ラントヴィー②
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さて。ようやくゆっくり話ができる。
俺は息を大きく吸って目の前の扉を眺めた。言わずもがな、第二王子ラントヴィーの部屋だ。
「ガムルト、悪いけど長くなるから。無理せず休んでおいてくれ」
「自分はリヒトルディン王子の護衛ですからご心配なく! もう少ししたら夜勤の者と交代にはなりますが、それまではここにおります」
俺が言うと、甲冑を着込んだガムルトが朗らかに応えた。
その隣には同じく甲冑がいて、どうやら中身はエマンのようだ。
「私もここにおります故、なにかございましたら申し付けください」
うん……やっぱり見分けは付かないな。
ふたりが示し合わせたように右の拳を胸に当てたので、俺はそんなことを考えながら頷いてノックをする。
『入れ』
返事はすぐにあった。
――リリティアとともに慎重に踏み込んで扉を閉めると――そこには。
「……な、なんだ……?」
『……茶会でも開くつもりか?』
大きな丸テーブルに椅子が三脚。
薔薇の刺繍が施された白いテーブルクロスの上には色取り取りの茶菓子たち。
ほんのり甘く香るのは茶葉だろうか……。
「お茶の用意をしておけと騎士に言ったろう?」
律義なラントヴィーに、俺は愕然とする。
彼は正装を纏い、長い前髪をしっかりと上げていた。
普段は隠された切れ長の蒼い瞳の上、すっと筆の先を走らせたような細い眉が見える。
――こんなに身嗜みを整えた彼を見たのはいつぶりだろう。
王子の食事会ですら正装なんてしていないのに。
「え、えぇと……」
彼はテーブルの横に立っており、戸惑う俺に構わず椅子を引く。
え、座れってことか? いや、王子が王子に椅子を引くか? 引かないだろ!
混乱していると、ラントヴィーはふっと笑った。
「そこにいるのだろう?
「……ッ!」
衝撃が足の先から頭の上までを突き抜け、俺はひゅっと喉を鳴らして息を呑む。
心臓がどくどくと脈打って嫌な汗が滲んだ。
ラントヴィーの眼は確かに、リリティアのほうへと向いていたのである。
ラントヴィー……やっぱり、お前なのか? お前が――アルを……?
咄嗟にリリティアを背に庇うと――彼女は静かに俺の腕に触れ、前に出た。
「ほう、私を感じたか。……初めましてと言えばいいか?」
ふわりと揺れる紅色のケープ。
瞳を蒼く光らせたリリティアが不敵に笑う。……聖域を解いたんだ。
対するラントヴィーはふるりと体を震わせると、恭しく頭を下げ「お目にかかれて光栄です」と言った。
「……私が同席する茶会など滅多にないぞ?」
リリティアは優雅に椅子に腰掛け、ラントヴィーが一歩下がる。
彼女はそれを見て、俺を振り返った。
「リヒト。お前も座れ。せっかく招かれたのだ、楽しもうはないか」
「え、あ、ああ……」
俺は慌てて彼女の隣に座る。思わずラントヴィーを窺うと、鼻先で笑われた。
「……そんな眼で見るなリヒトルディン。菓子も茶も最高級だ、毒もない。安心しろ」
「そ、そんな眼って……どんな眼……」
「とりあえず
ぐ……。
言っておきながら俺をさっぱりと無視したラントヴィーに、思わず顔を顰める。
リリティアは俺を見てくすくすと笑うと、優雅な所作で迷いなく紅茶を口にした。
……王女たちの誰よりも、優雅だった。
「いい香りだ――単刀直入に聞こう。黒いダガーを隠したのはお前か?」
そして、彼女は静かに問い掛ける。
ラントヴィーは少しも躊躇わず、眉ひとつ動かさずに頷いた。
「そうだ。……あのダガーは穢れた状態で、俺ではどうにもできなかった。危険だと判断し咄嗟に隠したが……穢れた侍女にすら見えてしまったようだ。未熟な術で申し訳ない。――先に知りたい。アルシュレイは無事なのか?」
……え、ど、どういうことだ?
俺は驚いて、手にカップを持ったまま固まった。
「案ずるな。第一王子とやらは私の聖域に匿っている。……お前が怪しいと踏んでいたが……違うと言いたいようだな。さて、これはどうしたものか」
リリティアがわざとらしいため息をこぼすと、ラントヴィーは薄い唇の端を持ち上げる。
「それなら俺は力になれる、
「なに?」
クッキーを摘まむリリティアの眉がぴくりと動く。
けど、俺はわざとガチャンと音を立ててカップを置いた。
「ちょっと待て。話をどんどん進めないでくれないかな。ラントヴィー……どうして
俺が言うと、彼は紅茶をひとくち含んでからじっくりとリリティアを眺めた。
本当にそこに彼女がいるのだと……まだ信じ切れないのかもしれない。
「
「構わない。
「……では」
そう言って……ラントヴィーは紅茶で喉を潤すと話し始めた。
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