第4話 彼女の穴
僕は彼女を愛している、確かに愛している……彼女との付き合いはもう何年になるだろう、幼馴染みとして隣同士の家に同じ年に産まれ、そしてずっと同じ時を過ごして来た。
幼き日々は互いを愛しているなどと云う、そんな感情を知る由もなく……ただ自然に彼女の隣には僕が、僕の隣には彼女が存在していることが、僕にとって……そして彼女にとっての日常であり、ごくごく自然な生活習慣であった。
僕と彼女の両親も隣人として仲が良く、いつの日か僕たちが結ばれて……互いが互いの姻族となることを望んでいるフシもあったようだ。
そんなこんなで僕と彼女は同じ幼稚園に通い、同じ小学校、そして同じ中学校、それに加えて学力の
その頃になると僕は彼女のことを異性として意識するようになり、彼女もまた僕のことを憎からず想ってくれていたようだ。
周囲の応援と祝福のお陰か、僕と彼女は高校一年生の夏から交際を始めた。
僕たちの存在は、僕が生きる
口さがない悪友たちからは『産まれてからずっと一緒に居る女の子と付き合って、飽きたりしないのか?』とか『喧嘩して顔も見たくない時に、隣に彼女が住んでるとかって地獄じゃね?』などと囃されたが……悪友たちの質問は僕にとって的外れな物であり、答えに窮するような問いであった。
そう……毎日のように顔を合わせる彼女だが、その毎日が僕にとっては新鮮な驚きであり、彼女が見せる昨日とはまるで違う表情に……僕は毎日のように恋に落ちているような気分を味わっていた。
そして……僕と彼女は永い時を、余りにも永い日々を共に過ごして来たためか、精神的な一卵性双生児とも云うべき
それから更に年月が過ぎ、僕と彼女は大学生となった。
さすがに大学までは同じと云う訳にも行かず、僕と彼女は初めて別々の
その頃から彼女にある変化が現れ出した、彼女は何故かボディピアッシングに目覚めたのだ。
最初は普通に両
耳ですら両
そして耳だけに飽き足らず、彼女の信仰とも云うべきボディピアッシングは……その
顔だけでも
その頃には彼女と彼女の母親の間でピアスについて一悶着あったようだが、彼女は頑なに彼女のピアッシング信仰を止めることはなかった。
僕はと云うと、彼女の顔にチタニウム製のピアスが増加することについて……否定的な意思はなく、彼女の魅力を更に際立たせる物として歓迎していた。
そして躰にも
そして四肢にもピアッシングは攻め込み
そして遂に、僕と彼女が二十歳になった日……僕と彼女は名実共に結ばれたのだ。
お互いに初めての
そして……二人が全裸で横たわった時に、彼女が私に幸せそうな
「やっと……あなたから最後のピアッシングをして貰ったわ。
私はずっと待っていたの、あなたの
私……産まれてから今日までずっとあなたと一緒にいられて、本当に幸せだって感じているの。
これからもずっと、ずうっと私のピアスでいてね……約束よ」
彼女の言葉に僕は雷に打たれたような衝撃を受け、そして僕が産まれた意味と……彼女に惹かれ続ける意味を全て悟った。
僕は彼女を彼女として創造するための
これからの僕の人生は、彼女のために創造する
そう決意を新たにした僕は、愛する彼女に更なる悦びを与えるために……彼女の躰を再びそっと抱き寄せた。
【Her's pit:完】
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ピアッシングとは本来医療行為であり、実際に医師免許を持っていないピアススタジオの経営者と従業員が、医師法違反の罪で逮捕されたという
病院以外で金銭を支払って開けるピアッシングは、医師法に明らかに抵触しているということだ。
なお、自身で穴を開けるピアッサーを使用してのピアッシングも、筆者はお勧めしない。
自分で自身の躰に穴を開けることを止める法律など存在していないのだが、医療行為であるピアッシングを、国家資格である医師免許も所持していない自分が行うことのリスクについて……事前に知っておくべきだ。
作中にも登場したニードルによるくり抜き式のピアッシングは、多少高額ではあるものの……仕上がりと予後の良好さから云って、最も有効なピアッシングの手法であろう。
2021.4.4
澤田啓 拝
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