第2話 空白の一日
突き抜けるように晴れ渡る青い空、雲一つない明るい青い空、僕はこんな空を見上げられる日をずっと待ってたんだ。
僕の国はもう何十年もの間、僕が生まれるずっと前から隣の国と戦争をしてた。
そもそも戦争が始まった理由すら、僕のお祖父さんにも思い出せないような些細なモノだったらしいよ。
有り体に云えば『隣に住んでるヤツ等は何となく気に喰わないヤツ等だ』程度の理由だったみたい。
隣の国の
同じように僕らの国の
でも……今日は、今日だけは違うよ。
世界の警察官を気取ってる
そして今日は僕の国とお隣さんの
それもこれもTVニュースの受け売りだから、僕みたいな子供にはサッパリ訳が判らないのだけれども。
定刻になると僕たち家族はみんなでTVの前にかじりついて、僕らの将軍と隣の国の偉いおじさんが握手をする映像を見つめてた。
そして二人が宣誓書類とか云う紙切れに、順番に仲良さそうなフリをして……一つの万年筆で
今までずっと防空壕に息を潜めて暮らしていた僕たちは、少しでも声を上げると周りの大人たちに怒られてたのに……大人は自分勝手に騒ぎ出して、ちょっとばかりズルいよね。
大人たちは我先に外へ飛び出すと、みんなみんな笑顔で大騒ぎしてた。
僕のお父さんとお母さんは、抱き合いながらダンスをしてるし……隣の家のおじさんは、空に向かって猟銃を撃ちまくってる。
僕も大人たちに釣られて、外に飛び出して跳ね回って眩しい空を見てたんだ。
僕たちはみんなみんな笑顔だった、明るい春の陽射しの中で……久しぶりに訪れた平和の味を全身で味わってたんだ。
その時……誰も観ていないTVの映像の中では、爆発が起きて僕らの将軍と隣の国の偉いおじさんと大国の代表者を一緒に、木っ端微塵に吹っ飛ばしたんだ。
直後に何発も銃声が響き渡り、TVカメラのレンズを破壊して……中継映像を切ってしまい、TV画面をただの真っ暗なガラスに変えてしまったってさ。
僕らはそんな出来事に気付くことなく、笑顔で歌い踊って銃声を晴れた空に響かせてた。
それからほんの数十秒後、僕たちの平和な青空にキラリと光る何かが飛んで来たんだ。
僕たちにとって預かり知らないことだったけれども、僕たちと同じように笑顔で歌い踊っていた隣国の大人たちや子供たちの平和な青空にも……キラリと光る何かが飛んで来たらしいよ。
その小さな輝きは、やがて大きく強い光の奔流となり、僕たちを、そして隣の国の僕たちみたいな人たちをみんな包み込み……音のない轟音と衝撃のない爆発で影も残さないぐらい徹底的に消し去ってしまったんだ。
そして僕の国と隣の国はこの地上から消え去り……歴史書の中にだけ存在する言葉だけになって……永劫に未来への時を刻むことを止めたんだ。
【Armistice Day:完】
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※
そして
Veninum Lupinumとは即ち、
2021.4.2
澤田啓 拝
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