第257話 根回し

 嫉妬心にかられたリンネによって心行くまで相手をさせられた後、放出された体液は全て保管されていた。


『お任せください』


 バレッタが先回りして収納してくれた結果だった。


 ふぅ、相変わらずいつも完全にみられていると思うとなんだかゾクゾクしてくるな。リンネにそのことを話したら、新しい性癖が目覚めてしまうかもしれない。黙っておこう。


 朝の散歩がてらひっそり城から出ると、湖の上をインフィレーネで障壁を張って、ぴょんぴょんと飛び移りながら渡り切り、さらに奥に進んで世界樹の麓にやって来る。


「作戦成功だったみたいだねぇ?」

「全くこっちはえらい目にあったぞ?」

「にゃははははっ。別にいいでしょ、お互い好きなんだから」

「まぁそうだけどな」


 麓に来るなり姿を現すアド。

 

 俺は肩を竦めて呆れ顔で言うが、彼女はニカッと笑って何事もないように話す。


 確かにお互い好きなんだから何も問題ないんだが、精神的にゲッソリしたので、こっちとしては文句の一つも言いたいわけだ。体はいくら出そうがいくらヤろうが、元気りんりん最適状態のままなので疲れはしないんだがな。


「で、一杯出した?」

「そりゃあまぁ出したには出したが、流石に一夜分じゃ足りないだろ」

「それもそっか!!」


 彼女は出会って最初にそんなことを聞く。


 見た目中学生くらいの女の子がそんな話題をおっさんに向かって話す酷さ。実際は人間ではないのでズレいていても仕方がないが、全く体液が大好きな世界樹の精霊とか一体何なんだよ。


「それで?パパンは何か用があってきたんじゃないの?」

「ああ、ちょっと協力してほしくてな」

「分かった。まずは話を聞かせてよ」


 まさか出す出さないの話をしに来たわけでもないことはアドも分かっていたのか、俺に本題を尋ねる。俺は手伝ってほしいことに関してかいつまんで話した。


「何それ面白そぉおお!!」


 アドはひらひらと舞い上がって俺の話に食いつく。


「それじゃあ、手伝ってくれるのか?というか出来るのか?」

「もちろんだよぉ!!女にとって他人の色恋は大好物。それにそんな大事な場面に立ち会えるなんて、従者冥利に尽きるというかなんというか。その上、そうなったらもっとパパンの体液貰えそうだし、にしし」


 どこか遠くを見て目をキラキラさせて語るアド。しかし、最後に本音が漏れている。どこまでも残念な奴だ。


「全くお前はもうちょっと人間のデリカシーってものを覚えろよ」

「やーだね!!これが私のアイデンティティ!!しかも今の性格はパパンとママンの体液が溶け込んだ結果だから!!二人の性格と元々の私が融合した結果が今の私。そんな大事な性格もの変えられるわけないじゃなぁい?」


 俺があきれ顔で非難するが、アドはクルクルと回って胸を叩いて誇らしげに話した後、俺を詰め寄って下から覗き込むように顔を近づける。


 そんな風に言われると俺もこれ以上言いづらいな。


「分かった分かった。アドはアドだからな。好きにしたらいい。とりあえず頼んだぞ?」

「やったぁ!!それは任せておいてよね!!」

「それじゃあ、また後でな」

「はーい、じゃあねぇ!!」


 約束を取り付けた俺は、もう一人協力をつけるべき相手の所に向かった。


「あらあら、朝早いですね?もしかして私を口説きに来たんでしょうか?」

「はぁ……全くそんなわけないだろ?」


 その相手はもちろんアレナだ。


 彼女はまだ王としての業務が始まっていないらしく、ラフな格好で自室で朝のティータイムを楽しんでいた。


「女性の私室にこんな時間に一人で来るなんて、そう思われても仕方がないと思いますけどねぇ」

「悪かったな。アレナも業務が始まれば忙しいだろうからな。それに終わってからじゃあちょっと急すぎると思ってな」

「へぇ~。それで何のお話なのでしょうか?」

「それは……」


 アレナにもアドにしたのと似た話をする。

 もっとも、彼女に協力を依頼したいのはアドとは別の事だが。


「まぁまぁ!!遂にあのリンネちゃんが!?時が経つのは早いものですね!!」


 アレナは妹を思う姉のように、嬉しそうに、そして感慨深げに興奮気味に語る。


「それで?どうなんだ?」

「私としては是非もありません。ぜひ協力しましょう!!無限図書館に行けるのなら!!」

「いやそっちかよ!!」


 こいつ……リンネの事だから協力するわけじゃなくて、無限図書館他のためだと言い切りやがった!!


 俺は思わず突っ込みを入れた。


「それで、ついでに私もいかがですか?」

「いらん!!」


 体に科を作って口元に人差し指を当て、上目遣いで俺を見上げるアレナを、問答無用で拒否した。


 確かに可愛い。しかし、姪っ子がおじさんに甘えているようにしか見えん。

 そんな性癖は俺にはない。断じてないのだ。


 それは絶対に開けてはいけないパンドラの箱。


 俺は触れる事さえ危険な箱が開くその前に、アレナの部屋を後にした。

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