タンジェント

増黒 豊

先日の発表について、皆様にお知らせします。

 ビューチューバーマガジン八月号


 特集企画 超人気ビューチューバー「ハルタモカ」衝撃の報告の真相に迫る!



 ——そもそも、結成のきっかけは?

「そうですねぇ。モカとは大学の同期で。再会したとき、僕はとくにすることもなくフラフラしてたんですけど、モカが単独で活動していたチャンネルに参加させてもらう、ってことになって」


 ——そうですよね。最初は、編集担当としてですよね?

「そうなんです。カメラマンもしていたんですが、知らない間に映る側になってました」

「いやもう、ハルタ君、最高に面白いから。ハルタ君の笑いが無かったら、ただ名所巡りだけして終わってたと思います」


 ——今のモカさんがあるのは、相方のハルタさんがあってこそ、ということですね。

「いや、それは僕こそ。モカがいなければ、僕は自分に人を楽しませたり喜ばせたりする機会があるなんて、気付くことすらなかったと思います」


 ——コンビ愛。それが、多くのファンを惹きつけていますね。

「有難いことです。わたしは、ハルタ君をホンマに尊敬してます。コンビ愛とか言われると、なんかこそばいけど」

「俺も、モカより尊敬できる人なんて、織田信長か実家の母ちゃんくらいしかいないですよ」


 ——笑い。

「でもね、冗談抜きで。たぶん、僕らはお互い、お互いに無いものを持ってるんだと思います。そしてそれは、足りないものを埋め合わせるようなものではなく、お互いをもっとより良いものにするような性質のものなんだと思うんです」

「二人で一個のすごい人間、みたいな?」


 ——なるほど。たしかに、自然体のモカさんにハルタさんが鋭いツッコミを入れていく軽快さは、誰もが支持するところですよね。

「あはは。ハルタ君、カメラ回ってないときでもずっとあの調子なんです」

「笑いまくればダイエットにいいだろ。俺だって笑いによって鍛えあげられた腹筋が一個にまとまってしまってるんだぜ」

「いや、それは脂肪やん」

「あれ、そうか。お尻は二つに割れてるんだけどな」


 ——笑い。

「さて、じゃあ、本題といきますか。今日は、僕らみたいなのを取材に来てくださって、ありがとうございます」


 ——いえいえ。ファンならずとも、誰もが気になる発表でしたから。では、いよいよその真相についてお聞かせいただけるんですね?

「はい」

「準備はできてます」


 ——では、いつものとおりの挨拶からお願いします。あの発表についてお伺いする前に、ハルタさんに少しお聞かせいただいた結成前の話から、より詳しくお願いしますね。


 俺は、モカと目を合わせる。

 俺たちのファンなら、きっと分かってくれる。

 今までどんな困難でも理解してくれたファンたちだ。


 モカが俺を見返し、いつも通りの笑顔を見せる。

 エアコンの風。涼しくて気持ちいい。記者さんの期待の眼差しを、少し冷ましてくれている。

 それくらいが、ちょうどいい。いつも自然体で、ありのまま。気楽に、おもしろおかしく。それが、ハルタモカだから。


「せーの」

 小さな合図。いつも、俺の担当だ。

「やっほー。みんな息してるー?」

 俺が息を吸う音。知らない間にカメラのマイクが拾わない呼吸を身につけている。

「ハルタモカです!」

 俺たち二人の声が、また重なった。

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