第321話 不穏な気配

 それから二日後、途中寄り道しながらも俺達は王都へと辿り着いた。


 ローグルに奴隷が溢れていた事から、奴隷派が主流である王都にも奴隷がいることを覚悟して天空の門の列に並んだ。


 列の中に地上人を連れている者はいない。地上人は普通飛べないし、地上人が門を通る時はつまり奴隷になる時なので、検査とかがいらないのだろう。基本的に出ることはないのだろうしな。


 以前の国王の時は違ったのかもしれないが。


「やはりここも同じだな」

「そうね。むしろもっと酷いわね」

「ああ、そうだな奥方様。あれでは奴隷どころか家畜だ……」


 特に問題もなしに王都の中に入ることが出来た。


 ただし、奴隷の扱いがローグル以上に酷いものだった。奴隷たちはほとんど裸の様な格好をしており、二足歩行で歩くことさえ許されず、獣のように四つん這いで移動されられていた。


 体にはまだ真新しく痛々しい傷跡が残っていて碌に治療もされていないにも関わらず、自ら行動することを強要され、動けなければさらに体をえぐるような棘がついた鞭で叩かれ、血を流す。


 これが町の日常だなんて中々信じがたい状況だった。


 ローグルの事があったので子供たちは連れてきていない。その判断は本当に良かったと思う。イナホは相変わらず俺の頭の上でぐーすか眠っている。


「こりゃあ、ここも大掃除が必要そうだ」

「そうね、これじゃあ天空島を楽しめそうにないわ」

「そうだな。自分と同じ獣人族もひどい扱いだ。こんなものを見せられてははらわたが煮えくり返る思いだ」


 俺達はその光景を見るなり、心に怒りの嵐が巻き起こる。


 しかし、今すぐ動いたところで奴隷が留まっていないので連れ出すの時間がかかる。だから休んでいる時間帯が一番やりやすい。やはり決行するなら真夜中になるだろう。


 俺達は、胸糞悪い気持ちとすぐに助けることができないもどかしさを抱えたまま宿屋を探し、一部屋しか空いてなかったので三人でその部屋をとった。


「さて、王都の奴隷が全員この隷属の首輪と同様の種類の首輪をしているとするなら、すでにその魔力反応を記憶した今となっては、どこにいるか探すのは容易だ」

「ホントに!?それは凄いわね。天翼族からヒントや情報を聞き出す必要もない。これならどこにいるか確実に把握できるようになるから、余計な手間を掛けずに漏れなく奴隷を助けられるわ」

「相変わらず主君はとんでもないな」


 俺は今回倉庫から回収した隷属の首輪取り出して見せながら説明すると、リンネは感心するように、カエデは少し呆れるように頷いた。


「ああ、全員の居場所はもう追跡可能になったから寝静まった頃までに全員の居場所が把握できる高性能な地図を用意する。後は夜中にどこにいるか確認しながら分担して回収していけば問題ないだろう」


 これならどこに奴隷がいても分かるはずなので、効率よく奴隷を回収していけると思う。


 奴隷の回収はこれで問題ない。 


「ひとまず日中はローグルと同じく二手に分かれて情報収集を行おう。俺とリンネは王城を探る。カエデは貴族連中の屋敷を頼む。ないとは思うが、感情に身を任せた行動はしないようにな」

「了解」

「承知」


 夜にならないと動けないので日中に出来ることをやっておく。


 人目に付かない場所に来ることが出来た俺達は身を隠して調査を開始する。カエデは影に潜み、俺達はインフィレーネで姿を隠して宿の外に出た。


「さて、俺達は王城に向かおう」

「了解」


 俺達は人ごみを避けながら王城へと飛んでいく。王城は造りに地上と大きな違いがなく、城を城壁が囲んでいて、城門があった。


「ん?」

「どうしたの?」


 俺は王城に近づくと違和感に気付く。俺が漏らした声に反応し、リンネが俺に何かあったのか尋ねる。


「ああ、どうやらこの城は思ったよりも厄介な奴がいるかもしれない」

「どういうこと?」

「どういうわけかインフィレーネの探知で城内を探ることが出来ない。超古代遺跡に準じる技術や遺産を使っている人間がいる可能性がある」

「そんなまさか!?」


 俺が感じた違和感から想定されることをリンネに答える。リンネはあり得ないと思っていた事態に驚愕の表情を浮かべた。


 どうやらここにきて一筋縄ではいかない敵が現れた可能性がある。


 超古代文明の力が及ばないだけで、目の前に聳え立つ城が異様に不気味に感じた。

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