【10時間目】魔王様、説得のお時間です‼︎


「は、はぁ!?実は躑躅森は異世界の魔王で強力な魔法を持ってたけど何者かに奪われて、その力がなぜか私たちに四散しさんしちゃって、それを取り戻す為に私たちと仲良くならなければならない!?そんなの信じられる訳ないでしょ!バカなの!?」



説明乙、と言いたいところだが水原さん、残念ながら事実なんだよね。正味しょうみ僕もちょっと設定がテキトーすぎるとは思うけど完全ギャグラブコメディ(笑)だからしょうがないよね。



「ふっふっふ!水原 さくら子よ!心中お察しするぞ!私も神託しんたくを受けた勇者だと知るまでは自分の事はただの凡夫ぼんぷだと疑いもしなかったからな!」



「そういえばこの子には拉t…連れてきた時に私たちの目的を教えてなかったですよね」と聖良が耳打ちをしてくる。

確かに。そういえば種田さんには全くもって説明はしてなかった。そもそも麻袋あさぶくろに詰められたところで何かあると疑うものだが……とてもこの先は言えそうにない。



「種田 冬火は友達が居なかった訳ですから私の拉致誘拐らちゆうかい新手あらての友達の作り方だと思ったのでしょうね」



「言うなって!それ以上言うなって!また泣いちゃったら絵面完全にアウトになるんだから!てか今拉致って言っちゃったよね!?しかもご丁寧ていねいに誘拐まで補足ほそくされてますしね!?」



「ツッコミのキレが戻ってきたわね……それはさておき種田さん、あなた神託を受けた勇者やらなんやらなら魔法の一つぐらい見せてみなさいよ」



あんなにイキイキしていた種田さんがだまる。

そりゃ自分が勇者だのなんだと僭称せんしょうする厨二病の子に、だったら「魔法かなんか見せてみろ」なんていう身もふたもない提案されたら黙るしかないよね……。


ふん、と魔法を出す練習?をし始めた種田さんを尻目しりめに僕と聖良は水原さんにより"魔法"、つまりは"固有魔法"について詳しい説明をし始めた。



「すみません。お見せするのは難しいかと。──なぜなら私たち魔族の持つ魔法は実は水原 さくら子が想像するような、いわゆる"魔術"とは違うのです」



「何が違うのよ?」と至極しごく当たり前の疑問をぶつける水原さんに僕が続いて付け足す。



「"魔術"って言うのはその現象が起こるもととなる───つまり"魔力"を持つ者が術式や呪文を用いてそれに対応した現象を起こさせる事を言うんだよね」



「簡単に言えばつたない魔力を持つ者、…まあだいたいは人間ですが、…その魔力の絶対量のとぼしさをカバーする為にみ出された工夫、とどのつまりは"技"なんですよ」



理解したか否か分からない、さきほどから一片いっぺんも変わらない表情で水原さんはお茶を口に運ぶ。

相変わらず隣では種田さんが荒ぶっているが特に気にせず僕は続けた。



「それに対し僕ら魔族が各々おのおの持っている魔法、固有魔法ミラ・マギアと呼ばれるものは生まれつき自然と扱える魔法で────まあ、人で言うところの形質遺伝けいしついでんみたいなものかな?…で、その魔族しか、その家系の魔族しか、扱えない固有のものなんだよ」



「つまりは我々のいう"魔法"は"才能タレント"であり術式も呪文も必要ない代わりにその魔族自身しか扱えない訳ですから他者が使う事は出来n……」



「ちょちょちょ待って!今なんかプリって、なんか出そうだぞ!今、出るっ!」



僕らの説明をいささか雑にぶった切ると急に立ち上がり、そう種田さんが叫んだ。



「何が出るんですか種田 冬火?う◯ちですか?」



「それは我が盟友の方だぞ……」



おいホー◯スの武田 ◯太選手みたいなエゲツないドロップカーブで死球当ててくんのやめろや。



「今度はらさないように至急、トイレに向かってください」



「いやうるさいよ……もう漏らさないから、二度と……!」



ああ、やめて水原さん。

「え?あんたその年になって粗相そそうしたの?」と言いたげなそのいぶかしげな表情やめて。

まるでチベットスナギツネのようなその乾いた目やめて……。



「ま、まあ漏らしたか漏らしてないからはともかく。聖良さんはその固有魔法ミラ・マギアってのは奪われてないんでしょ?だったらあなたが見せてみなさいよ」



「あぁ水原さん、聖良の固有魔法ミラ・マギアはちょっと特殊で……」



すぼぼぼぼぼぼぼふっっっっっ!!!!!!


これは一話目の僕が脱糞だっぷんした時の音ではない。

これは種田さんの手のあたり、丁度魔法を出す練習をしていた、とどのつまり手のひらから出た炎と共に出た音である。


いや10話目だからって1話目のリバイバルしなくていいから──────じゃなくて。



「あっっっつつつ!!ちょっと何よこれあっつ!!炎!炎よこれ炎!!大火事になっちゃうわよねこれ!!大惨事じゃない!!!サ◯ジの足みたいになってるわよこれ!!!!」



「これは逢魔様の持つ7つの固有魔法の一つ……まがうことなき火炎魔法フォティア・マギアの炎……!!なぜ魔族ですらない種田さんが魔王の力を……!?」



「確かにびっくりだけどまずは水原さん助けようよねぇ!!水原さんげちゃうよ!!水って付いてるけど焦げちゃうよ!」



─────数十分後。僕らは一丸いちがんとなって水原家(と水原さん本人)の消化活動にいそしみ、ある程度落ち着いたところで一息おいた。

幸い、今日は水原さんの両親とお姉さんは遅くまで家に帰ってこないらしく、すんでのところで大規模な火災になってしまいそうだったことが露見する事はないとの事。まあある程度コゲはバレると思うけど。



「………なるほど。事情は分かったわ。あなたたちの言ってたことは真実だと言うことも、ね」



水原さんはそれはもう漫画のような見事のアフロ姿(と若干焦げ目がついた)でそう言うと僕らに協力してくれるとの意を示してくれた。

ここまで前途多難ぜんとたなんではあったけど、今実際こうしてみればこれまでの行為(ストーカー、覗き、嫌がらせ、放火)は無駄じゃなかったのかと思えてくる。



「わっはっは!やっぱり私はこの世界に選ばれた勇者だったのだ!さあ我が聖なる炎の前にひれ伏せ愚民ぐみんどもよっ!わっはっはっ!」



えつに入ってるとこ悪いけど種田さん。あんたの家に後日請求書送っとくから払い込みしなさいよ。あ、ちなみに無視したら警察に通報して差し押さえしてもらうから覚悟してちょうだい」



「…………………………」



まあ、なにはともあれこの件は水原さんの協力を得たし一件落着かな。

なぜ種田さんが僕の固有魔法を使えるかは不明だけど(もしかしたら水原さんも、否、他の能力持ちの人も使えるかもしれない?)今はともかく家に帰ることが先決だろう。


水原さん家を後にする頃にはもう七時を回っており、外はすでに漆黒しっこくが我が物顔で自分達の時間だとうそぶいていた。

そんな彼らを優しく包み込むように差し込む月光に僕は少し、得体の知れない不気味さを感じこれから迫りくるであろう困難のその予兆を感じ取っていた。





「躑躅森 逢魔。彼が……"魔王"か……」





☆あれれ?これギャグ・ラブ・コメディじゃなかったの!?──────────



───────────────────────


【登場人物紹介】


●躑躅森 逢魔


魔王の息子で主人公。

10話記念という名目で再び脱糞した記憶を呼び起こされる不憫な魔王様。

明日は明日の風が吹く。



●躑躅森 聖良


逢魔の幼馴染でお付きのメイドさん。

今回は説明回でもあったのでボケは少なめ。

次回はボケマシマシのアブラマシマシのギトギト回にすると意気込んでいるらしい。



●種田 冬火


世界に選ばれた神託の勇者(妄想)。

水原さんに煽られたために魔法を出そうと頑張っていたところプリッと出た。……出た(大事なことだかr)。

ちなみに後日、家に来た請求額はうん十万だったらしい。



●水原 さくら子


スポットライトがついに逢魔たちから周囲のヒロインに移ったため実質ツッコミ役もさくら子にコンバートされた。

そのせいか前々回からの不幸続きで不満が溜まっている。

実はその不満を冬火への請求額に色をつけて(大嘘)発散したらしい。



●ホー◯ス 武田 ◯太選手


宮崎出身のプロ野球選手。

エゲツないドロップカーブを武器に球場を席巻する人。

そのエゲツなさに"武田 ◯太選手のカーブは二度曲がる"と称されるほどに。

最近バットが当たってニュースになってたから心配。



●チベットスナギツネ


「おい!だれか俺の書いた小説に"いいね"しろよ〜〜いいね0件て…読んでる人多いのに…」


「読者の目がチベットスナギツネのように乾いてる〜〜乾いてる〜〜〜乾いてる〜〜」


「……すみません」



●サ◯ジ


「水原 さくら子……一つ覚えとけ。"私のいたずら"は許すのが友達だ」


「いや友達であっても許さないわよ。燃えた家具弁償しなさいよ」


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