第10話 ここで、最初の厄介事にあったハナシ

 店に流れこんできたのは、猟銃らしきものを構えた男たちだった。

 数は4人。

 身なりは整っているし、客たちの反応からみても賊の類いではない。ということは警備の人間か。

「おいお前。そこを動くな」

 とはどうやらわたしのようだ。

「こんばんは」

「は?」

「初対面だし。まずは、挨拶でしょ。僕はクラウン・セマム」

「ここの保安官のマニックスだ。ネイスを運んできたっていう余所者はお前か?」

 なるほど保安官か。確かにそう言われると服装もそれを彷彿とさせている。

「それなら僕だね保安官さん。一応聞くけど、それは人を殺す道具?」

 明らかに銃に見えるが、確認するに越したことはない。

「この村を守るための道具だ。妙な真似をすれば、躊躇わず引き金を引くぞ」

 銃口をこちらに向け、引き金に手をかける。銃であることは間違いないようだ。中世頃の文明と思ってたが、開拓時代ウェスタンが近いかもしれない。

「随分と余裕だな」

 わたしの様子を見て忌々しげに言う。

 殺しの道具を向けられるのにだけなのだがな。もしかすると先の質問も挑発と思われたかもしれない。

「いや、いろんな形で村だと思って。新しい服に、名品の酒、そして今度は銃だ」

「酒?」

 そこで、わたしの持っているものに気づいた。

落陽酒ヒューダラーズを出したのか?」

「客に出すのが問題か?」

 バーテンは明らかに不快さのこもる声で返した。

 見れば、店内の客も一様に煙たそうな目を彼らに向けている。村の守り人でありながら、あまり慕われてはいないようだ。

「ちょっといいかな?保安官」

「何だ?」

「本題に入る前に、このグラスを置いていいかな」

「何でそんな事を聞く?」

「動くなって言ったじゃん」

 そばで見ていたジャイロがくっと吹き出した。保安官はそれにひと睨みしてからー

「とっとと置け」

「できれば、呑み終えてからでいいかな?それとも保安官飲む?」

 その提案に保安官は一瞬躊躇うもー

「いいから。とっとと済ませろ!」

「ありがとう」

 お言葉に甘えて残りを一気にあおり、グラスを置いた。

「最高だね」

「当然だ」

 得意げにバーテンが言った。

「それで、僕になに用かな?」

「話がある。事務所まで来てもらうぞ」

「おい。ちょっと待て」

 ジャイロが間に入ってきた。

「それって連行だろ。どういう事だ?こいつはネイスを助けた恩人だぜ」

「死にかけのあいつを運び込んだだけだ。医者の話ではマンガス団に襲われたらしいが、そう言ってるのはこの余所者だけだ」

「こいつの話を疑うってのか?」

「信じる根拠がどこにある?高い酒を飲んだからか。じゃあ、安酒続きのお前も疑わしいな」

「何を!」

「待ってくれジャイロ」

 わたしは彼を宥め、改めて保安官に向き合った。

 どうやら、彼のこの言葉を選ばない物言いが彼らの態度の理由のようだ。保安官としての地位を全面に出した高圧的な態度もそれに拍車をかけている。だが、守り人としての役目は、きっちりこなしているように見える。正直な話、も思っていたところだ。

「分かった。一緒に行こう」

「おい。何言ってんだ!?」

「ジャイロ。唯一の目撃者であるネイスから話を聞けない以上、保安官が疑いを抱くのは当然さ」

「クラウン。お前はこいつを知らねえだろ。疑わしきはとりあえず牢にぶち込むような野郎だ。俺も何度蹴り入れられたか分からねえんだぞ」

「酔って暴れた事を忘れたのか?」

「それじゃあ、仕方ないね。僕はおとなしく行くから、蹴るのは勘弁してもらえる」

「…なら行くぞ」

 マニックスは後を部下に任せると先に店を出た。素直な態度に、毒気を抜かれてしまったようだ。

「クラウン。俺は信じてるぞ。ネイスが起きたらすぐ知らせに行くからな」

「ありがとう。ジャイロ」

 どうやら彼は、酒癖を抜けばいい人間のようだ。の。

「おい。忘れ物だぞ」

 バーテンが、いつの間にかお金を入れ直した巾着を持っていた。

「…取っといてもらえますか?後で、憤牙牛レイジブル肉焼きステーキセット頼みに来ますから」

 そう言い残して出ようとしたが、ふと思いつき-

「そういえば、バーテンさん」

「何だ?」

「名前をまだ聞いてませんでした」

「俺か?ウォーレンだ」

「ありがとうウォーレンさん。また来ますね」

 わたしは保安官たちに連れられ、酒場ア・トール亭を後にした。

 久々だなこの感じ。

 のは30年は前だったかな?

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