第267話 新婚旅行へ
ドワーフの国の東に向かう道の近くに転移した俺達。
馬車を出して中に乗り込むのでは無く、世界の空気に触れながら進むために御者台に二人で乗って進む。
アルクィナスより大分南に下っているせいかかなり暖かい、というよりは暑い。
しかし、その辺りはインフィレーネで温度や湿度などの環境調節を行っているので、俺たちが汗だくになったりすることはない。
ヴァレンティーナまでの道のりはそれ程特筆すべき事は多くない。野盗が襲いかかってきたり、山賊が襲いかかってきたり、狼が襲いかかってきたり、山の主が襲いかかって来たり、大河の主が襲いかかってきたりした程度だ。
俺とリンネの前には10秒も持たない相手ばかりだった。
「平和な道のりだったな」
「ホントね。こんなに平和なのはいつ以来かしら」
ドワーフの首都を出て10日。
ついにヴァレンティーナとの国境にやってきた。国境は大河に架けられた橋で、大陸を二分するような川の対岸同士で国が分かれている。
橋は遥か昔に掛けられた代物で魔法の力で洪水などが起こってもビクともしない強度を誇るらしい。
その橋は古代の技術が使われているのかもしれないな。
『私達の劣化技術でしょう』
俺の考えにバレッタが小さく答える。
十中八九そうだろうな。バレッタの時代の技術を超えるものに出会った事がないし。
それから十日間は近くに誰もいない事を良い事に、ワイスの力で増設された外より早く時間が流れる部屋でリンネとハッスルしまくった。
お互いよくも飽きもせずにこうも毎日まぐあっているなぁと思う。それだけ相性がいいんだろうな、心も体も。
「次の方!!」
「はいよ」
「よろしくね」
俺たちの番が回ってくると、ギルドカードを国境を守る警備兵に渡す。
「はぁあああああ!?」
渡された兵士は滅茶苦茶でかい声で叫んだ。
「どうした!?」
「何があった!?」
「なんだこれは!?馬車か!?」
その声に誘われてワラワラと兵士たちが集まってくる。元々馬車が注目を浴びるのは分かってるのでそれは構わないんだが、俺たちが悪い事をした、みたいな目で俺達を見るのは止めてもらいたいところだ。
「皆止めろ!!」
「なんで止めるんだ?」
「そうだ、こいつらがなんかしたんじゃないのか?」
声を上げた兵が青い顔をして俺たちに敵意を見せる兵士たちを止めようとする。その様子に窘められた兵士たちが訝しげな表情を浮かべる。
「お前ら、これ見ても同じ事が言えるのか?」
声を上げた兵士が俺たちのギルドカードを他の兵士に提示した。
『ひぇ!?』
カードを見た瞬間、全員が息を飲んで顔を青くした。
別に良いんだけど、俺たちのカードを勝手に誰かに見せるのはやめろよな?
「それで?もういいか?」
『はっ!!申し訳ありませんでした!!』
俺たちはギルドカードを返却してもらう。今までとは全く違う対応に俺たち以外の人間が驚く。
「あの〜、つかぬ事をお聞きしますが、お二人は我が国にどんなご用件でいらっしゃったんでしょうか」
俺たちの対応をしていた兵士が俺達に尋ねる。
確かにたった四人しかいない世界最高戦力の内の二人が揃って自分たちの国に入閣するともなれば、聞かざるを得ない質問かもしれない。
別に隠す事じゃないし、俺は堂々とその質問に答える。
「俺たちは夫婦だからな。新婚旅行として君たちの国の世界で一番美しいと言われる街を見にきたんだよ」
『はぁああああああ!?世界最高戦力同士の夫婦だってぇえええええ!?』
俺がにこやかに笑って答えると、兵士たちには信じられない事だったのか、天に向かって咆哮を上げた。
そのせいで他の人間の注目をさらに集める。だからそうやってナチュラルに人の個人情報流していくのホントに止めろ。
「それで?通って良いのか、悪いのか?」
「はっ!!勿論何も問題ありません!!お通りください」
「ありがとう」
俺とリンネは再び御者台に飛び乗り、門を潜って橋の内部へと入場を果たした。
「これは……」
「ふふふっ。驚いたみたいね?」
「知っていたのか?」
「ええ、とても有名だもの」
言葉を失う俺に、ドッキリが成功したかのように小悪魔な笑みを浮かべるリンネ。
俺たちの目の前には街が広がっていた。
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