第356話 重大発表
それから一週間、招待客たちには島でのんびりと過ごしてもらった。勿論一週間も仕事から離れられない人もいるので、そういう人たちは先に帰っていった。
そして招待客は元々冒険者をしていたり、俺の店で働いていた高校生達だけになった。
「そろそろ休暇も終わりにしようと思うが、満喫できたか?」
「はい、もう十分です。こっちには娯楽もないですしね。仕事も、収入は満足できる額があるし、休みもあるし、残業もないし、噂に聞くようなイカレた上司も、同僚もいない。普通に働くのが楽しいのでそろそろ戻りたいと思います」
「そうか」
高校生職員のリーダー格である女の子が答える。
そこまで言ってもらえてとても嬉しい。しかし、これから言うことがものすごく言いづらくなるな。
「コホン……そんな風に言ってもらえて経営者冥利に尽きるが、ここで重大な発表がある」
俺は一つ咳払いをして話を切り出す。
「そ、それはなんですか?」
俺に恐る恐る尋ねるのは光野くん。その表情は何故か怯えていた。
別に取って食ったりしないぞ俺は。
「えっとだな、悪い話じゃない。それよりも朗報だと思う。お前たちは地球に帰れる。おめでとう」
『は?』
俺は拍手をしながらこの前バレッタからもたらされた衝撃の事実を伝えた。
そしたら全員がおかしな顔をしてヘンテコな声を漏らす。
「だから、地球に帰ることができると言っている」
「そ、そそそそ、それは本当なんですか!?」
もう一度言い直したら、光野君がしどろもどろになりながらも、俺に尋ねた。
「勿論だ」
俺は彼の質問に首を縦に振る。
『うぉおおおおおおお!!』
高校生達から怒号が上がった。
『実際に帰る際には準備が必要なので、今すぐというわけじゃないということは伝えておいて下さい』
おお、そうなのか。分かった。ちなみにどのくらい時間が必要なんだ?
『そうですね。最短で1週間ほどかと』
了解。
俺はバレッタからの追加情報に心の中で頷く。
「ただ、今すぐというわけじゃない。準備に1週間は掛かる。だから焦る必要はない」
「そ、そんなこと言われてもなかなか落ち着けませんよ!!元々もう帰れないと思ってましたし、両親にも会えないと思っていましたから」
たしかにこんな事をいきなり言われたら落ち着くものも落ち着けないか。
帰る事を諦めてこっちで生きると決めていた彼らだけど、ふって沸いたような話に動揺するのは無理もない。
「そ、そうか。何か聞きたいことはあるか?」
詰め寄ってくる彼に尋ねる。
気になる事は色々あるだろう。だからその疑問を一つ一つ解消していく。
「そ、そうですね。まずもう一度聞きますけど、本当に帰れるんですよね?」
「ああ」
俺は光野君の剣幕に少し気圧されながら質問に答えた。
「一度帰ってこちらに戻ってくることは?」
「勿論可能だ」
一度帰ってみたものの、こちらで生活する方がいいってやつもいるだろう。それは当然できる。
親としては納得できないかもしれないけど、それを決めるのは本人だからな。そこに口を挟む気はない。
「ただ、俺も一度は帰るが、その後こちらに戻ってきたら、基本的に地球に行くことはないと思うのでしっかり考えてくれ」
俺も異世界に遊びに来たいと言われて何度もタクシーのように行ったり来たりするつもりはない。
「わかりました。ちなみにスキルとかはどうなるんですか?」
たしかにあっちに着いたらスキルなんて使えたら不自然だ。
『秩序維持のため、地球に残ると決めた人のスキル、というかステータスは消しますし、地球に滞在している間は封印処理をします』
そんなことまで出来るのか?
流石超古代の文明だなぁ。
「地球に戻ると人間のスキルやステータスは使えなくなる。こちらに戻ってくればまた使用可能になるぞ」
俺が消せるというよりは自然と使えなくなると言われた方が納得できるだろう。
「戻る時間はいつになるんですか?召喚された直後なのか、それともこちらで生活した分あっちでも時間が経過してるんでしょうか?」
それは気になる部分だよな。
後者なら今までどこにいたのか、何があったのか、どうやって帰ってきたのか、また行けるのか等の質問に晒されることになるだろう。
また、嘘つき扱いや変人扱い、誹謗中傷などの被害を受ける可能性もある。それを考えるなら当然前者の方がいいはすだ。
『どちらでも可能ですが、ケンゴ様が懸念されている通りのことが起こる可能があるので、召喚直後に戻るのが無難でしょう』
そうだよな。
「戻るのは召喚直後になる。だから消えていた間の事を問われることはないぞ。他には?」
ここも俺はどちらでも出来ることは言わずに答えた。
「こっちで手に入れた物は持ち帰れますか?」
たしかにこっちで稼いで色々得た物は出来れば持ち帰りたいという気持ちはわかる。
『召喚直後に戻るのなら却下ですね。もしもっていたら全て転移の際に全て没収です』
バレッタの答えはノー。
たしかにどこにも行っていないことになるのに、何か持っていたら不自然だな。
「転移の際にこっちで手に入れた物は全て消えるようだ」
「なるほど」
「ほかに質問はあるか?」
『……』
暫く待ったが、特に質問はないようなのでここで締めることにする。
「まぁまだ一週間あるからゆっくり考えるといい」
「分かりました」
俺は全員を連れてアルクィナスに転移した。
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