偽装カップルから始まるラブコメ 〜クラスメイトの恋を叶えるために偽物の恋人になったら昔俺をフった幼馴染が妙な反応を見せてくるんだが〜

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第1話:俺と幼馴染の関係「ほれほれ〜」

 俺には好きな人がいた。


 その人との関係は一言でいえない、そんなタダれた関係だ。嘘だ。親同士の仲が良く、家も隣同士で昔からの馴染みという……まぁ、幼馴染だ。


 幼馴染と言えば、男にはみんな一度は憧れるシチュエーションがあるのではないだろうか。


 例えば、登下校を毎日一緒にするとか。

 家が隣同士でベランダ越しに会話をするとか。

 自分がいない間に部屋で幼馴染が勝手に寛いでいるとか。

 幼い頃、将来を誓い合っているだとか。


 そんな昔から一緒にいた一番の異性と青春を過ごし、恋人になり、そしていずれは結婚する。そんな未来を想像、もしくは妄想したこともあるのではないのだろうか。


 俺はというと確かに上記に挙げたことを大体は網羅している。だから、俺もその子と将来そういう仲になると信じて疑わなかった。


 でも現実はそんなことはない。


 確かに俺の幼馴染は、誰もが目を引くような美少女で俺の部屋にも問答無用でやってくる。

 だけど、俺と彼女の関係はあくまで幼馴染の関係なのだ。


「ああ! こんなところにエロ本見っけ!」

「おい、こらやめろ」

「ああっ!!」


 わざわざ、俺のベッドの下を漁って取り出したその本を俺は没収する。

 俺にプライベートというものは存在しない。幼馴染はいつも自由奔放だった。


 そんな幼馴染に俺も好意を抱いていたことがあった。しかし、これはあくまで過去形。つまり、今は微塵ほども異性として意識はしていない。


「もう、こーちゃんはおっぱい星人だなぁ! ほら、これがいいのかっ!」

「こ、こらやめい!! 当たっとるわ!!」

「ほれほれ〜」

「っ!!!!」


 ホラ、イシキシテナイ。


 しかし、俺のそんな意識とは裏腹にこうやって俺の背中に無駄に成長したおっぱいを押し付け、俺をからかってくるものだから困っているのだ。意識していないとは言ってもやはり、女性の体。そんなことされれば、男の本能が目を覚ましかねん。


「ったく。そんなことしてたら襲われても知らねぇぞ?」

「大丈夫! こーちゃんにそんな度胸ないから!!」

「……」


 おそらくFカップ(俺推定)はあるであろう大きな果実を前に張りながら、腰に手を当てて葉月はそう言った。


「俺にそんなことする暇があったら、彼氏の一人でも作ったらどうだ? 引く手数多だろ?」

「ええ〜? 確かにモテるけど、私が彼氏作っちゃったらこーちゃんがかわいそうじゃん?」


 哀れな目でこちらを見てくる彼女。口を押さえてこちらに指を差し、ププーと笑っている。


「うっせ、ばーか」

「あ、もしかして私のこと意識してる? ダメだよ。私、こーちゃんとはそんな関係なれそうにもないしね。こーちゃんは弟みたいなものだしっ!」

「俺だって今更そんな気ねーよ」

「ああっ! そんなこと言うんだー。お姉ちゃん寂しーぞー」

「どっちだよ! わかったから引っ付くな、鬱陶しい!!」


 俺はまた、背中に伝わる柔らかさを堪能しつつも、彼女を必死で引き剥がすのであった。

 というかなんで告白してもないのにフラれてんだ、俺。



 彼女、涼宮葉月すずみやはづきは俺の幼馴染だ。

 葉月は誰もが知る我が若水高校のアイドル的存在でもある。


 成績優秀で容姿端麗。おまけ運動神経も抜群だ。そして快活で性格の良い彼女は、学校中の男子を虜にしている。

 入学した時から告白が絶えず、二年になった今でもチラホラと告白の噂を聞く。


 そんな彼女もなぜか俺の前では非常にだらしない姿を見せている。


 まぁ、彼女にとって俺は気のおける人物ということなのだろう。

 それでも未だに、なぜ彼女が彼氏を作らないかは不明である。


 聞けば、「そんなのめんどくさいじゃん」ということらしい。


 めんどくさいってなんだよ……。


 俺はというとそんな葉月のことが好きだった。

 しかし、それは中学校までの話。

 昔から一緒にいた一番近い少女に恋心を抱くのにそう時間は掛からなかった。そして思春期を迎えるに連れて加速していったその想いを俺はついに爆発させ、中学の時、葉月に告白したのだ。


『ずっと好きだった。付き合ってくれ』


 その時の俺は愚かにも確信していたのだ。俺と彼女の付き合いだ。今までも一緒にいたし、これからも一緒にいる。将来も誓い合った。これが自然なことなんだ。だから返事はきっとOKだ。ってな。


 だけど彼女から返ってきた言葉は俺が期待していたものとは全く別の言葉であった。


『え? ごめん、付き合うとかは無理かな』


 開いた口が塞がらなかった。どうにかその口を塞ぎ、言葉を紡ぎ出して理由を聞いた。


『だって、こーちゃんは世話の焼ける弟みたいなものだし、そういう感じには見れないかなって』


 誰だ、幼馴染属性最強とか言っていたヤツは!? そんなのあり? 近すぎるが故に異性として見られない。そんな落とし穴に俺はハマった。


 しかし、そんな告白をしてからも俺と葉月の関係性は変わらなかった。

 今まで通り、朝は起こしにくるし、一緒に登校するし、家に帰れば俺の部屋で一緒に遊ぶ。


 葉月には振ったのにどういうつもりか聞いたが、返ってきた言葉は「なんで? 幼馴染でしょ」という一言。

 幼馴染って一体……?


 あの時の俺の絶望感と喪失感といえば今でもはっきりと覚えている。


 それでも時が経てば、心というのは癒えるもの。多少近くにいようが、距離感が近かろうが、俺はもう幼馴染の葉月のことを異性ではなく、ただの幼馴染としてしか見なくなっていた。最初は気まずくて仕方なかったけど。


 今では昔の思いも引づることなく、良き隣人として仲良く過ごしている。


 たまに学校の連中に「付き合ってるのー?」とか、「まるで夫婦だね!」とか茶化されるけど、葉月は完全否定している。


「私が、こーちゃんと? ないない」ってな。

 俺こそ、「葉月となんか付き合わねーよ」と軽口を叩く日々を過ごしていた。


 どうやら、この腐れ縁から脱出するためには俺も恋人を作らなければいけないらしい。


 だけど、どうも居心地がよくも感じてしまう。だから俺も彼女が欲しいと思いつつもこのままでもいいと思っていた。


 こんな俺たちの関係が変わってしまうことなんて、春休みの今、想像もしてなかっただろう。

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