第113話

「あれ?そんな言葉遣いでした?」


「普段はこれなんですよ」


 こいつらは毎回聞いてくるが誰かが話せよ!あの二人の誰かがこの事を話せば毎回この事を余が説明しなくて済むのだ。


 絶対に話題にはなるはず何だよ、あんな強い言葉遣いから丁寧な言葉遣いに変わっているのだから。


 ちょっとは余のことで盛り上がれよな、普段こいつらは何を話しているのだ。


「そうなんですか…」


「そうなんですよ」


 もしかしたらこいつが忘れているだけかもしれない。


「なぜ変える必要があるんですか?」


「兄がいるからです」


「お兄さんがいるんですか!」


 本当に知らないのかよ、本当に余のことを話題に話をしていないのだな。


「兄は怖い人なのでいつもこの言葉遣いなんです」


「そうだったんですね」


 架空の兄が引きこもりで怖い人になってしまったではないか。


「そうでした、ナイトメアさんはここで何をされていたのですか?」


「ただこの島を歩き回っていただけですよ」


「本当ですか?」


「本当ですよ」


 疑うなよ、さっさとどこかへ行けよ!


「そうでしたか、呼び止めてしまってすみませんでした」


「良いですよ、気にしないでください」


 普段もこんな感じで宇野の方の余にも接してくれたら余は嬉しいんだがな。


 九重菫は踵を返し、また山菜を採りに戻る。


 はぁ〜、近くにいるから今回だけは教えてやるとするか。


「ちょっと待ってください」


 余は一歩踏み出して九重菫の腕を掴んだ。


「え!どうしたんですか?」


 九重菫が驚いた表情で余を見つめる。


「その今持っているこれは食べられませんよ」


 余は九重菫が持っていた食べることが出来ない山菜を取りあげた。


「良かったですね、これでお腹は無事ですね」


 はいはい、もう取ってあげたからさっさとどこかへ行け。


「ちょっとごめんなさい。一つ質問して良いですか?」


「何ですか?」

 

「宇野章大って人を知っていますか?」


 


 ビクッッッッッ!!?!


 は、は、は、は、はぁ?なぜそこで余の名前が出てくるのだ。


 ちゃんと敬語も使って、余の要素を省いたはずなのになぜこいつは宇野を感じたのだ。


「いや、知りませんね」


 何とか冷静を装って返事をする。


 いや、頭の中はパニックが起こっている。


 桜井莉緒も高宮千沙もなぜ仮面もして、敬語も使っているのにバレてしまうのだ。


 あと、こいつちゃんと余の下の名前を覚えているのだな、余でも忘れる時があるというのに。


「そうですか…、残念です」


 九重菫は少し俯き、悔しそうな顔をする。


「ピンクとレッドもその宇野って人のことを言っていますが、僕は宇野って人に似ているんですか?」


 これは単なる疑問だ、今の余のどこに宇野を感じているのかを聞きたい。


「う〜ん、なんでしょうね、理由らしい理由なんか無いんですよ。でも、分かるんです。今間違えましたけど」


 それはやばいな、それだと余の打つ手は無いな。


 じゃあもう言葉遣いを変える必要無かったじゃないか、結局こいつらはなんとなくで宇野を感じるのだから…。


「その宇野っていう人が大好きなんですね」


「はい!」


 即答するなよ、馬鹿。


「じゃあお互い気をつけていきましょうね」


「そうですね」


 余は再び島の探索をしに、九重菫は山菜採りに戻った。


 本当にやばいなこいつらは、感じるだけで宇野の名前が出るということは、もう少しでもヘマをすれば一瞬でバレてしまうかもしれない。


 はぁ〜、気の抜けない無人島生活だ…。

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