第301話 天翼族の身分

「よーし、皆準備はいいか?」

『はーい!!』


 俺の掛け声に皆が揃って声をあげた。俺たちはバビロンでの飛行訓練を終え、再び天空大陸にもどって来ている。


 これから俺達が向かうのは敵リーダーが言っていた一つ目の街。そこを目指して空を飛んで移動するつもりだ。


「それじゃあ行こう」


 俺が先に皆を扇動するように浮かび上がると、皆も俺に続くように浮かび上がる。


「目指すは北。しゅっぱぁーつ!!」

『おー!!』


 俺たちは北に向かって移動を始めた。風を切るように空を飛ぶ。


 俺とリンネが併走ならぬ併飛行を行い、その後ろを子供たちを引率するようにカエデが先頭になって飛行している。子供たちも練習の際に大分楽しんだので、遊びまわったりしない。 


「大陸自体が動いているから進行方向に向かって飛ぶのが大変なんだな」

「そうみたいね。確かにこれなら結構時間がかかるのも頷けるかも」


 この天空島は空をそれなりのスピードに移動しているため、その行きたい場所には進行方向に進みながら目的地の方角に飛ばなければならない。


 単純に飛んでいったらもっと早く着きそうだと思っていたが、こんな事情があったとは飛んでみるまで気づかなかった。


「しっかし、改めて思うけど、これだけデカい大陸が浮かんでいるのも不思議だな」

「確かにね。大きさはかなりあるし、空から見下ろして比較してみると、多分大国一国分くらいは普通にあるように見える」


 船からではなく、自分の身で飛んで見下ろすとまた違うものを感じる。リンネも同じようでこの島の大きさに改めて驚いていた。


 ここまで大きな大陸を浮かせることができるとすればおそらく……。


「そうだよなぁ。これも絶対超古代の技術が絡んでいるな、多分」

『おっしゃる通りですね。ここにも私たちの遺跡が眠っています。ただそれとは別の遺跡もありそうですが』


 俺の呟きに相変わらず突然現れるバレッタ。


 やはり、超古代文明の遺跡があるらしい。その遺跡の力で飛んでいるんだろうな。 できればそこに挑戦したいと思う。


 しかし、それ以外にも別の遺跡があるようだ。


「というと?」


 俺は先を促すように尋ねる。


『おそらく辛うじて残った私たちの技術の残滓を利用したものですね。私たちのように状態保存に優れた技術はなさそうなので、壊れかけだとは思いますが』

「そんな遺跡もあるんだな」

『ここが他の大陸から隔絶された場所だというのが、辛うじて残った大きな原因なのではないでしょうか』

「なるほどな」


 どうやらここには古代の遺跡もあるらしい。超古代の遺跡以上の技術なんてないだろうからあまり興味はないが。


 それから暫く北に向かって飛んでいると、前方に黒い点が見えた。


「あれは……」

「どうやら出発が少し遅かったみたいね。多分回収部隊というやつじゃないかしら?」


 黒い点の正体に気付く俺達。


 前方からやって来るのは人型で背に羽を生やしている人物達。リンネの予想が正しければ、アイツらが敵リーダーが言っていた回収部隊という奴ららしい。


「そうか、今はインフィレーネで姿を隠していなかったし、目視できるところからいきなり消えたら不自然だよな」

「そうね、でも実際に対応する方が面倒かもしれないから、隠れてしまうのもありだとは思うわ」


 俺の言葉に、リンネは同意しつつも、隠れるのも一つの選択肢だと言う。


「確かにな。でもせっかく変装しているんだ。ちょっと会ってみよう」


 それも間違いじゃない。でもそれでは変装した意味がないからな。試金石にするためにも一度会ってみるのも悪くないだろう。最悪催眠魔法で記憶を忘れさせてしまえばいいしな。


「それもそうね。これからずっと隠れるのもアレだし」

「そうだな」


 俺の言葉に同意したリンネに頷いて、俺達はそのまま北に向かって飛び続けた。


「失礼します!!やんごとなきお方たちだとお見受けしますが、こちらで何をされているのでしょうか」


 飛び続けていると、十数人程度の天翼族のグループに遭遇した。


 全員が軍服のようなものに身を包んでいて、その内の一番身分の高そうな一人が俺達に話しかけてきた。


「む。どうして俺達の身分が分かったんだ?」


 彼らが身分の事を指摘するので、それに乗って尋ねる。


「ははははっ。何をご冗談を。純白の白い翼は高貴な身分の方々の証。分からないはずありません」


 なるほど。天翼族って言うのは羽の色で位が決まるのか。


 城に近ければ近い程身分が高く、黒に近ければ近い程身分が低いわけだ。それを言うなら俺たちは完全に白い羽を生やしている。


 かなり高貴な出の天翼族だと思われても仕方がない。


「ふふふふ。そうか、まぁ隠す気はなかったが、バレてしまっては仕方がない。私たちは物見遊山に飛んでいたのだ。少々退屈していたのでな」

「なんと!?そうでしたか。それはお邪魔してしまいました」


 俺が適当な理由をでっちあげると、相手はその真っ赤な嘘にも気づく気配はなく、とても申し訳なさそうな表情をした。


「いやいい、気にするな。お前たちは回収か?」

「はい。そろそろスイーツを回収に行かなければマズいので」


 俺達の予想通り相手は俺達がボコボコにした敵リーダーたちの所に向かう回収部隊だった。


 彼の言葉を聞くに、不定期なのには理由がありそうだが、これ以上は墓穴を掘りそうなので止めておいた。


「そうか。こちらも邪魔をしてしまったようだな」

「いえいえ、それでは私共も先を急ぎますので、それでは」


 俺達も申し訳なさげに述べると、彼は首を振って敬礼のようなポーズを取ると、すぐに移動しようとする。


「ああ。それではな」


 俺はただ鷹揚に頷いた。特に疑われることもなく、回収部隊は飛び去ってしまった。


「あっさりと済んでしまったな」

「そうね」

「まさか羽があるだけでここまで対応が変わるとは」


 俺達はなかなか信じがたい体験に呆然とする。


 彼らにとっては羽と言うのが余程重要なのだろう。


「とにかく羽があれば浮くこともないようだ。後は羽の色を今の奴らくらいに変えておけば問題ないだろう」

「そんなこともできるのね」


 俺が早速手に入れた情報をもとに対応を考えると、リンネは感心するように頷いた。


 こういうことも考えていたと言えればいいが、実は唯こだわっただけというのは言わないでおこう。


「まぁな。早速やっておこう。全員羽の色を回収部隊の奴らと同じくらいになるようにイメージして腕輪に魔力を流せ」

『はーい』


 俺の指示に従って魔力を流すと、全員の羽の色が少しだけくすんで、白寄りの灰色へと変化した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る