第4話

 やっとおわった〜。


 教室の中には余一人しかいない。


 周りからは音が全く聴こえてこず、無音の世界に俺がいるみたいだ。


 なんだろうこの気持ち、なんでもしても良い気持ちになってきた。


 どうしよう、どうしよう、何かしきゃいけない衝動に駆られてしまっている。 


 とりあえず、一旦教卓で寝るか。


 仰向けになり、足をぷらーんっと下に垂らす。


 時計を見ると4時半を過ぎていてもうとっくにバイトには遅刻している。


 今から職員室に急いでプリントを持っていってダッシュで行けば五時には間に合う。


 よし、そろそろ起き上がってプリントを職員室に持っていくか。



 ガラガラッ



「何してんの?」


 レッドの魔法少女の高宮千沙が教室に入ってきた。


 今教室には余しかいなくて教卓で寝ているところに高宮千沙が来てしまった。


「お前こそ何している?部活ではないのか?」


 とりあえず余が教卓で寝ていることを触れられないようにする。


 ここで余が慌てて起き上がるのは得策ではない。


 普段から余は教卓で寝てますよ〜、っていうスタイルで通すことにする。


「私は教室に水筒忘れたから」


「そうか」


 高宮千沙は自分の席に行き、水筒を探す。


「ロッカーじゃないのか?」


「あ、そっか」


 高宮千沙は自分の席からロッカーへ移動する。


「あった」


「それはよかった」


「で、何で教卓で寝てるの?」


 くそ、一回はスルーしたのにまた掘り返してきやがった。


 余は意地でもこの話題には触れさせねぇぞ。


「それよりバレー部は楽しいか?」


 無理矢理だが話題を変える。


「何で私がバレー部って知ってるの?」


「自分の格好を見てみろ、あと入学式の自己紹介の時に言ってただろ」


 短パンで半袖で膝にはサポーターが付いているから一目で分かった。

 

「そんな前のこと覚えてたの?」


 忘れるはずもない、あの日のことを。


 忘れろって言う方が無理がある。


「たまたまな」


「記憶力良いなぁ。で、何で教卓で寝てるの?」


 余がいい感じで話題を逸らしてきたと言うのに、こいつは何度も何度も。

 

 だが余のプライドにかけて余が教卓で寝ていることを触れさせねぇぞ。


「高宮千沙、お前脚痛むだろ?」


「何で分かったの!」


 高宮千沙は余が脚を痛むことを的確に当てたことに驚いている。


「歩き方で分かる」


「すごい、そういう系に詳しいの?」


 お前ら魔法少女はどうか知らんが余は変身前の今の状態でも魔法が使える。


 余は今の変身前の状態がほとんど変身後の戦闘力に関わってくる。

 

 つまり変身前の今の状態でめちゃくちゃ鍛えておかないといけないから、余は死ぬ気で鍛えてたし、体のこともめちゃくちゃ調べた。


 知っておいたら効率よく鍛えることができる。


 だから、余は高宮千沙の怪我にも気づいたというわけだ。

 

「少しな、あまり無理するなよ」


「私もっと強いスパイク打ちたいんだけど何かアドバイスある?」


 何で余がお前なんかにアドバイスしなきゃならないんだよ。


 いや、だがこれはチャンスだ。


「ちょっとこっち来い」


 余はここで自然な流れで教卓から起き上がり高宮千沙を呼ぶ。


 よっしゃ、やっと起き上がることが出来たぞ。


 あの体制は話しづらいんだよ。


「右手で右の脇腹、左手で左の脇腹をマッサージしてみろ」


 高宮千沙は余の言う通りに脇腹をマッサージする。


「軽く腕を回してみろ」


 高宮千沙は軽く腕を回す。


「え?軽っ、どうして?」


「現代人はスマホばっか見ているからな、肩が前に出て巻き肩になっている。巻き肩は肩こり、腰痛、首こりの原因になるからな。脇腹をマッサージすることによって普段固まっている筋肉をほぐすことで巻き肩の改善になるからだ」


 ふ、少し語りすぎてしまったな。


 まさかここで余が魔法少女を倒すために独学で勉強したことを魔法少女のために使うとはな。


 まぁいずれは倒すんだがな。


「へー」


「もうこんな時間か、俺はもう帰るぞ」


 よし、余の知識に圧倒されているうちに急いで教室を出るとしよう。


 危なかった、余が教卓で寝ていることを触れられるところだった。


「宇野、プリント忘れてるよ」




 くそっ。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 モテない男の英雄譚 という作品も書いているのでぜひ見てください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る