ハルタモカ

 まだ雨は続いているけれど、モカとの連絡は途絶えたままだった。

 息してる、どころか、ほんとうに何かあったのではないかと思う。

 気が気じゃないけれど、どうすることもできない。


 土曜日。ナナコさんに会えるので毎週の土日が楽しみなわけだが、さすがにモカは大丈夫だろうかということが頭から離れず、ぎこちない。


「相川くん。その後、どや」

 暇な時間に取る休憩時間。俺にまた得体の知れないものを——たぶん食べるものなんだろう——差し出しながら、マスターがぼそりと言う。

「どう、と言うのは」

「こないだの連絡。あのあと、どうもなかったんかいな」

「ああ、ご心配おかけしました。ちょっと、友人が大変だったそうで」

 ナナコさんが何かあったんですか、と心配そうな視線を向けてくる。


「いや、何かっていうか、その日は会って話せたんだけど、そのあと全く連絡がつかなくなって。メッセージも既読にならないまんまで」

「ええ、様子見に行った方がいいんじゃないんですか?」

 それができればそうしているが、家が北山にあるということ以外分からない。


「どうしようもなくって」

「そら大変やな。ほんで、あれからずっと様子が変やったんか」

 奥さんも混じってきて、訳知り顔とともにでかい声をかけてくる。

「あはは、分かっちゃいますか」

「そらな。伊達に三十年、接客業してへん」

 マスターは、やはりいい人なんだろう。何も言わないが、俺の様子を気にかけてくれている。


「でも、そのお友達、どうしちゃったんでしょうね」

 ナナコさんは言葉にはしないが、おそらく頭の中では悪い想像が巡っているだろう。誰でもそうだ。

「そんな状態で相川さんを頼ってきはったんやし、きっと、よっぽど頼りにされてたんでしょうね」

「それが、そんなでもなくて。大学のときはわりと喋ってたけど、卒業後は全く会うこともなくて。春に偶然再会してから、二回ほど遊んだくらいで」

 もちろん、モカちゃんねるや動画編集のことはアトム一家には言っていない。だから、俺とモカのことを表現するならば、それが全てなのだ。


「最後に会ったとき、なんで俺を呼んだの、って訊いたんですよ」

「そしたら?」

 ナナコさんの目の色が深くなる。同年代の女性だから、彼女の言うことに何かヒントがあるかもしれないと思った。

「笑いたかったからかも、って」

「——早く、行ってあげて」

「でも」

「相川さんのこと、ほんまに信頼してはったんやと思います。付き合いは浅くても、相川さんはその人の中で、他の人と別の立ち位置にいるんやと思います」

「だけど。俺なんて」

 ううん、と普段穏やかなナナコさんが珍しく俺の言うことを遮った。

「相川さんにしか、できひんことがあるんです。相川さんやから、頼ってきはったんです」

「でも、家知らないし——」

「考えてください。お願い。その人のために。あと、」

 相川さん自身のために。ナナコさんはそう言って困ったように笑い、大事な人なんでしょ。と続けて、あとは何も言わなくなった。


 なんとなく、俺の友人というのが女性だということがナナコさんには分かっている。その上で、言っている。そんな気がした。


 確かにモカは見た目は悪くはないけれど、ナナコさんに較べればシリウスと豆電球だ。大口を開けてガハガハ笑われたのでは胸キュンどころか飛んでくる唾液をかわすことの方に神経が弱る。

 それでも、俺と社会との交わりを失いきることなくギリギリしがみ付かせてくれたことに変わりはないし、なにより、俺にとって今ただ一人、友人と呼べる存在であるのかも——しれない。


 バイト中も、帰り道も、ずっと考えた。ナナコさんともっとお近付きになるという野望はモカの件が片付くまで保留だろう。

 出勤のときに降っていた雨は、止んでいる。傘をアトムに置いてきてしまったと気付いたが、どうでもいい。


 俺にできること。モカは、俺を頼ってきてくれた。

 俺だからできること。モカはあの日、俺に何を求めていたのだろうか。

 俺にしかできないこと。

 俺にしかできないこと。

 俺にしか——。


 俺はハエ叩きをかわすハエのように、いきなり駆け出していた。一刻も早く帰らなければならないと思った。家までは歩けばけっこう距離があるけれど、走るという単純な動作で少しでもそれが近くなるなら、小太りの体がすぐ息切れを起こすのなんて気にしていられない。


 銀閣寺荘に戻った俺は錆びた鉄板の外階段を踏み抜かんばかりの勢いで駆け上がり、玄関のドアが外れるほどの力で開いた。

 そのまま、パソコンの前へ。


 モカちゃんねるの、ある動画。

 北山界隈を散策しているものだ。植物園、加茂川、あとは上賀茂小学校近くの旧家街なんかが紹介されている。


「はい、どうも、モカちゃんねるでぇす」

 そのオープニング。その背景。コンクリート打ちっぱなしのマンションの敷地内から、その動画は始まっていた。

 これだ、と思い、地図のストリートビューで北山駅周辺を探る。


 区画整理があったのだろう——俺の田舎でもあそこに道が通るだの、ここが公園になるだの地域の人がうるさかった——、綺麗な長方形のブロックがいくつも並んでいて、ネット上のそこを俺は縦横無尽に駆け回った。


 もう一度、動画のオープニングを。

 モカの主観視点で動くカメラ。背景のマンションの向こうに、山が見切れている。北山通り沿いには高い建物が並んでいるから、それより南のエリアだったらこれほどの面積が見切れることはないと思い、北のエリアだと判断する。


「早起きしちゃったから、眠いんですけどね」

 そう言ってあくびをするモカがカメラをなんとなく向けた植え込みのサツキは、右側から太陽に照らされている。入り口が南側道路に面しているマンションだ。


 待ってろ。俺は呟き、また地図の世界を走り回る。

 オープニングを自宅前で撮るなんて、不用心が過ぎる。モカが立っているのは明らかに敷地内。わざわざ足を踏み入れて撮影するような場所じゃない。ふと思い立って用意をし、マンションを出たところでカメラを回したはずだ。


 北山より北。南側の道に面している。コンクリート打ちっぱなし。モカとメッセージのやり取りをしている最中、「ちょっとコンビニ行ってくる」と言い、十分もせず戻ってきて、「早っ」とツッコんだことがある。

 そのエリアのコンビニは、地図で見たところ限られている。そこから、店内の滞留時間を引いた二、三分の距離。


 ——あった。

 ストリートビュー上の俺はそこに立ち、息を飲んだ。

 あのとき、モカは俺を見つけたと言った。今度は、俺がモカを見つけてやった。ざまあみろ、と叫びたい気持ちだった。


 知らせていない自宅に突撃されたら、ストーカーと罵られるかもしれない。警察を呼ばれたっていい。その元気があり、たまたま忙しくて俺への連絡どころじゃなかっただけなら、安心できる。


 夜、八時を回っている。構うもんか。

 戻ってきたときと同じ速さで自宅を飛び出し、白川通りに出てタクシーを。バイトをはじめたとはいえ手持ちのお金はカツカツだけれど、また月末になれば給料は入る。



 北山駅の東に位置する松ヶ崎駅までは来たけれど、財布の中に入っていたお金では運賃が足りなくなり、そこで降ろしてもらう。

 北山通りを西へ。下鴨本通りの信号で足踏みをし、さらに西へ。


 そして、俺はそこに立ち、見上げて息を飲んだ。今日、これで二度目だ。

 ——見つけたぞ。


 しかし、そこで俺は気付いた。このマンションのどの部屋にモカがいるのか。

 迂闊だった。ポストを見てみても、どの部屋も名前なんて表示していない。

 バルコニーの方に回り込んで、叫んでやろうか。一瞬そう思い、同時に足がその方に向かって回転していた。


 明かりのついている部屋、消えている部屋。たまたまモカがバルコニーに出ているなんていう奇跡は無かった。

 叫んでモカを呼ぶしかない。そう思い、俺は上がりきった息をもう一度吸い込んだ。緑っぽい匂いは、山を背負った銀閣寺荘のあたりと同じだった。


 ふと。

 二階の左端の部屋。明かりが点り、窓が開いている。目を細めると、うっすら室内が白んでいるように見えた。

 京都は、この季節、なぜか夜になると風が吹く。いや、冬でも秋でも吹くことは吹くが、そう思った。


 びゅう、と俺の耳を鳴らすそれが通りすぎたあと、俺はほんとうに奇跡があるんじゃないかと思い、数秒、目を見開いて立ち尽くした。

 ——仏臭ぇ。


 苦い、お香の香り。どこがラベンダーだよ。お寺じゃん。

 バルコニー側から見て、二階の左端の部屋。それが何号室なのかは分からない。エントランス側に回り、オートロックで五室並んでいる部屋を片っ端から呼び出せばいい。いや、端なんだから二○一か二○五だろう。銀閣寺荘の大家さんは四という数字を嫌い、四が当てられるはずの部屋は五になっているから、二○六かもしれない。


 二○一。

 応答はない。

 二○五。

 応答なし。

 二○六。

「——はい?」

 だいぶ待ってから、女の声。モカだ。

「ああああのう、こちらファあ」

 出た。肝心なときに俺のテンパリングマキシマムが。

「——ハルタ君?」


 ——相川くぅん。

 大家さん。

 ——相川さん。

 ナナコさん。

 相川くん。

 ——ステイサム、じゃなくてマスターや奥さん。


 この世で、俺の下の名を呼ぶのはモカと実家の親だけだ。ここに俺の親が住んでいるのでなければ、この小さなスピーカー越しの声は、やはりモカだ。


 数秒。いや、一秒にも満たないかもしれない。

 無言で開かれるオートロック。

 息を吹き返した自動ドアをくぐり、二階へ。


 部屋のインターホンを鳴らすと、すぐにドアが開いた。

「——なんで、家、分かったん」

「大丈夫なのかよ、モカ」

「汗だくやん」

「ダイエットにちょうどいいわ」

「ごめん、連絡ぜんぜんしいひんくて」

 素っぴんのモカは開かれた玄関ドアから半身だけ出し、無機質な声で会話している。


 そのとき、俺が乗ってきたエレベーターが動き、一階で停止し、また二階に戻ってきた。

「二○一に大家さんの息子さん夫婦がいはるねん。ややこしいし、入って」

 そのドアが開き、人影が現れる前に、モカは俺を部屋の中に招き入れた。


 俺のあげたお香の匂いが充満している玄関には、脱ぎ捨てられた靴。仕事用のものだろう。デザイン違いで三足ある。

 右手が、寝室だろうか。ドアが閉じられていて中を伺うことはできないが、人生初の女子の部屋ということで俺の中の男子成分がはっとした顔をもたげている。


 リビング。広い。しかし、そこに通された俺は、愕然とした。

 無職の頃の俺の部屋なみに散らかっている。飲みかけのペットボトル、スナック菓子の袋、何日も前のものだろうと遠目でも分かるカップ麺の容器。


 ソファの近くの床には、ゲームのコントローラーが力なく転がされている。

 その前のテーブル。

 俺のあげたお香が、煙を立てている。その脇には、わけのわからない大量の錠剤。

「頭痛くて」

 俺がそれに眼をやっているのに気付いたモカが、わざわざ注釈を入れる。


「モカ。お前——」

「せっかくやし。休憩していき」

 明るい声を出そうとしたのだろう、モカは喉をひっくり返してキッチンに入り、冷蔵庫を開けた。


「はい」

 差し出された缶チューハイ。部屋の中には同じものが前衛芸術の個展かと言うくらい転がっている。

「お前、酔ってんのか」

 勧められたソファの隣にどかりと座ってくるモカから、仏の匂い以外のものを感じ、俺は思わず眉をひそめる。

「飲め飲め、ハルタ」

 やばい。そう思った。缶を受け取り、テーブルの上にひっそりと存在するスペースにそれを置く。

「モカ。大丈夫なのかよ」

「大丈夫なわけないやん」

 演歌歌手のように喉を唸らせ、モカが手を顔にあてがう。


「会社、どうしたんだよ」

「もう無理。上司にメッセージで辞めるて言うた」

「お父さんは?」

「さあ。鬼電かかってきてるけど、知らん」

 それよりさ、とモカはなぜ俺が自宅が分かったのかについて訊ねてきた。仕方なく、俺はモカの動画から自宅の目当てをつけ、地図で特定し、窓から漏れるお香の匂いで部屋を見つけたことを説明した。


「すご。探偵さんやん」

「銀閣寺荘のホームズとは俺のことだぜ」

「規模ちっさ」

 モカの立てる笑い声が俺の知っているそれで、少し安心した。

「動画で自宅映したら駄目だよ。緊急事態と思ってそうしたけどさ、悪い奴が同じこと考えたら、危ないから」

 なぜか、俺は小さい子に言い聞かせるような口調になっている。


「そんなに心配してくれてたんや」

「当たり前だろ」

 とりあえずこうして会話はできているが、この部屋の様子を見るに、心配をしてもしきれないほどの状態であることは間違いない。

「ええで。わたしのことは。もう放っといて」

「馬鹿。そんなこと、できるわけないだろ」

「なんで?」


 きょとんとして俺の目をまっすぐに見るモカ。すぐに、俺の視線は押し負けて外れて、散らかった部屋の中を彷徨った。

「——お前が大変なのに、放っとけるかよ」

 言葉が重なり、どんどん出てくる。

「お、俺にとっては、お前は恩人なんだから」

「恩人?わたしが?」

「何も持たず、それを世の中や人のせいにして自分では何もしない理由ばかり作っていた俺にそのことを気付かせて」

 そうなんだ。モカが俺の現状を知り、ちょっと話しよ、と言ったのがきっかけだった。モカは無遠慮なところがあると思っていたけれど、それがために俺は救いを得た。


「目標もできた。頑張る理由もできた。お前の動画を編集してると、めちゃくちゃ楽しい。それを喜んでくれて、めちゃくちゃ嬉しい。視聴者も増えて、めちゃくちゃ嬉しい」

 モカは、文字通り俺を、

「お前が、俺を見つけてくれた。こないだ、見つけた、って言ってくれたとき、なぜだか泣きそうになった」

 だから。

「だから、こんどは、俺がお前を見つけなきゃと思った」

「ごめんな、ハルタ君」

「謝るなよ。謝らなくていい」

「でも、それ以外に、わたし——」

「頑張ろう」

 こういう、何もかも投げ出してしまっている状態の人に頑張ろう、は禁句だとよく言う。しかし、俺の意識の外、空にへばりついた天の川みたいにして存在するそれらの言葉を、俺にはどうすることもできない。


「頑張ろう。俺も頑張る。一緒に、頑張ろう」

「頑張るって。なにを。わたし自身、どうしてええのか分からんのに」

「なんでもいい。趣味の街ブラでもいい。仕事なんて、どうだっていい。バイトでもすりゃいいじゃん」

「動画なぁ。ずっと家にいるから、ハルタ君が編集してくれたこないだのやつ、何回も見て自分で笑ってたわ」

 そうだ。俺は、モカを笑わせることができる。


 俺にしかできないこと。

 俺だからできること。

 また見つけた。こんどは、俺が、俺自身を。


「俺が、お前をトップビューチューバーにする。登録者数、一年で百万人だ」

 はあ?とモカが素っ頓狂な声を上げるが、同じ声を俺も心の中で上げている。

「もっと沢山だ。南禅寺とインクラインじゃ、弱すぎる。京都中の名所巡りをしよう。全部、俺が編集する。モカはバイトしながら就活でもいい。お父さんのことは、どうにかなるさ。就職また決まるまで、でもいい」

 とにかく、何かしよう。何かすることを勧めよう。勧めるなら、勝手に何かをしろと押し付けるわけにはいかないから、一緒にできることを。それが棒高跳びの選手みたいに飛躍して、俺はこの突拍子もないことを提案している。


「嫌になったら、辞めていい。仕事だって趣味だって、同じだ。とにかく、今できることをする。それしか、俺にはないと思うんだ。モカも、そうじゃないのか?」

「わたしは——」

 モカの視線の先には、燃え尽きて煙を立てなくなったお香。


「これな、灰になってもしばらくいい匂いするねん」

 急に話題を変えた。俺の提案は否決されたのだろうか。

「ありがとう。ほんま。癒しの香り、て書いてあったけど、ほんま落ち着くねん」

「気にいってくれて、よかった」

「これズボンのポケットから出てきたときはびっくりしたけど。普通、袋かなんかに入れて渡さへん?」

「そうか、そうだよな、ごめん」

「めっちゃ笑うわ、ほんま」


 モカは立ち上がり、小さなお香の箱から新しいものを取り出し、火をつけた。

「最後の一個。無くなったらどうしよかなと思っててん」

「また買ってきてやるよ。バイト先の近くの土産物屋に売ってたから」

「ううん、いいねん」

 もういいねん、とモカは笑った。


「このお香がわたしを癒してくれるんじゃなくて、これがバイト帰りで雨に濡れたズボンのポケットに入ってたんかと思って、それと、これ差し出すときのハルタ君の様子が面白くて。それで笑えるねん」

 ハルタ君は、とモカは言葉を切り、手にしたままの缶チューハイから景気のいい音を立てた。


「ハルタ君は、いっつも笑わしてくれるなぁ」

「それ以外、何にもないからな」

「動画、面白くなりそう?」

「当たり前だろ。銀閣寺荘のツッコミ王をナメんな」

「だから、規模ちっさいって」

 モカは口の中のチューハイを吹き出さないようにして笑った。


「分かった。とりあえず、やってみる」

「バイトしながらでも、就活しながらでもいい。気ままに行こうぜ」

「うん。そう言うてくれたら気が楽。でも、わたしをトップビューチューバーにしてくれるねんろ?」

「それは——」

 俺自身、言ったような言ってないようなという具合だった。口ではでかいことを言っているが数秒前の記憶が飛んでいるあたり、テンパると脳がニワトリ以下になるのは克服できていないらしい。


「ふふ、何でもええよ。わたしなんかを元気づけようと必死なんも、なんか面白いわ」

 こいつ、と思ったが、モカは楽しそうだから責める気にはならない。

「ただし、条件がある」

 ぴ、と指を立てる。あざといが、可愛いと思った。

 というか、なんでモカが条件を出してくるんだよという思いがあとから来た。


「ハルタ君も、一緒にやって」

「うん、だから俺も」

「違う違う」

 モカは缶チューハイをチャプチャプさせ、目をドングリみたいにした。


「一緒に、やるねん。コンビで」

「——俺も、動画に出るってこと?」

「そう。それやったら、やれそう」


 こいつ馬鹿か、と思った。しかし、それが、俺がモカをどうにか元気付けたいと思って咄嗟に出した提案に対する条件なのであれば、受け入れざるを得ない。


 いや、よく考えてみれば、細身で小柄な洒落者のモカと、ちょっと——ごくごく僅かに、ほんのささやかに——小太りで冴えない見た目の俺のコンビというのは面白いかもしれない。モカがはしゃぎ、俺がツッコミを入れながら、という構図がすぐに浮かんだ。


 いけるかもしれない。

「そやねえ、コンビ名は——」

 気が早いなと思うが、楽しいことを想像している表情で天井を見上げるモカの唇が再び開くのを待つことにした。


「——ハルタモカ」

「そのまんまじゃん」


 ハルタモカ、結成の瞬間。

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