2年生編 第34話

 何だよこの最初から一択の質問は。


 せっかく逃げ道が出来たかと思ったら一瞬で塞がれてしまった。


 え…、これから余は九重菫のことを下の名前で呼ばないといけないのか?


 一年間九重菫と呼んできたのに今日変えてしまうのか?


 え〜九重菫って言いやすい方だったというのに。


 これで呼ばなかったらこいつはまた怒ってしまうのだろうか。


 こいつが人を怒ることってあるのだな、余が初めてではないか?こいつを怒らせたの。


 そうだったら感謝してほしいものだ、忘れていたこいつの怒りの感情を余が吐き出したのだから。


「余は認めないそんな卑怯な二択を」


「認めなくて良いんですよ。ただ、宇野さんは私の下の名前を呼べば良いんですよ」


「別に呼ばなくても良いだろ。そんな大切なことじゃないだろ」


「私にとっては大切なことなんです!何で分からないんですか!」


 本当に大切なことか?どうでも良いことじゃないのか?


 もしかしてこの状況でこの大切さが分かっていないのは余だけか?


「そもそも何で大日向さんのことを知っていたんですか?普通は関わることがないじゃないですか?」


 そうだよな、普通はあんな奴とは関わらないのだ。


 なのに、関わってしまったのだ、あいつが余に勝てば友達ができると思っていたアホだからな。


「あいつは余に何か勝負に勝てば友達ができると思っていたんだよ。それでなんとなく関わっていただけだ」


 今の話をして改めて金髪はアホだな。


 余に勝負に勝てば友達ができると思っているとか、そんな考えができるのはやはり金髪だけだな。


「え〜あの子普段どんな生活を送ってきたのでしょう?」


 余の言葉を聞いて九重菫は若干引いていた。


 良かった、あいつが異常だと思っているのは余だけではないよな、やっぱり変だよな。


「あ!思い出しました」


「ん?」


「だから大日向さんと野球とか色々なことをされていたんですね」


「見てたのか」


「見ていたというか、噂で聞いてました。宇野さんが変な人に絡まれているって話を」


 じゃあ助けてくれよ、と言いかけたがやめておいた。


 これで助けにこられると魔法少女の数が増えるだけだからな。


「とりあえず余と金髪の関係なんかこんなものだぞ?」


「宇野さんと大日向さんの関係はよく分かりました」


「特に何もなかっただろ?」


 なぜ余が浮気をしたみたいな感じになっているのだ。


「じゃあ下の名前で呼んでください」


 じゃあって何だよ、じゃあって。


「それは考えておく」


「何でですか?!」


「九重菫の方が呼びやすいからだ」


「私は宇野さんの感覚が分からない」


「余もお前の下の名で呼ばれたい感覚が分からない」


「何でなんですか〜」


 こんなことでそんな落ち込むなよ。


「まぁ気が向いたら呼んでやるから」


 余の言葉を聞いた九重菫はふふっ笑う。


「ずっと待ってますから」


 期待するなよ。




 ***


 

 やっと家に着いた。


 1人で帰るのと誰かいるのでは帰る時間がだいぶ違う。


 早く家に入ろう。


 ガチャっとドアを開ける。


「あ!おかえり宇野くん」


 おい、なぜ桜井莉緒がいるのだ。

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