第6話 ここで、最初の村に着くまでのハナシ

 そこ街道は舗装らしきものはなく、長年の人の行き来によって踏み慣らされた道が伸びているだけだったが、それでも、草生い茂る森よりかは遥かに楽である。

 しかし、頼みの案内人は気を失い、立て札ひとつない道を進むのは、いささか不安を掻き立てられた。

 さらには、彼を襲ったという賊マンガス団の存在もある。しかし気のせいか、森を抜けてから肌をさか撫でるような感覚得体の知れない敵意も消え、警戒も緊張も沸き起こらなかった。

 ここも、ひと目に付きやすいというだけで、決して安全な場所とは言えないのに、この差は何だろうか?感覚が鈍るほど耄碌した覚えはないんだが。

 周囲への警戒を続けながら、わたしはネイトにチラりと目を向ける。

 かすかに息を感じるが、猶予は少ない。

 街道を踏みしめる両足にさらに力を込めながら、わたしは彼を観察もしたから情報を得た

 服装は血で汚れてしまっているが、着ているのはわたしと同等のものだ。彼の身分は断言できないが、おそらく一般的な格好と考えてよさそうだ。

 ただ、手ぶらのわたしと違い、背中には革製の袋を背負い、腰には鞘が下がっていた。直線的な形状から、刀ではなく剣の類いだろうが、肝心の剣がない。

 賊に襲われた際に失くしたのだろうか。

 彼の外見や印象からして、戦士には見えない。

 武器が必要な場所世界というわけか。

 文明の進度で言えば、わたしがいたところよりも数段は前だろうか?

 法は有れど、無法がまかり通る。

 若い頃を思い出すな。

 あの時は、わたしが死にかけの状態で担がれていた。

『大丈夫か?もう少しだ!』

 ふと、耳のなかであの時の声が甦った。

 闇に溶けそうだったわたしを、必死に励ます親っさんの声だ。

 いくつ目かの丘を越えたところで、遂に村らしきものが見えてきた。

「大丈夫か?もう少しだ!!」

 思わずそう叫んでいた。

 それが、彼を繋ぎ止める光となることを願いながら。

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