第97話

 なぜか急に泣き出しやがったおかげで変な目立ち方をしてしまった。


 とりあえず目立ちたくないから桜井莉緒の腕を引っ張って、人目の無い所へと移動している。


 余がいつも昼飯を食べている体育館裏の所へと移動してきた。


 周りを見たが誰もいる気配が無かったからここで桜井莉緒を座らせて一旦休憩をする。


「そろそろ泣き止んだか?」


「うん…」


 泣き止みはしたがどこかいつもの元気はないようだ。


「元気出せよ、いつもはウザいくらい元気なんだから」


「ウザいんだ!」


 ガーン!という効果音が聞こえるくらい桜井莉緒は凹んでしまった。


 というか、ウザい自覚はなかったのかよ、あんなに余に絡んできて。


 桜井莉緒はまたさらに元気がなくなってしまった。


「もしかして反抗期なの?」


「だからお前は余の親か!」


 だからなぜこいつは余の親ぶるのだ。


「もう今日は元気出ない…」


 はぁ〜面倒くさいなぁ。


「だから元気出せよ!せっかくの祭りなのだから」


「じゃあよしよしさせて」


「は?」


「だからよしよしさせて」


「な、何を言っているのだ?」


 よしよしさせてと言ったのか?こいつは。


「よしよしさせてくれたら私元気出るのになぁ」


 こいつは普段からそういうことをやろうとしてくるから毎回余はなんとか回避している。


「だったら一生元気なんか出すな」


「あー、ちょっとだけで良いから、ね?」


「そんなことちょっともいっぱいも同じなんだ

よ!」

 

 そんなことやられた時点で余の尊厳は無くなってしまうからな。


「お願いお願いお願いお願いお願い〜」


「無理だ」


 何をこいつはよしよしごときで必死になっているのだ。


「じゃあジャンケンに勝ったらやらせて」


「やらん!」


 なぜジャンケンの勝敗でよしよしを賭けなくてはいけないのだ。


 それに余には何もメリットが無いではないか。


「へぇ〜私に負けるのが怖いんだ?」


「は?」


 とうとう桜井莉緒までもがそう思うようになったのか、残念だ。


 余は負けたことが無いのだ。


 ジャンケンごときで余が桜井莉緒に負けるわけがないだろ。


「いいだろうその安い挑発、受けてたつ!」


「よし!」


 桜井莉緒はガッツポーズを決めた。


 何をガッツポーズをしているのだ、お前は今から負けるのだからな。


「じゃあいくよ!」


「「ジャーンケーン


     

     ポン!」」


 

 余 パー        チョキ 桜井莉緒



「やったー!勝った勝った!」


 


 なん…だと。


 余が負けた…だと。


 夢か?それとも幻を見ているのか?


 この余が負けることなどあるのか?


 未だに状況が理解出来ない。


「じゃあよしよしさせてね」


「お前、何のイカサマを使ったのだ?」


「?何言ってんの?ただのジャンケンだよ?」


 ふっ、勝ってもタネを明かさないとはな、こいつは良いマジシャンになれるな。


「じゃあ、よしよしさせてもらうね」


「仕方ない、勝負だからな」


 余は大人しく桜井莉緒に頭を差し出す。


 

 ナデナデッ


 ナデナデッ


 ナデナデッ


 ナデナデッ


 ナデナデッ


 ナデナ


「おい!いつまでやっているのだ!」


 黙って撫でられていればこいつは、ずっとナデナデッナデナデッ、しやがって。


「ずっと撫でやがって、ちょっとだけに決まっているだろ!」


 こいつは限度を知らないのか?


「あれ?確か宇野くんこんなことちょっともいっぱいも同じって言ってなかった?だったらいっぱい撫でても良いよね?」


 ぐっ、確かにそんなこと言っていたような…。


 まさか自分の発言で首を締めてしまうとはな。


「じゃあ次は抱きつきながらやらせてね」


「それはなぜだ」


「どうやってよしよしするかは私が決めることだから」


「そんなことは聞いてないぞ」


「え〜?宇野くんが負けたのに口答えするんだ?」


 こいつは本当に嫌なことを言ってくる。


 余にたまたま勝ったからって偉そうにしやがって。


「本当に今回だけだからな」


「じゃあ」


 桜井莉緒が余を抱き寄せた。


 身長は余の方が高いから少し余が屈まなくてはならない。


 抱き寄せているせいでこいつのにおいする。


 こいつの家に行った時の部屋のにおいがする。


 全く…、これの何が良いと言うのだ、それにこいつの母性はどこから出てくるのだ。


 一気に疲れが溜まってきた。



 まだ1日目の午前だぞ。


 

 





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 異世界に転生したからチートで無双してモテモテな異世界ライフ! ……って思ってた時もありました

という作品も書いているのでぜひ見てください。

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