第295話 調査という名目

 数時間後、俺たちは元居た場所に集まっていた。


「どうだった?」

「なんかなモンスターが結構いたわ」

「俺の所も同じだ」

「私の所もだ」


 二人に確認すると、二人とも同じように答える。


「俺のところはこんな綿あめみたいな犬とかショートケーキみたいな猪、ゼリーみたいな鹿を見つけたぞ」

「私の所はこれね。モンブランみたいな猫に、カステラみたいなライオン、アイスクリームみたいな兔ね」

「私の所は、キャラメルみたいな蛇、シュークリームみたいな狸、バームクーヘンみたいな犬だな」


 三人で戦利品を確認し合うと、デザートのようなモンスターだらけだった。植物と合せてみる限り、どうやらやはりこの辺りはお菓子なモンスターと動植物が生息する森のようだ。


 どれもこれも戦闘能力は低いみたいで、子供たちでも簡単に倒すことが出来たらしい。他の所でも子供たちが倒している所を見ると、子供たち皆で示し合わせたのかもしれないな。


「これ食べれると思うか?」

「どうでしょうね」


 俺とリンネが死体をツンツンと突っつきながら呟くと、


「食べれるぞ?」


 カエデがそう答えた。


「「は?」」


 俺たちは思いがけない答えが返ってきて、二人して間抜けな顔を晒した。


「だから食べられると言っている」


 カエデは俺たちの顔を見て再度同じように答える。


 こいつも大概食い意地が張ってるんだよな。

 元々の生活が貧しかったせいだろうか。

 美味しい食べ物対する執着が他の人と違うようにみえる。


「なんでそんなことが分かるんだよ」

「そりゃあもちろん食べたからだ。なぁ?」

「肉にはかなわないけど、悪くはなかったな」


 カエデについて行ったキースが満更でも無さそうな顔をして答えた。

 キースは倒した時に試し食いさせてもらったようだ。


「あ、キース君ずるい」

「私たちまだ食べたてないのに~」

「僕も~」


 しかし、キースだけお菓子なモンスターを食べていることに一斉にブーイングする子供たち。


 まぁそうなるよな……。


 俺はそう心の中で呟いた。


「はぁ……仕方ない。皆で食べてみよう」

「やったぁ!!」

「わーい!!」

「楽しみだな!!」

『食べたーい』


 俺がヤレヤレと言った表情で了承すると、子供たちは思いきり飛び跳ねて喜び合う。今まで寝ていたイナホも食べられると聞いて俺の頭の上でガバリと顔を上げてみんなと同様に返事をした。


「お前はホントに食ってるか、寝てるかしないのか」

『働いたら負けだよねぇ』

「はぁ……まぁお前はウチのペットだからいいか」


 どこかのニートみたいなことを言うウチの狐猫に、ウチで飼っていたペットは確かに何もしていないなと思い直して、好きなようにさせることにした。


「それじゃあみんなで食べてみるか」

『わーい』


 俺の許可に皆が沸き立った。


 それから俺たちは倉庫から取り出したテーブルセットに座り、それぞれがとってきたお菓子なモンスターを適当な大きさに切り分けて全員に配る。


「皆行き渡ったな?」

『はーい』

「それじゃあ食べよう。いただきます」

『いただきます』


 俺たちは一斉に口の中にお菓子モンスター口の中に放り込む。


『……』


 全員が咀嚼する以外に一言もしゃべらない。


 本当に美味い物であった時、人はついつい黙って食べ続けてしまう。


 これはそういうことだ。


「いや、適当な言葉が全く浮かばないが、滅茶苦茶美味いなここのモンスター」

「ええ、ホントに……」

「ああ、一度食べたが、何度食べても感動する味だ……」


 今まで食べてきたデザートの中でもバレッタが作ったものの次に美味しい。ただ、バレッタ程の完成度ではないものの、逆にその未完成具合が、食事処『剣神』の家庭の味のような独特な個性を生んで、美味さを引き立てていた。


「これはお菓子モンスターも植物同様沢山狩って、食事処に下すのがいいと思うが、どうだろうか?」

「そうね、あの店は料理人として麗美がいるけど、デザート方面はそれほど上手くはなかった。他の子達も普通程度には作れるくらいだったから、いいんじゃないかしら」

「うむ。あの店にデザートまで揃ったらまさに完全無欠の武芸者と言った感じだな」


 俺の提案に二人とも同意してくれたので俺たちは子供たちの戦闘訓練がてら、お菓子なモンスターを暫くの間狩り続けた。すると気づけばその日は日も暮れてきて、そろそろ夕食の時間に丁度いいくらいになっていた。


「そろそろ終わりにするか」

「そうね。良い時間だわ」

「うむ。そうだな。お前たち、そろそろ終わりにするぞ。最後にちゃんと仕留めろ」

『はーい』


 現在戦っているのは大きな貝型のマドレーヌみたいなモンスター。


 見かけは海に居そうなのにここにはそういうことを無視したモンスターが沢山いるからもう考えないことにした。


 四人の子供たちがマドレーヌ貝に全員でとびかかる。


「せい!!」

「やぁ!!」

「とぉ!!」

「にく!!」


 子供たちがそれぞれの掛け声で短刀でマドレーヌ貝を切り裂いた。


―ズシーンッ


 あっさりと切り開かれたマドレーヌ貝はその場に崩れ落ちる。


「お疲れ。今日はもう遅いから終わりにするぞ」

『はーい』


 俺達の所に帰ってきた子供たちに改めて今日の戦闘訓練を終わりにする旨を伝えると、全員からいい返事が返ってきた。


「今日はちょっと甘いものを食べ過ぎたから何かしょっぱい者が食べたいな」

「そうね、最後に貝を見たら、なんだか久しぶりにバーベキューがしたくなってきたわ」


 俺の言葉に同意するようにリンネがバーベキューの提案をする。確かにマドレーヌ貝は貝のような形をしていて海鮮を類推させるには十分だった。


「おお、俺は構わないが、皆はどうだ」

「私もいいぞ」

「さんせーい」

「いいよぉ」

「僕もいいかな」

「肉を準備してくれるならいいぜ」


 一人だけ相変わらずだが、全員特に問題ないので夕食はバーベキューで決定だ。


「はいはいわかったわかった。肉も準備してやる。それじゃあ、今日はバーベキューとしゃれこみますか」

『はーい』


 俺たちはお菓子ばかりの森でバーベキューに舌鼓を打つのであった。

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