第349話 招待

「ということで、無人島を整備して最高に住み易くしたから来てみないか?」

「何がということでなのか全然分からないけど、お店はいいの?」


 春を堪能した俺達は、次に夏を堪能しようと思ったんだが、海は一度堪能したので、それ以外のイベントを楽しもうと考えた。


 しかし、春の時も思ったけど、俺達だけで楽しむには島は広すぎるし、人がいた方が楽しめるイベントがあるのも確かだ。


 そのため、俺達は自分が信用できる面々を島に招待することにした。


 秋と冬に関してはまだ俺達が堪能したとは言えないので、今回オープンするのは春と夏。そのために各季節に宿泊施設を建設し、いつでも客を出迎えることができる体制を整えた。


 そしてようやく受け入れの準備が整ったので、まず俺達の直属の部下に当たる、パンツちゃん含むアルクィナスにある俺がオーナーの店の地球出身の従業員を誘いにきたわけだ。


「うーん、そこなんだよなぁ」


 誘いにきておいて、まだ彼らが休む間の代替要員をどうするか考えていなかった。


 ゴーレムを使えば問題ないが、島の外では使いたくない。あんなのこんな所で使ったら皆働かなくなる……ということはないだろうけど、面倒なことを頼まれたりするかもしれないからな。


 出来るだけ信用できない人間の目に触れないようにしたい。


「お困りですか、ケンゴ様!!」


 そんな風に悩み俺に声をかけてきたのは元森林守備隊隊長だった。


「まぁな」

「やはり!!どうされたんですか?」


 俺が困っている気配を感じて駆けつけてきたらしい彼に肩を竦めて返事をすると、我が意を得たりとでもいうような表情で俺の困りごとを尋ねる。


 こいつらも信用できるし、どうにもならなかったとしても、話すくらいは問題ないか。


「ああ。福利厚生も兼ねて休暇と旅行をプレゼントしようと思ったんだが、その間の交代要員がいなくてな」


 そう考えた俺は、今困っている内容を隊長に話した。


「なんと!?そういうことですか!?それなら私たちにお任せください。皆様がお休みしている間、エルフの森から応援を連れてきますよ」

「おいおい、お前たちは休まなくていいのか?」


 そしたら、一瞬で解決策が提示されてしまった。しかし、それでは同じように働いている彼らが休むことができない。


「何をおっしゃいますか!!私たちはリンネ様とケンゴ様のお役に立てることこそが喜び。休みをいただけるよりも、ここで私たちを頼っていただけることの方が何百倍も嬉しいですよ!!」


 俺の心配をよそに、隊長は目をキラキラさせて語る。その言葉に嘘の匂いは感じない。彼と同じように働いている部下たちも俺の方を見て、うんうんと隊長の言葉を肯定するように頷いていた。


「そうか?ちょっと悪い気がするんだがなぁ……」


 しかし、やっぱりこいつらだけに働いてもらうのはなんだか悪い様な気分になる。


「いえいえ、私たちのことを思うならぜひともその大役をお申し付けください」

「だぁー!!分かった分かった!!分かったから、その仰々しい態度を止めろ!!」


 俺が少し迷うような態度を見せると、仕事中にも関わらず、全員が跪いて俺に頭を垂れるので、俺は慌てて全員を立たせて、その態度を1秒でも早く止めさせるために、彼らの要望を叶えることにした。


「ははぁ!!ありがたき幸せ!!」


 しかし、そうしたらそうしたで頭を垂れるので、少しの間営業が停止することになった。


『申し訳ありませんでした!!』


 俺たちは営業が止まったことを、店内に来ていた客達に謝罪する。


「いやいや、大丈夫だから!!」

「面白いものを見せてもらったよ!!」

「剣神はやっぱり大物だな!!」


 客達良い人達ばかりで、皆微笑ましそうに俺達を見て気にするなと言ってくれた。これが変な客なら因縁をつけてきそうなものだが、そういう輩がいなくて本当に良かった。


「それじゃあ、エルフ達が代わりに働いてくれるから君たちも休暇が取れるぞ」

『やったぁ!!』


 交代要員が確保できたので長期休暇が取れることを伝えると、彼女たちは喜んだ。


 出来るだけホワイトな職場を目指していたとはいえ、長期休暇はあげられていなかったからな。


 それに彼らは高校生だった。本来であれば、学生特有の長期休暇である夏休みや冬休み、そして春休みなどを享受するはずの年齢だ。


 それがいきなり無くなった生活はさぞきつかっただろう。


「それで、いつから応援はこれそうなんだ?」

「あ、はい。ここまでそれなりに距離がありますからね、一週間程で呼べるかと」


 俺は隊長に予定を確認すると、一週間後と言う答えを得た。


「そうか、その応援が来たら休みと言うことにしよう」

「分かりました」


 俺はパンツちゃんに決定事項を伝え、彼女は嬉しそうに頷いた。


 それからも世界各地を回り、信頼のおける人たちを俺達の島に招待することに成功した。中には簡単には来れない人物たちもいたが、どうにかして絶対にくるということだったので、予定の期日になったら迎えに行こう。


 招待し終えた俺は、島に戻って皆とのんびりと過ごした。

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