第11話
余は今桜井莉緒の家で風呂に入っている。
いや、余はいつまで桜井莉緒の家にいるのだ。
一応粘ってはみたがあまりにも桜井莉緒がしつこくくるから断れずお風呂に入っている。
全て断ったのだがな、まず怪我の処置、料理、風呂、全て断ったはずなのだが結局全て世話になってしまっている。
一応余と桜井莉緒は敵なのだからこんなことはあってはならないはずなのだがな。
まぁすべては流れの都合上仕方なくなんだがな。
余は風呂から上がり、シャワーを浴びる。
なぁこれって勝手にジャンプーとかって使って良いものなのだろうか?使った場合匂いが同じになってしまうのではないか?もし気付かれてしまったらどうするのだ?いや、気にしすぎだ。誰も気付かないだろう。
よし、じゃあ風呂も入ったことだからさっさと帰る準備でもしようか。
桜井莉緒の父親から服を借りるのだが、借りるってことは返さないないといけないってことだ。返す時って礼を言えばいいのか?だが、濡らしてきたのは桜井莉緒の方だからなぁ。
適当に返せば良いか。
関係ないが濡れている髪を雑に拭くのが何気に好きなんだよなぁ。
さぁ完璧に帰る準備はできたぞ。やっとこれでこの家から出られるぞ。
このまま黙って帰った方がもうアクシデントが起きにくいから黙って帰りたいところだが、一応一言くらいあっても良いだろう。
「ねぇお父さん、もうそろそろ再婚とか考えても良いんだよ」
「あはは。そんなの考えてないよ」
一言かけようとさっきのリビングに戻ろうとすると桜井莉緒と桜井莉緒の父親が何か話し合っていた。
「もうお母さんのこと忘れてもいいんだよ」
「忘れないよ。僕の妻はあの人だけだからなぁ」
「お母さんもお父さんが再婚してくれるのを願ってるよ、きっと」
おいおい、家の中に余がいること忘れてないか?なんでそんな重い話になっているんだ?勘弁してくれよ、さっさと帰れると思っていたんだがな。
「そんなことないよ。浮気なんてしたら怒られるよ」
「そんなこと言って本当は私が邪魔だから再婚ができないんでしょ?だから再婚しないだけなんだよね?」
「落ち着いて莉緒。本当にそれだけはないよ」
おーい、余はまだこの家にいるぞー。さっきまで一緒にご飯を食べていただろー。お前が家に連れてきたんだろー。
いや待て。もしかして余を連れてきたのは桜井莉緒ではない?そうだ、今思えばおかしかったんだ。傷の手当てもして、ご飯も用意して、お風呂も借りて、敵なのにこんなことするはずがない。という事はあいつは桜井莉緒ではないかもしれない。逆にあいつが桜井莉緒だとしたら余が余ではない可能性もある。
余は何言っているんだ?
あいつらが重い話をしているから変な思考になってしまったじゃないか。
お互い熱くなっているみたいだから余に気付くのは無理だろうな。もう、こっそり帰ってやろうか?
「私がいるからお父さんが不幸なんだ」
おいおい、周りのことを気にせずに大声で叫ぶなよ。ビックリしただろ。
「そんなことないよ」
「嘘つかないでよ。お父さんいっつもお母さんがいなくて寂しそうにしてたじゃん。お母さんじゃなくて私がいなくなれば良かったんだ」
バンッとドアが開き、桜井莉緒がリビングから出てきた。
おいおい、待て。家から出ようとするなよ。せめて声を掛けさせろ。このままだったら家に帰れないだろ。
桜井莉緒はそのまま家の外へと出て行ってしまった。
せめて余が声かけてから家から出て行けよ。そもそも他人が家にいる時にそういう話をするなよ。二人きりの時にしろよ。
あ!そうか桜井莉緒の父親の方に声を掛ければ良かったのだ。別に桜井莉緒に声を掛ける必要はなかったではないか。
さっさと桜井莉緒の父親に声を掛けて帰るとするか。
「おい、もう余は帰るからな」
桜井莉緒の父親の近くに寄って行き声を掛けた。
「あ、そうだった。宇野くんまだ家にいたのにごめんね。こんな場所に居合わせてしまって」
「別に良いから、もう余は帰るからな」
そう言って玄関の方へ向かおうとすると。
「ごめん。ちょっとだけ待って」
「ん?なんだ?」
「莉緒の様子を見てきてくれないかな?」
「は?なぜ余がそんなことをしなければいけないのだ」
もう一度確認しておくが余と桜井莉緒は敵同士であって、そんなことする必要なんか一ミリもない。
怪我の手当てをやってもらったのも、ご飯を食べたのも、お風呂に入ったのも流れがあったからそうしたわけであって、今から桜井莉緒の様子を見に行くのはまた別の話だ。
「そもそもお前が行けば良いだけの話だろ」
「今僕が行っても逆効果な気がするんだ」
「だからってただのクラスメイトが行っても意味ないだろ」
「そこをお願い。今莉緒の近くに誰かがいてあげてほしいんだ」
いや、それって余じゃなくて絶対他の魔法少女の役目だろ。流石にこれは余のやることではない、きっぱり断ってやる。
「お願いします」
桜井莉緒の父親は深々と頭を余に下げてきた。
どんなに頭を下げられようと無理なものは無理だ。頭下げるくらいなら逆効果であっても自分で行けば良い話なのだ。
頼むから早くその頭を上げてくれ。余が行くまでそうしている気なのか?
「はぁ〜分かったから頭を上げろ」
「ありがとう」
「一応言っておくが本当に見に行くだけだからな。それが終われば余はすぐ帰るからな」
「うん」
だぁーくそ。余のバカヤロー。そんなに頭下げられたら断れないだろー。なんで良いって言ってしまうんだよ。
もういいよ、受けたのはもう仕方ないからさっさと桜井莉緒に会って余は家に帰ってやる。
ていうか、あいつが出ていってから結構経ってしまったよな、今から急がないとあいつがどこに行ったのか分からなくなってしまう。
仕方ない、少し魔法を使って桜井莉緒の居場所特定してやる。おいおい、結構遠い所に行ってやがる。
だが、余の運動神経を舐めるなよ。すぐに追いついてやるからな。
* * *
どこだよここ。
よく分からない山奥まで来てしまった。そこに桜井莉緒が地べたに体育座りでいた。なんでこんな所にいるんだよ。
「おい」
「へ?どうして?」
「お前の父親に頼まれたからだよ」
「どうしてここが分かったの?」
やべー魔法を使ったとは言えないし。
「あーえー。ここじゃないかって言われたんだよ」
「そっか。ここね、昔家族みんなで来てたんだ。昔は家族みんな仲良かったんだけど、お母さんがいなくなってからすれ違いが多くなっちゃって」
悪いが余はこいつの父親でもないし、友達でもないし、魔法少女でもない。だからここで慰めることなんてしない。
「いいから立て、早く帰るぞ」
桜井莉緒の腕を引っ張り無理矢理立たせた。
もう無理だ。今日は色々ありすぎた。もうこいつには話させない。無理矢理にでも家に連れて帰らせてやる。
なんで魔法少女なんかにこんなことをしなければいけないんだ。
あれ?ちょっと待てよ。もしかしてこいつが精神状態が乱れている原因ってこれじゃないか?だとするとこれってかなりのチャンスなのかもしれない。この父親との関係についてさらに悪化すればもう桜井莉緒が変身しているピンクの魔法少女は魔法が使えなくなる。
これはもうちょっとあいつらのことを知る必要があるな。
「おい、お前は元々父親と仲が悪かったのか」
「ううん。お母さんがいた時はみんな仲良かったよ」
「じゃあ何で今はそんなことになっているんだ」
「お父さんがいつまでもお母さんのことを忘れなくて寂しそうにしてるから再婚した方が良いと思ったんだけど私がいるから」
あー。そう言えばさっきもそんなこと言ってた気がするな。
つまりはどういうことだ?桜井莉緒の父親は母親がいなくなってから母親が忘れられずにいて寂しそうにしているから、桜井莉緒が再婚を提案をするが、その提案を父親は却下して、それは桜井莉緒が自分がいるからであると思っていて、だから桜井莉緒は自分がいると父親は不幸だと思っているんだな。それが精神状態が乱れている原因であるというわけだな。
だから余はどうすれば良いのだ?とりあえずは父親に再婚をさせなきゃずっと桜井莉緒は自分が父親にとって邪魔者だと思い続けるから、父親の再婚を阻止すればなんとかなるのか。
これからの方針は桜井莉緒の父親の再婚を阻止する方向にするとしよう。
余が考えごとをしていると桜井莉緒が話しかけてきた。
「ねぇ。宇野くんって本当は優しいの?」
「は?」
急に何言ってんだ?
「だって、お茶かけても怒らなかったし、こうやって私を見つけに来てくれたし」
全部流れで仕方なくなんだよ。
「そんなわけないだろ」
「そうかな?」
「余が優しいわけないだろ」
余はお前らを倒して王になるのだぞ。
「最初はそう思ってたんだけど、なんか一緒にいるとそうでもないような気がして」
最初は優しいわけがないと思っていたのか?
「なんだそれ」
「あと委員長もやってくれたじゃん」
「それはお前が言ったからだろ」
「分かりにくいかも知れないけど優しいよ宇野くんは」
何でこいつは余を優しいことにしたいんだ。
「余が優しいってことはない。絶対にだ」
地球を征服して王になろうとしているんだぞ、何で人間に優しくしなくちゃいけないんだ。
「そういう事にしておく」
なんだよその言い方。
「ねぇ今後私どうすれば良いと思う?」
話の変わり方エグいな。
「何がだ」
「お父さんとの関係」
だからそれを何で余に相談するんだよ。
「知らん。そんなもの余に聞くな」
たとえ知っていても言うわけがないがな。
「そうだよね。ごめん」
謝るなよ調子が狂うだろ。
こいつの精神状態が乱れている原因も分かったから明日から動くとするか。
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異世界に転生したからチートで無双してモテモテな異世界ライフ! ……って思ってた時もありました
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