生徒会会計・書記。

おそらくどっかの外国のハーフであるため髪は金、目は碧眼、おまけに丸眼鏡というこれまでかというほど性癖がぶっこまれたキャラ。

まあここまでいけばこのキャラがなんなのか想像に難くないだろう……!



●船越英◯郎さん


通称"崖っぷちの名探偵"。

ありとあらゆる出来事は彼に言わせてみれば全て事件なのである。

最近は某小さい名探偵と某相棒といつも一緒な名探偵とデスマッチするらしい(大嘘)。

はいそこ、バイ◯グラとか言わない。


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