【三月二十六日】
掃海隊は家族のようなものだ。掃海隊に限った話ではないが、なにかあれば必ず誰かがすっ飛んできて援助してくれる。もちろんその逆もしかりだ。隊も一つひとつが小規模であるためか基本は隊ごとに相部屋であるが、掃海艦と管制艇には一人部屋が与えられている。しかし、管制艇で一人部屋であるはずの俺の部屋でこの一年間当たり前のように生活している輩がいるのだ。そして、その輩……久哉は今晩も気持ちよさそうにイビキをかき眠っている。
「……狭い」
そう、狭いのだ。ただでさえ広くはない部屋に俺と久哉、さらに今日は長哉までもが並んでいるのだ。いくら小柄な掃海艇といえども許容できる狭さではない。
「弓、去年よりは広いだろ」
ボソリと低い声が耳朶に響く。
「久ちゃん、起きてたの?」
「ん、弓が文句言ってたから起きた」
久哉はゴソゴソと枕元を探り一本の煙草を取り出した。
「弓、ジッポない?」
「多分この辺……久ちゃん一本ちょうだい」
「はいよ」
久哉から煙草を受け取りジッポで火をつける。そして今度はジッポを久哉に渡せば、久哉も慣れた手つきで火をつける。二本分のタバコの光が暗い部屋に灯る。各々の煙草から出た青白い煙が天井へ登っていく様子がはっきりと見えた。
「久ちゃん」
「なに?」
「よっちゃんは明日来てくれるの?」
「多分来るよ。【ニシノ】が特別にこの部屋だけよっちゃんとこの【道】と繋げてくれるってさ」
「部屋からは?」
「出られないって」
「……掃除しようね」
「はい」
久哉が重いガラスの灰皿に灰を落とす。たったそれだけの音もこの狭い部屋ではよく聞こえた。
「灰皿」
「はいよ」
軽薄だが温かみのある声、布団同士の擦れる音、煙草の煙を吐き出す息の音、兄の生きる音がする。それもあと一日だと思うと、胸の奥がほんの少しだけ痛んだ。
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