第287話 神と海のコラボレーション
「これはこれはようこそお越しくださいましたケンゴ様、リンネ様」
城に向かった俺たちはどこのVIPですかと言わんばかりの待遇で迎えられた。兵士は元より、この国の貴族や王族も含めて俺たちに膝付いている。
「流石にこんなに手厚くもてなされると恐縮してしまうんだが?」
「何をおっしゃいますか!!ケンゴ様のお陰で未だかつて見たことがなかった水の神のお姿を拝することができました。水の神と友誼を結ぶ方を我々と同じように扱うことは出来ません」
どうやらこの国の神と仲が良くて、気軽に呼び出しちゃうような俺はもはやここでは人間扱いされないらしい。
神を呼び出したら俺も神扱いされてしまった件。
「とりあえず全員顔を上げて立ってくれ」
『ははっ』
俺たちの前に跪くヴェーネの上流階級の人間達が息のあった返事で、顔をガバッと上げた後、全員が立ち上がった。
「それでケンゴ様は今回どのような御用件でいらっしゃったのでしょうか?」
「はぁ……まぁいいや。今回は……」
恐縮しながら尋ねる女王に、俺は諦めたようにため息を吐いた後、今回尋ねた用件を伝えた。
「なるほど。今回のお越しいただいた件は承知しました。私共としては民たちに周知するのは問題ございません。ただ、あの水の神様は頻繁にお呼びしてもお怒りになったりはしないのでしょうか?」
「ん?ああ、リヴァイアサンはとても気のいい奴だからちょっと読んだくらいで怒ったりなんかしないぞ?」
「そうですか。それでしたら私共に否やはございません。民達も一生に一度しか見ることが出来ない様な光景に喜ぶことでしょう」
言いづらそうに俺に尋ねる女王に安心させるように答えると、彼女は安堵の息を吐いてにこやかな笑みを浮かべて俺達のイベント開催を了承してくれた。
「こんにちはー」
「こんにちは」
城を出た後、俺たちは良い思い出を作ってくれたラムのいる宿屋に入る。
「あ、おじちゃん、お姉ちゃん!!」
ラムが何やらテーブルの拭き掃除を手伝っていたところだったらしく、俺達を見かけるなり近寄ってきた。
「よう。店は少し落ち着いたか?」
「うーん。そうだね、少しずつお客さんたちも帰ってるよ!!」
俺の質問の意図を理解したラムは宿の状況を教えてくれる。
それなら大丈夫かな。
「そうか。ちょっとお母さん呼んできてもらえるか?」
「はーい!!」
ラムは店の奥へと消えていった。
「あらあら、ケンゴ様ようこそいらっしゃいました」
「ふぅ。良かった。ここでも跪かれたらどうしようかと思っていたところだ」
「ふふふっ。お客様が嫌がるようなことはいたしませんよ」
「それはよかった」
レイムは上流階級のように跪くことなく、普通に対応してくれる。
ああいう対応は非常に疲れるのでとても助かる。
「それで今日はどうされました?お泊りですか?」
「お、それも悪くないな。一室頼む。それとは別なんだが、今から数日後にこの街で盛大なイベントをやることになりそうなんだ。それは城から周知されると思うからお客さんたちが延泊することになるかもしれない」
泊りを進められた俺は一室予約を入れつつ、これから起こることを先に伝えておく。
「うちとしては願ったり叶ったりですが……」
「それで当日は忙しいと思うから、またラムを預からせてもらえないかと思ってな。特等席でラムにそのイベント見せてやろうかと。もしレイムたちも来れるなら一緒でも構わないんだが」
「当日私たちはお店の事で手一杯になるかと思うのでラムに構ってやれませんし、そんなに凄いイベントなら私どもとしても見せてやりたいので、一緒に連れてやってもらえませんか」
俺は困惑気味に答えるレイムに今回の主旨を伝えると、むしろお願いされてしまった。
家族の時間を奪ってしまって申し訳ないんだけどな。
「そうか。残念だが、仕方あるまい」
「いえいえ、心配りいただいてありがとうございます」
「おじちゃん、どこか行くの?」
俺と母親が苦笑を浮かべている所に、不思議そうな表情でラムが尋ねた。
「ああ、また海で面白いことをするから一緒に行けないかと思ってな」
「行きたーい!!」
「ああ、だからレイムたちは行けないみたいだから、ラムだけ連れて行くことになった」
「やったー!!」
ラムは自分が行けることが分かって飛び跳ねて喜んだ。
「それじゃあ、今日は一拍頼む」
「分かりました」
俺とリンネはそのまま宿に世話になった。
リヴァイアサンにも話を通し、ラムと遊んだりしながら迎えた当日。
「これよりケンゴ様方による、海上ショーを開催する。皆の者。心してみるが良い」
海辺に集まった民衆に対して、女王は豪華なゴンドラの上から語りかける。
「それではケンゴ様、宜しくお願いします」
「分かった」
―ブォオオオオオオンッ
俺が角笛を吹くと同時にそれは始まった。
海水が柱のようにリズミカルに立ち上ったり、水流が虹の様な軌道を描いて模様を描くように動く。そしてその中にリヴァイアサンが混じって、水流と巨大なシーサーペントの共演が行われる。
つまり、海そのものを噴水のように使って、リヴァイアサンがそれに合わせてイルカショーのように見せるように飛んだり跳ねたりする。その姿は雄大で、その動きを華やかに魅せるように水流の複雑な動きを描いていく。
その巨大なショーにしばしの間誰も口を開くことはなかった。
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