第351話 招待者達

「よっ!!楽しんでるか?」


 俺は招待した人間達に声を掛ける。


「ええ、休みをとった甲斐がありましたよ」


 そう告げるのは門番だ。リンネ以外で最初に関わった人物と言える。あれから事あるごとに関わることになったが、この人なら信頼できるだろうと言うことで連れてきた。


「それにリンネ様とケンゴ様の仲睦まじい姿も拝見できましたしね。これはそろそろお子さんの顔を見られる日も近いでしょうか」


 続けて少し遠くを見ながら感慨深そうに芝居じみた様子で述べる。


 俺達を弄ってもリンネが起こって切り殺したりしないことを見越している辺り、流石リンネを見守っている人間の一人だ。


「そんなに簡単にできないわよ!!知ってるでしょ!!」


 門番もリンネの血に様々な種族が混じっていることを知っていて、そういうことを言うからリンネも顔を真っ赤にして反論するんだよな。


「いえいえ、なんて生温いくらいに愛し合っているかと思いましてね」

「も、もう知らない!!」


 門番が口端をニヤリと吊り上げてリンネを見やって答えると、リンネは腕を組んでそっぽを向いてしまった。


「リンネ様は相変わらずですね」

「まぁあんまりからかわないでくれ」


 門番がクスクスと笑いながら俺の方を見るので、俺は肩をすくめて答えた。


「お約束はできませんね」

「はぁ……全く……まぁいい。日頃の疲れを癒して存分に楽しんでいってくれ」

「ええ、勿論です」


 相変わらずいい性格をしている。


 俺達はまた別の招待者の所へ移動した。


「よう。楽しめてるか?」

「おう!!まさかこんな島を持ってるなんてな!!それに料理が美味い!!俺の串焼きにも応用できそうだぜ」


 次に声を掛けたのはロドスだ。目の前には沢山の料理が並べられていた。


 色々な料理を食べて頭の中で試行錯誤しているようだ。流石職人。より高みを目指そうという姿勢は見習うべきところがある。ウチの店にもよく来ては何かを得て帰っているようだしな。


 それで次に行った時には豚串の味が良くなっていたり、バリエーションが増えていたりするんだ。


 食文化が乏しいこの世界でかなりうまいオーク肉の串焼きを出すだけあって、こいつは中々凄い奴なんだ。


「ああ。俺はお前の串焼き屋のファンだからな。もっと美味くなるのは大歓迎だ。存分に使ってくれ」


 俺はこいつには頑張って欲しいのでどんどん研究して欲しいから出し惜しみしたりはしない。


「おう、任せておけ」


 ロドスは俺の期待に応えるように手を上げた。


「それにしても前から分かっておったが、お前はやることのスケールが違うな」

「まぁそれが出来る力を手に入れたからやっただけのことさ」


 ロドスとの会話がキリが良くなった時に声を掛けてきたのは、リンネの親代わりの筆頭でもある鍛冶屋のグオンクだった。他にもグランドギルドマスターや評議員の面々も同席している。


「ガーハハハハッ!!リンネもいい男の所に嫁いだもんだ。これは将来安泰だな!!」

「もう!!止めてよね!!」


 グオンクは強い酒をガバガバ飲んで、それなりに酔っぱらって気分が良くなっていらしい。いつになく饒舌でリンネも困惑するしかない。


「なーに言ってんだ!!早く孫の顔を見せて安心させてくれ!!」

「だから!!そんなにすぐできないって言ってるでしょ!!これだから爺共は!!」


 ニヤリと笑うグオンクにリンネはグオンク他、自分を微笑ましい様子で見てくる親代わり達の姿をみて歯を食いしばる。


「ガハハハッ!!それだけ皆嬉しいんだよ!!」


 リンネの様子を笑って彼女の背中をバンバンと叩くグオンク。


 あれ痛くないのか?


 リンネは恨めしそうな表情をしたままなので大丈夫なのだろう。


「あら、リンネちゃんとケンゴじゃないですか。この度はご招待いただきありがとうございます」

「ありがとうございます」


 俺達招待客の下を回っていると、声を掛けてきたのはアレナとお付きのメイドさん。他にも数十人かのエルフを招待していた。


「いや、アレナも日ごろ女王業で疲れてるだろ?たまにはゆっくりするのもいいと思ってな」

「お気遣いありがとうございます」


 アレナが深々と頭を下げるが、ここでは女王業は休業中だし、他国の間者や肉を貶めようとするような輩は呼んでいないので問題ない。


「それに、今回は俺の同郷の奴らも呼んだし、他の多種多様な種族も呼んだつもりだ。つまり……」

「私のお婿さんが見つかると?」


 そこまで意図したわけではないが、その可能性もあるんじゃないかと思っている。それに俺の同郷の中には変態紳士もいるだろう。


 その辺りが本命だ。


「その可能性もあるってことだ。恐らく邪な感情を持つ奴は少ないだろうし、ちょっと頑張ってみてもいいんじゃないか?」

「それもいいですね。アピールしてみたいと思います」


 俺の提案にアレナはぱちりと可愛らしくウインクして見せる。


 可愛い。可愛いんだが、こうなんていうか異性への恋愛感情よりも、庇護欲とか父性欲を掻き立てられるような可愛らしさだ。


 娘とか妹ポジションならありかもしれないが、恋人や嫁はないな。


「露骨なのは止めろよ」

「むぅ~、分かってますよ!!」


 俺が頭をポンポンと撫でると、まるで子供のように頬を膨らませるアレナ。


 これで俺達よりも年上っていうんだからホントファンタジーだぜ。


「この酒も美味いな」

「はい、こちらのお酒も飲んだことが無い程に澄んでいてのど越しが良いですね」

「こっちのワインはとても豊か香りが口の中一杯に広がって美味いぞ」


 アレナと別れると、顔を真っ赤にして酒談義に花を咲かせる一団を見つけた。


「俺が聞くまでもなく楽しんでいるようだな?」

「おお。ケンゴではないか。うむ。此度は招待感謝する」

「うむ。なんだかインスピレーションが湧いてきたぞ。もっと美味い酒が造れそうじゃ」

「そうだそうだ。こんなとんでもない酒を隠していたとは。我も負けてられんな」


 俺が話しかけると、ジョッキを高く掲げて笑みを浮かべて返事を返してくれる面々。


 彼らはドワーフの国王と酒造りの職人たち、そして獣王のグループだ。彼らの周りには空の樽が積み上がっていて、すでに楽しんでいるのが丸わかりだった。


「ああ、楽しんでくれてるなら良かった。酒はいくらでもあるからどんどん飲んでくれ」

「聞いたか?酒はいくらでもあるという。これは我々への宣戦布告ではないか?」

「そうじゃの。この喧嘩を買わんのはドワーフではないの」

「よっし、我も獣王だ。酒がなくなるまで飲み干してやろう!!」

『おー!!』


 俺の言葉が彼らの酒魂に火を点けたらしく、一致団結してある酒を全て飲み干す勢いで飲み始めた。


 しかし、ここでは飲んだ傍から新しい酒が造られているので、彼らが勝負に勝つことはないだろう。


「どうやら、皆楽しんでくれているようだな」

「ええ。そうみたいね」


 俺とリンネは楽しそうな表情を浮かべる招待客の様子を見て安堵する。


 他にも俺が出会った人間を数百人は集めたので、とても賑やかな空間となった。

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