第3話

 キーンコーンカーンコーン



 六時間目の終わりチャイムが鳴り響く。


「起立」


 クラスの奴らが全員立つ。


「気を付け」


 クラスの奴らが姿勢を正す。


「礼」


 クラスの奴らが全員頭を下げる。もちろん俺は頭を下げない。


 うん、悪くない。


 クラスの王として風格が出てきたな。


 最初はめんどくさいことを押し付けられるのが学級委員だと思っていたがこれだったら別に悪くはないな。

 

 よし、一旦家に帰ってバイトに備えるとするか。


 しょうがないだろ、お金がないと生きていけないからな。


 バイト先の喫茶店のオーナーがかなり優秀で、ある程度時間の融通が効くし、賄い料理がうまいし、時給も高い。


 余が王になった時は使用人にしてやる。


 三時に学校が終わり、四時にバイトに入り、八時にバイトが終わる。


 基本的にはバイト終わりに余はあいつらに勝負を仕掛ける。


 八時ぐらいになるとあいつらも部活が終わるからちょうど良いんだよ。


 

 ガラガラッ



 担任の女教師が教室に入ってきた。


 どうした?普段は授業が終わったら教室に来ないのに。


「学級委員の二人は前に来てください」


 は?


「分かりました」


 九重菫は教室に出ようとしていたが担任の女教師に呼ばれたから向かう方向を変えた。


 なんだよ、もう帰る気満々だったによぉ。


 はぁ〜、まぁいいか。


 嫌々だが余も教卓に向かう。


「で、先生用件はなんですか?」


「じゃあはい、このクラスに渡すプリントホッチキスでとめておいて」


 この女教師、自分の雑用を余たちに押し付けようとしてやがる。


「王がか?」


「王?学級委員でしょ?あなたは」


「それって先生の仕事じゃないんですか?」


「違う、これは学級委員の仕事です」


「王はそんなことせん」


「だから、あなたは王じゃなくて学級委員だから」


「もしかして、これからもずっと雑用を押し付ける予定ですか?」


「まぁまぁ、そんなにキツイことはさせないから」


「王に雑用をさせるのか?」


「はぁ〜、分かりました。ここで長引いても仕方ありせんね、さっさと終わらせます」


「お〜、ありがとう。じゃあ終わったら職員室に持ってきてくれ」


 おい、無視するな。


 まぁ今回だけは無視したことを許しておいてやる。


 担任の女教師は颯爽と教室を出ていき、余とブルーの魔法少女である、九重菫と二人っきりになってしまった。

 

「早く終わらせましょ」


「ああ」


 教卓に置いてあるプリントを半分ずつ取り、窓側の席を向かい合わせにして座った。


 お互い特に喋ることはなく、ホッチキスをとめる音のパッチン パッチンという音だけが一定のリズムを刻みながら教室に響く。


 まさか敵である魔法少女と二人っきりで作業するとはな。


「ねぇ?さっき宇野くんが先生に言っていた王ってなんですか?厨二病ってやつなの?」


 余が厨二病だと?この高貴な存在を。


「別に学級委員だからクラスの王ってことだろ?」


 いずれは地球の王になるのだけどな。


「いや、普通に学級委員だから」


 なんだよこいつ、謙虚だなぁ。


 そしてまたホッチキスの音だけが響く。


 チラッ


 ん?なんだ?


 チラッチラッ


 九重菫がチラチラとどこかを見ている。


 チラッチラッチラッ


 こいつ時計見てやがる。


 なんだよこいつ、何か急な用でもあるのか?


 はぁ〜


「行ってこいよ、後は余がやっておくから」


「な、何がですか?」


 余の言葉に驚いた九重菫はキョドってしまう。


「急いでいるんだろ?」


「急いではいますけど」


「部活だろ?行ってこいよ」


「何で部活だと思ったんですか?」


「違うのか?」


「違わないですけど」


「じゃあ行ってこいよ」


「いや、申し訳ないですし」


 なんだよこいつ、しつこいなぁ。


「早く演劇部に行けって」


「ん?何で宇野くんは私が演劇部って知ってるのですか?」


「は?入学式の時の自己紹介で言ってただろ」


「覚えてたんですか?」


「まぁな」


 あの時の衝撃は忘れない。


 あの時にお前らが魔法少女だってことが判明したからな。


 あの衝撃のおかげでお前らの自己紹介を一言一句覚えているぞ。


「本当にいいの?」


「王は一人で十分なんだ。早く行ってこい」


「ごめんなさい」


 九重菫はカバンを持って教室を出ていった。


 時計を見ると3時50分を過ぎていた。


 悪い、オーナー。






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 モテない男の英雄譚 という作品も書いているのでぜひ見てください。


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