第75話

「今のはそっちだからな」


「いや、そっちだから」


「違うな、お前だ」


「絶対に私じゃない」


「余だって違うから」


「私でもない」


 今余たちは二人三脚の練習をしているのだが、お互いがお互いの罪をなすりつけあっている。


「そもそもお前が余に合わせたら良い話なのだ」


「いや、合わせれるか!」


「じゃあどうするのだ」


「あんたが私に合わせるの」


「無理だ」


「無理じゃなくて嫌なだけでしょ」


「はぁ〜お前がもっと速く走れればなぁ」


「あんた電車より速いのに無茶言わないでよ」


 新幹線と良い勝負するくらいだからな、電車なんかには負けない。


「じゃあお前が電車より速く走れば良いだろう」


「普通の人間がそんなことが出来たら今後電車がいらなくなっちゃうわ」


 それもそうだな、電車より速く走ってしまうと電車いらないな。


「あんたが私に合わせるの、絶対に。分かった?」


「あぁもう分かったよ」


 こんな不毛な話し合いをしていても仕方ない、さっさと練習するか。


「じゃあ結んでいる方からね」


「ああ」


 余は右足で高宮千沙は左足だな。


「じゃあ行くぞ」


 余はペースを遅らせて走り出した。


「うん。せーええ?」


 タイミングが合わなかったから高宮千沙を引きずってしまった。


「何をやっているのだ」


「掛け声いるでしょ普通」


「そんなものいらないだろ」


「いるよ!無かったら合わないでしょ」


 相当怒っているな、怒りたいのは余の方だがな。


 他の奴らも練習しているが、すぐに息が合って順調に練習しているが、余たちだけまだ序盤も序盤で躓いている。


 乗り気ではないが負けるのは嫌だからな。


 だが、今日はやめにしておこう。


 高宮千沙の方が体力的にももうしんどいだろう、バレーもあるし。


「もう今日は終わりにしておこう、このままやっていても無駄だ」


 余は教室に帰ろうと歩を進める。


「え、本当に終わるの?」


 高宮千沙は余の足と繋いでいた手ぬぐいを解こうと必死だ。


 余が取った時に高宮千沙の方を固結びしておいたから当分は取れないだろう。


 必死に解いている間に余は教室の方へ帰る。


 早く帰って水飲みたい。


 廊下は涼しいなぁ、床なんかすごく冷たいのだろうなぁ。


「宇野くん」


「ああ?」


 誰だよ、あともう少しで教室だっていうのに。


 声のする方を見ると担任の教師だった。


「ごめんね。今大丈夫?」


「大丈夫ではない」


 余は喉が渇いているのだ、一刻も早く教室に行かなくては。


「あ、ちょっと待って」


 担任の教師に肩を掴まれる。


「大丈夫ではないと言っているだろう」


「そこをなんとか。ね?」


「はぁ〜。で、なんだ?」


「ありがとう。佐々木くんっているでしょ」


「知らん。誰だ」


「クラスメイトだよ」


 担任の教師は何かガッカリした表情で伝える。


「そうなのか」


 クラスメイトの顔なんか覚えているわけがないだろう。


「その佐々木くんに体育祭に出るように頼んでほしいの」


「そんなのは余のやることではない」


「そこをなんとかお願い」


 担任の教師が余に縋り付いてきた。


「もう仕事で手が回らないの。私がやる気出してから仕事がすごく私のところに来るのよ。もう私には無理なの」


「ええい、引っ付くな。もう余はクラスの王ではないからな、九重菫に頼めよ」


 そう、余はいつの間にかクビになっていたからもう一人の方の九重菫に任せた方が良いだろう。


「じゃあ今からクラス委員で良いから」


 そんな簡単にクラスの王にならすなよ。


 あとそんなんだったら最初からクビにするなよ。


「もう宇野くんにしか頼めないの」


「分かったから離れろ」


「え、じゃあ良いの?」


「佐々木って奴を体育祭に出させれば良いのだろう?」


「うん」


「分かった、やっといてやるからさっさと離れろ」


「ありがとぉぉぉぉ」


 再び教師は余に縋り付いて来て、お礼を言い始める。


 はぁ〜、まためんどくさくなりそうだ。


 


 


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 異世界に転生したからチートで無双してモテモテな異世界ライフ! ……って思ってた時もありました

という作品も書いているのでぜひ見てください。


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