【三月二十四日】
「【くめじま】、いるか?」
「いるぞー」
【多用途支援艦】のような賢そうな声がしたと思ったら、襖を開けたのは【げんかい】だった。【多用途支援艦】独特の真っ黒な服で神妙な顔をしているのでなんだか通夜のような雰囲気だが、通夜は今日ではない。
「どしたの?」
「いや、ちょっと注意をしに」
「なんの?」
【げんかい】は意を決したようにひとつ息をついて口を開いた。
「二十七日の夜、この家から【座敷童】の本邸への移動の際のことだが……単の下にズボンと靴下を履くのは禁止だ」
「……ズボン、ダメだったの?」
「ダメというより、俺が嫌だ」
なにかを思い出しているのであろう、【げんかい】の顔が苦々しく歪む。
「まえじまの……おっさんの脱ぎたてのズボンと靴下……ずっと持たされてた」
「愚兄が申し訳ない」
昨年の兄の愚行をほぼ一年経った今、弟の俺が謝るなんて夢にも思っていなかった。そして密かに真似をしようとしていたのに釘を刺されてしまった。
「ズボンと靴下はやめとくな」
「そうしてくれ……」
「外套ならいいだろ?」
「却下」
【多用途支援艦】の頭は固いこということを俺は二十四歳にしてようやく知ったのだった。
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