第26話 リーダー須賀彗夏のプレッシャー(後編)

 彗夏は泣き止み落ち着いたようで両手でペットボトルを持ちジュースをチビチビ飲んでいる。




 「迷惑かけてすみませんでした、ジュースありがとうございます」




 なんだか少しいつもの彗夏に戻ったようだ。




 「明日シローさんに一緒に謝ろう」




 コクッと頷く彗夏。




 「よし、今日はこのまま遊びに行くぞ!」



 俺は彗夏の手を引っ張って公園の近くにある2階建ての大きなゲームセンターに足を運んだ。




 彗夏の表情はすっかり明るくなり普段クールな感じの美少女が凄く無邪気になってユーフォーキャッチャーや音ゲー中心に楽しんでいる、せっかくなので格闘ゲームの腕を見せつける、10人抜きをしたことで俺を見る目が変わる、昔はもっと上手かったんだぜ。




 二人でガンシューティングをしたり照れ臭いがプリクラを撮ったりと時間を過ごした。






 一通り遊んだところで彗夏がダンスゲームを見ている、俺はお金を投入して、やってみろよと背中を押す、流石だな、凄いステップを見せつけて気付けば周りにギャラリーが出来ている、ゲームが終わると少女は笑顔で振り向き、






 「還流さん、ありがとう、私ダンス踊りたい、明日から頑張れそうです!」



 すごく爽やかで美しい笑顔を俺に向ける、喫茶店でお茶をする俺たち。





 「還流さんって意外と、その~、カッコイイですよね」



 「意外とって何だよ」



 いつもの彗夏に戻ったかな? ん・・還流さん?




 「二人の時は名前で呼んで良いですよね?」




 「んっ、まぁ別に構わないよ」




 「今日は凄く楽しかったです、CDが売れてプリフォーが有名になったら今度は大人のデートに連れて行ってください」




 「何だよ大人のって、高級ディナーに連れて行けってことか? 言っておくが安月給だから無理だぞ」




 彗夏は歯を見せて笑うだけで何も言わない。




 「デートなら社長はどうだ? あの人カッコイイしお金も持っているぞ」




 「社長は勘弁してください、あの人と二人でいると緊張するんですよ、威圧感があるというか、付髭いつも付けていて変だしパスですパス、恋愛対象としては100%見てませんから」






 「憧れの人なんだろ?」






 「憧れの人だからってデートしたい人とは限らないでしょう」



 彗夏は少々はにかんだ顔をして、



 「私は優しくて、しっかり話を聞いてくれて、私が困っている時に守ってくれて頼りがいのある、様なそんな人が好きなんです」








 そんなもんかね、そう思っていると本当に今日はありがとうございましたと深々と頭を下げてくる、俺はどういたしましてと答えた。






 リルが以前言っていたな、メンタルが病むとフィジカルに影響が出ると、今回の彗夏はまさにそれだったのだろう、現に今はダンスも踊れて元気な姿を見せている、プリフォーにダンスや歌は教えてやることは出来ないがメンタル面でのサポートは俺の役目だなと思った。








 帰りの車内ではもうすっかりいつもの彗夏で他愛のない話で盛り上がる、轟和荘の前、ハンドギアをPに入れ車を停める、シートベルトを外そうとした時に俺の頬に彗夏の唇が触れる、ハッなり隣を見ると。




 「アイドルの唇は貴重ですよ、お返しはプリフォー成功後大人のデートでよろしくね!」




 そう言って美少女は早々と車を出る、左頬を手で抑えながら思う、だから大人のデートって何だよ、高級なものを要求しているのか? 










 その後の事を少し話そう、後日二人でシローさんに謝ろうとしたら逆に謝られた、自分も熱くなり過ぎてすまなかったとの事だ、伊莉愛曰く、二夜が上手く説得してくれたようだ。




 残り数日はみっちりとダンス指導を受け、彗夏、伊莉愛はさらにレベルアップし、シローさんと二夜が海外へ戻る前日にプリフォー4人でのステージを見届けて次の再開を誓い帰っていった。






 11月11日のデビュー迄やることはやったが結果はご存知の通りあまり上手くいかなかった、5万枚作ったCDが半分近く残っている、その次作ったセカンドシングルも同じようなものだ。




 俺達は今崖っぷちにいる、三か月後に発売するサードシングルが売れなければプリフォーの解散もあるだろう、今回のキャンプ合宿の成果がどう影響してくるかが鍵となる、今日の昼過ぎには轟和荘に到着すると社長に報告しているのでぼちぼち帰りの支度をしようと思う。




 テントの中の臣、コテージに居る心、彗夏、伊莉愛がまだ寝ているようなら起こさないといけないなと思いながら皆の元へ向かうのだった。

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