第19話:偽装カップルのお家デート?「◎△$♪×¥●&%#?!」
「ねぇねぇ!! 赤点回避したわっ!!」
「ああ、よかったな」
「何よ! もっと彼女の成功を喜びなさいよ!」
「いやー、まじすげー。天才だな、こりゃー。恐れ入ったー」
「ふふん。初めから素直にそういえばいいのよ!!」
勉強会で俺たちは仲直りすることができた。
本当のカップルではないのでその表現が確かかどうかは俺には分からないが、ケンカをしていたのは事実なのでそれでいい。
テストも無事? 終わり、部活にも入っていない俺たちは放課後の時間を持て余している。
この時間を使って、桜庭にもっとアピールすることができればいいのだが、それは難しそうだった。
そう。もうすぐ、六月だ。六月といえば、梅雨……ではなく、運動部ならほとんどの部活で総体の予選が始まる。
全国高校総合体育大会。通称、インターハイだ。部活にもよるが、三年生にとっては引退をかけた最後の大会にもなる。
桜庭はバスケ部に所属しており、二年生ながらエースを担っている。例に漏れず、バスケ部も大会に向けて常にフル稼働で練習を行なっているというわけだ。
そのため土日も練習尽くしで桜庭と会う機会といえば、普通の授業がある日くらいである。まぁ、同じクラスというのは幸いだが、短い休み時間では常にアピールすることなど不可能だし、俺たちにも休息は必要だ。
だが、これはある意味チャンスでもある。俺はそう考えた。
最近の東城はというと、前の俺の言葉が効いたのか、前ほど我がままとは感じなくなった。それでも偶に頑固なところは未だ健在だが、それは東城らしさと言っておこう。
少し、東城も変わってきたようだった。この前なんて、葉月と田崎と三人で出かけたとも言っていた。うむ、いい傾向である。
なんていうか、桜庭を振り向かせるって言うより、東城の改造計画になってないか? なんてことを最近よく思うが、それが桜庭からの好意へ繋がるならそれでもOKだと思うことにした。
「そういうわけで、東城。お前には正しい料理を覚えてもらう」
「……今までが間違ってたみたいな言い方やめてくれない?」
「それで桜庭は喜んでいたか?」
「……くっ」
東城も料理下手な自覚が出てきたようで何より。
あれから幾度となく、東城はお弁当作ってきてはいる。
初めの方は葉月も作ってきたりとお弁当を二つ食べる羽目になり、大変だったが、話し合いの結果、日替わりということに落ち着いた。
葉月はというとすっかり元の実力を取り戻し、美味しいご飯を提供してくれる。その一方で東城は一向に上達しなかった。
「まぁ、料理って言ってもお菓子作りなんだけどな」
「お菓子作り?」
「そう。総体前にお菓子を作って応援しにいってやろうって算段だ。男は単純だからな。手作りお菓子と言われて喜ばないものなどいない。さらには今まで料理が下手だと思っていた幼馴染が一生懸命、美味しく作ってきたお菓子とわかれば、流石の桜庭もイチコロに違いない」
「もしかしてだけど、アンタ天才?」
どこかで聞いたやりとり。やっぱり東城のアホは変わっていないらしい。もはや、嫉妬云々は関係なくなっているが、最終的に桜庭と東城が付き合えば問題ない。彼氏役の俺がいることでより、桜庭は東城のことを異性として意識することになるだろう。
「それで誰がそのお菓子作りを教えてくれるの?」
「……俺だ」
「……は? 聞き間違いかしら。アンタなんかがお菓子作り?」
「まぁ、別に今まで言わなかったが、俺はお菓子作りが大好きなんだ。だから葉月もお菓子は一切作らないし、お願いしても作ってくれない。俺に作れと言ってくるからな」
「へぇ……それは意外ね」
「まぁ、そういうわけで今週の土曜日、俺の家集合な」
「あ、アンタの家!?」
「なんだ? 何かマズいのか?」
「べ、別にマズくはないけど……」
東城は若干顔を赤らめて顔を逸らした。
ああ〜。そういうこと? 東城が恥ずかしがっている理由を理解した。
「安心しろ。家には誰もいないから」
「誰も!?」
なんでまた慌ててんだよ。
親とかに会うのが気まずくて焦ってたんじゃねえのか?
「とりあえず材料は揃えておくから、その日はみっちりしごいてやる」
「わ、わかったわ……」
うんうん。人間素直が一番。
帰り道、東城と途中まで一緒に帰った。ついでに最近の桜庭とどうかと話を聞いたが、勉強会の日からやけに優しいとのことだ。きっと東城が少し変わった結果だろう。
これは、お菓子を渡した時が楽しみだ。桜庭と結ばれる日も近いぞ、東城!
◆
土曜日。
俺はチャイムの音で目が覚めた。
枕元で充電しているスマホのタップして時間を確認すると、午前八時前だった。
土曜日の朝早くから一体誰だ? 葉月か? いや、葉月なら合鍵で勝手に入ってくるか。
寝ぼけ眼を擦りながら、俺はゆっくりとジャージ姿のまま一階に降り、未だインターホンを鳴らし続ける来客に向かって返事をする。
「はーい、今出ますよー!」
ったく。いい加減うるさいぞ。心の中では執拗に鳴らされるインターホンに少し、腹を立てていた。寝起きということもプラスした。
俺は鍵を開けて、ドアを開けた。
「どちら様で──って何してんの?」
「何って、アンタが来いって言ったんでしょ! 早く出なさいよ、全く」
来客の相手は東城であった。
しかし、予定は昼からのはずだ。こんな朝早くに訪ねてくるとは何事か。
「お邪魔するわね」
東城はドアを開けると、ズカズカと勝手に中に侵入した。
リビングの方へと足を進める東城に後ろから付いて行く。
そしてリビングに入り、一言。
「さぁ、やるわよ!」
胸の前で両手で握り拳を作り、やる気露わにする東城。
なるほど、やる気十分ということで朝早くから来たということか。真面目というか、健気というか。よし、そこまでやる気なら──。
「いや、まだやらねぇよ?」
「なんで!?」
やるわけがない。俺は寝起き。
昨日は夜更かししてしまったので今日は東城の来る昼まで寝ていようと思ったのだ。
「当たり前だ。お前と約束したのは昼から。だから俺は昼まで動きません」
「ちょっと、ちょっと!! カワイイ彼女がお願いしに来てるのに、どこ行くの!?」
「寝る」
「ま、待ってよ〜!! 早く来すぎたのは悪かったからぁっ!」
東城は俺に縋り付いてくる。一応、早くに来て迷惑をかけていると言う自覚はあるらしい。
「はぁ、じゃあなんで早く来たんだよ」
「それはだって……陽くんのためにお菓子作りできるって思ったらその……」
はいはい、健気健気。それだけで俺の貴重な睡眠時間を妨げていいと思うなっ!!
朝は低血圧なので俺のテンションは著しく低い。
「ぅぅ……」
おい、泣きそうになるなよ。東城ってこんなに泣き虫だったか? キツい印象しかないから──って結構泣いてたわ。
「はぁ。わかったよ。とりあえず、ソファにでも座ってテレビでも見ていてくれ。俺は朝飯の用意するから」
「え、朝ごはん? 何作るの?」
「フレンチトーストでも作ろうかと」
朝のメニューを発表すると東城は少しだけ目を輝かせた。
「東城も欲しいのか?」
「べ、別に!!」
「なら、俺が作って食べ終わるまで適当にくつろいでてくれ」
俺の言葉に明らかに東城は不機嫌そうに頬を膨らませるとドカッとソファに座った。
そしてテレビをつけて、朝の番組を見始めた。
一方の俺はキッチンに立つ。
卵に生クリームに牛乳。砂糖と準備して食パンを取り出した。
そして卵と生クリーム、牛乳、砂糖を混ぜ合わせ、食パンを浸した。
浸したまま、レンジにかける。表裏合わせて計二回だ。それによってパンによく、卵液が染み込むのだ。
その後は、フライパンにバターを溶かし、パンを焼いていく。
ジュ〜〜〜という、耳障りの良い音が響く。そしてバターのなんともいえないいい香りがキッチン、そしてリビングの方へと立ち込めた。
ぐぅ〜〜〜〜〜〜。
パンの焼ける音と対比して、今度はどこからか間抜けな何かの合図が鳴った。
視線をその音の方に向けると耳を赤くしてテレビを見ている東城が目に入った。
「……」
東城は無言でテレビを見ている。
お? そろそろ焼き上がりだ。何度かひっくり返し、パンにキツネ色の綺麗な焼き目が付いたら……完成!
俺はパンを皿に移し、更に上からバターを載せた。
後はコーヒーを入れてと。ああ、いい香りだ。
低血圧の俺でさえもテンション上げさせてくれる逸品。
早く食べよ。
ナイフとフォークを一緒にダイニングテーブルに持って行き、置いた。
そしてナイフを使って、パンを一口大に切り落とし、フォークを指して口に運ぶ。
「あー……ん?」
大口を開けてそれを口に頬張ろうとした時、視線を感じた。
「……?」
「……ごくり」
視線の主は、こちらを見て、喉の音を慣らした。
「どうした?」
「別に?」
「ああ、そう。あーむ。ああ、うまっ」
俺は次々にパンを切り、口へと運んでいく。俺がパンを口に運ぶ度に、東城の口から小さな悲鳴が溢れた。
……食いづらい。
「はぁ……」
「?」
見かねた俺は、立ち上がりキッチンへと向かう。
そしてコーヒーを入れ、皿とフォークとナイフをもう一セット持って食卓へ戻った。
「ほら、お前の分」
「え!? なんで!?」
こうなることを俺は初めから見越していた。
最初にご飯を作ると言った時の表情からなんとなく、東城は朝飯を食べていないと察したのだ。
俺も東城のことが少しはわかる様になってきたらしい。
まぁ、一応彼氏(偽)だからな。まぁ、ちょっとした意地悪ってやつだ。
「朝食べてないんだろ? お前の分も作っておいたから」
「そ、それなら初めから出してくれればよかったのに……」
「……文句を言うなら食べなくていいぞ?」
「食べますっ! 食べさせてください!!」
いつになく、低姿勢な東城に思わず、笑みが溢れた。
そして東城が切り離したフレンチトーストを口へ運ぶ。
「ん〜〜〜〜っ!!」
「!」
そして頬を緩めた。
その顔に俺は思わず、見惚れてしまった。
そしてすぐにそのことに気がついて俺は、照れ臭くなってテレビの方へと視線を逸らした。
それから東城が幸せそうにそれを平らげるまで俺は、テレビの方をぼーっと見ていた。
朝食と平らげた後、東城は皿洗いをしてくれた。家事のできない東城なので不安だったが、流石の東城でも皿洗いくらいはできるらしい。パリンと聞こえた気がしたが、多分気のせいだ。
「はぁ。お腹いっぱい! アンタって料理もうまかったのね!」
「このくらいふつーだ。ふつー」
「そう? それより、お腹いっぱいになったら眠くなってきちゃった」
「お前何時起き?」
「え? 寝てない」
……なんでだよ。
俺の心のツッコミを意に介することなく、東城は俺の座っているソファの横に座り、体を伸ばした。
「ちょっと寝るから、いい時間になったら起こして」
そう言うと東城は目を瞑った。数分後、東城からは寝息が聞こえてきた。
「まったく、どんだけ楽しみしてたんだか。ふぁぁ。俺も眠たくなってきた……」
俺も睡魔に逆ことができず、そのまま目を瞑ってしまった。
◆
今日私は何かの胸騒ぎと同時に目が覚めた。
第六感とでもいうのだろうか。
まだ、朝日が登り始めた頃。カーテンの隙間から溢れる陽の光が私を照らした。
「ん……まだ、6時……」
完全に目が覚めてしまった。
「こーちゃんの家に行こうかな?」
今日は土曜日。こーちゃんは今日はお昼から予定があると言っていた。どうやら今日もあかりちゃんと遊ぶらしい。一体なにをするのか、教えてはくれなかった。
「気になる……」
私はベッドで寝転びながら、クマのぬいぐるみを抱きしめて呟いた。
そういえば、このぬいぐるみもえらくボロボロになったものだ。決して扱いが悪かったわけではないが、やはり十年ほどこうやって布団のお供として過ごしていれば、多少劣化するのは仕方なかった。
これはこーちゃんがくれたプレゼントだ。
正確にはこーちゃんのお母さんが買ってくれたものだけど。
「こーちゃん、あかりちゃんとなにするんだろーね? くーちゃん……」
クマのくーちゃんは私の質問には答えてくれない。
私はもう一度、くーちゃんを抱きしめ、こーちゃんのことを考えた。
こーちゃんに初めてできた彼女。できれば大切な幼馴染みの恋路、うまく行って欲しい。そう思って、前は仲直りのお手伝いをした。
二人は無事仲直りして、こうやって遊ぶまでになったというのに私はそのことが心の底から喜べていない気がした。
「ぅぅ〜」
くーちゃんに顔を埋め、小さく唸る。
もしかして、私って……こーちゃんが取られて悔しい? こーちゃんのこと……
「〜〜〜っ!! いや! ない! それはないよ!!」
うんうん。ないったらないの! こーちゃんはただの幼馴染みだもん。確かにいつも遊んでいたこーちゃんに彼女ができて、遊ぶのにも中々今まで通りという風にはいかなくなった。
それで一人の時間が多くなったからきっと人恋しいだけ。ただそれだけなのだ。
私は自分の頭に一瞬浮かんだ可能性を即座に否定した。
「あつ……」
私は薄めの掛け布団を蹴飛ばした。
変なこと考えたから全身が熱く感じる。
私は布団から這い出ると1階に降り、冷蔵庫から冷たい麦茶を取り出してコップに注いだ。
そしてそれを一気に飲み干した。
「ぷはぁ!……よし」
体をクールダウンしてから私は決めた。
「こーちゃん家いこっ!」
そう決めてから少しだけ頭がスッキリした気がする。
程なく、私は少しゆっくりしてから準備をし、こーちゃんの家に向かった。
外へ出てからすぐに隣の家の玄関にたどり着く。そして私が持っているこーちゃんの家の合鍵を使う。
ここのところ、無断で入ることは避けていた。
だって……もし……もしだよ? その……こーちゃんとあかりちゃんが×××しているシーンに出会したら……。
「はわわわ……」
時間が経ってクールダウンしたはずの顔に熱が再び灯るのがわかった。
「もうっ!」
何考えさせるの! こーちゃんのバカ!
私は勝手にこーちゃんを悪者にして、玄関のドアを開けた。
「え?」
そしてすぐに視界に入ってきたのは、私のものじゃないローヒール。
こーちゃんに女装の趣味はない。そこから導き出された答えは──。
「あかりちゃん?」
こんな朝早くから? え? な、なんの用かな?
少しだけ心臓の鼓動が早くなる。ま、まさか……?
私は、急速に口が渇く現象に襲われた。音を立てないように、靴を脱ぎ、そっと忍足でリビングまでの道のりを進む。リビングの方からはテレビの音が聞こえてきた。
──ギッ。
「──ッ!」
それでも廊下は私の思うように黙っててくれない。
もう一度、深呼吸をして心を落ち着かせてから足を前に出した。
そしてリビングの扉をゆっくりと開けた。
そして私の目に飛び込んできたのは──。
「あれ? いない?」
テレビはついているのに誰の姿も見えなかった。
なんだ……緊張して損した。
「はぁ……」
私は安堵のため息をつきながら普通に歩いてソファの方へ進む。
「もうテレビつけっぱなしに……して……?」
そしてリモコンを手に取ってテレビを消そうとした時。
「◎△$♪×¥●&%#?!」
ソファで重なっている二人の姿を見つけた。
気づけば自分のものではないような変な声を出していた。
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