第322話 可能性

「さてどうするか……」

「流石にこのまま突っ込むのは危険よね」

「そうだな。流石に無策で突っ込むのは危険だ。ひとまずカエデに情報を伝えておく」

「そうね、それがいいと思うわ」


 インフィレーネの探知がきかないということは、エルフの国の遺跡や獣人の国の英霊の園のように緊急脱出として使用している帰投機能が使えない可能性がある。


 それでもバレッタが居れば負ける気はしないが、リンネも一緒にいるし、念には念を入れた方がいいだろう。


『カエデ、聞こえるか?』


 俺はカエデに念話で連絡を入れる。


『主君か。問題なく聞こえているぞ?どうかしたのか?』


 念話に反応があったので今の所問題なさそうだ。大丈夫だとはまずは注意喚起しておこう。


『ああ、今城に辿り着いたんだが、インフィレーネの探知で中を探ることができない。大丈夫だとは思うが、そっちも気を付けてくれ』

『承知』


 俺の注意を素直に受け取ったカエデ。


 やっぱりこのまま突入するのは危険だよなぁ。

 もう少し情報が欲しい。


『それと、今どのあたりにいる?』

『今は北西の方だな』

『分かった。ひとまず城を探る前にもっと情報が欲しいから俺達も聞き込みに回るわ。俺達が東側を回るから、カエデは西側を担当してくれ。今日は街の情報収集に徹して、明日三人で城に侵入してみよう』

『承知した』


 俺は方針を変更して今日は全員で情報を集め、その情報をもとに明日全員で城を探ることにした。


 分散するよりも皆一緒に居た方が対処できることも多いはずだ。


「カエデに連絡して俺達は城に突入せずにひとまず東側の情報収集をすることにした」

「分かったわ。私も冒険は好きだけど、流石に無策で飛び込むのはおすすめできないしね」


 俺の方針変更に、リンネも冒険者の先輩として俺の選択を支持してくれた。


 それから俺達は天翼族の貴族や裕福そうな家や、酒場などの人が集まりそうな所で聞き耳を立てて情報収集を行った。


 探知はずっと行っていたが、やはりあの王城だけが異質で、他の場所は問題なく探知することが出来たし、他の街同様にセキュリティと言う概念がないんじゃないかと言えるほどの無防備だった。


 しかし、それも当然かもしれない。なぜなら大した情報は得られなかったからだ。それどころかどこの家も奴隷への酷い扱いに興じている所ばかりでまるで何者かに操られているのではないか、とさえ思えた。


「いや……まさか……」


 俺は余りに情報がないことに違和感を抱き、一つの可能性を思いつく。


「何か分かったの?」

「いや、あくまで可能性だが、精神魔法が使われているかもしれない」


 俺の独り言を拾い、問いかけるリンネに俺は精神魔法の可能性を伝えた。


 これだけ地上人に対して異常な行動をとっている所を見ると、思考が誘導されている可能性が高い。


「え?古代魔法の?」

「ああ。俺以外使える人間がいるとは思わなかったが……」


 超古代の魔法の使い手が俺以外に居るとは思えなかったが、どこかの名探偵も、どんなに信じられない事実でも証拠が揃って導きされたものは真実、だと言っているので絶対ないとは言い切れない。


 とにかく古代魔法じゃないにしろ、それに準じる能力をもつ道具が存在しているのではないかと思う。


「もしかしたらバレッタの姉妹の誰かが居れ知恵しているのかしら?」

『それはありえません。私たちは全員同一の主に仕えるように設計されているので、姉妹の誰か一人だけ別の人間に従うとは考えにくいですね。それよりも私達に近い術をもつ』


 リンネもバレッタ達の姉妹のまだ見つかっていなかった者が俺以外と契約して力を貸している可能性について述べたが、ひょっこりと現れたバレッタの声によってその可能性は否定された。


「とりあえずローグル以上に奴隷の扱いが酷いから、これ以上地上人の死者が増える前に、王城以外の場所の奴隷を回収することにしよう。それから、ほとんど情報は分からなかったが、古代魔法と超古代の技術と戦う可能性がある。そうなるとバレッタ達の力を借りない舐めプも今回はやっていられない」

「そうね」


 今回の敵はあまりに危険なので舐めプは出来ないことが分かった。


 俺はインフレバトル系主人公ではないので、使えるモノは全部使って勝利する予定だ。


「だから、後でカエデにも話すけど、今回は総力戦を挑もうと思う」

「バレッタ達姉妹を使うのね?」


 俺の言葉に神妙な顔をして尋ねるリンネ。


「ああ、過剰戦力の可能性もあるが、安全であることに越したことはないからな。冒険が好きなリンネには悪いけどな」

「良いと思うわ。冒険は別の所でやるわ」


 俺はコクリと頷いて同意してリンネの大好きな冒険が出来ないことを者じゃいすると、リンネは気にするなと首を振った。


 こうして俺達は情報収集のおかげである程度方針が決定した。


 カエデと合流し、念話だけでは伝わらないニュアンスまで色々と共有した結果、やはり同じ結論が出た。


 俺達は深夜人々が寝静まった頃、王城以外で奴隷になっている地上人達を助けて回り、全て問題なく回収し終えた。


 翌日やはり王都内は騒然となるのであった。

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