第246話 おじさん、家を建てる
「随分街から遠い所の土地を買ったわね」
「俺たちには距離はあってないようなものだからな」
俺が買った土地は街から馬車で三十分ほど離れた場所にあった。俺の馬車なら十分もかからずに行ける距離だし、もっと言えば転移で移動すればいいので、街の中の喧騒に晒されるよりも、自然の中でのびのびと過ごせるこの場所にした。
元々地球に居たころ、市街地のゴミゴミとした雰囲気から離れ、自然の多いところでスローライフを送りたいなぁという願望を持っていたし、これから自分好みに開拓できることを考えると、ワクワクしてくる。
「それじゃあ、伐採始めるか」
「わかったわ。でも本当にいいの?」
俺がやる気を出して腕まくりをしていると、リンネが俺に尋ねる。
実は家を建てるにあたって、作業は俺一人でやらせてほしいとお願いしていた。というのもやはり男として、一緒に住む家を作るのに彼女に手伝わせるというのは違うと思ったからだ。
勿論一人作業する、というのはある面では嘘で、リンネに手伝わさせないための方便だ。グオンクやデミテル、アンリエッタにワイス、様々な叡智を借りて最高の家を作るつもりだ。
作業自体は本当に俺一人で行うが。
「ああ、出来れば一人でやらせてほしい」
「分かったわ。私は久しぶりに依頼でも受けてくるわね?」
久しぶりに特に何も用事もなく一つの街に留まるので、リンネはずっと受けていなかった依頼を受けに行くらしい。高ランク依頼ともなれば何日もかかることが普通なので、リンネが受ける依頼によっては暫く帰ってこない。
その間に家を作り上げてしまおう、という腹積もりだった。
「了解。いってらっしゃい」
「いってきます」
リンネとお互いに挨拶し合うと、彼女は買った土地から街へと歩いて行った。
「さて、依頼が決まって返ってくるまでに整地くらいはしておくか」
俺が買った土地はただの森だった。この辺一体の森全部が俺の土地になったのである。広さだけで言えば街よりも広い。その上、森の中に川が流れていて、奥に泉が湧いている。
森の中の泉のほとりにひっそりとたたずむ一軒家とか、めちゃくちゃ気分があがるだろう?
俺は早速泉の近くまでの道と泉周りの木を古代魔法で根っこから持ち上げて地面から引っこ抜き、抜いた傍から整地していく。始めてからものの一時間程で森の入り口から泉までの道と泉周りの鬱蒼と茂っていた木々が消え、地面も綺麗に平らになった。
これで家への行き来は馬車で問題なくできるようになる。もし誰かが来るようになってもわざわざ歩いてくるはめになったり、森で迷ったりすることもないだろう。
「相変わらず規格外のスピードね!!それに大分綺麗になったわ!!」
ちょうど整地が終わった頃にリンネが返ってきた。
「おう、ただ木を抜いて地面を均して固めるだけだからそんなに大変じゃなかったぞ」
「普通の人間は大変では済まないんだけどね。まぁいいわ。SSSランクの仕事はなかったけど、SSランクの仕事があったから受けてくるわ。少し離れた場所に行ってくるから一週間くらいかかると思うわ」
ふむ、予想通りだ。好都合だな。
「了解。気を付けてな」
「誰にモノを言ってるの?これでもSSSランク冒険者なのよ?」
「それでも心配するのが恋人ってものだろ?」
「~!?」
腕を組んでドヤ顔で答えるリンネに、俺がニヤリと笑いながら抱き寄せるようにして言うと、瞬間沸騰器のように一瞬にして顔を真っ赤にして固まった。
いつまでも初々して好きだなぁ。
「も、もう、私をそんな風に扱うのはケンゴだけなんだからね!!」
数十秒くらい眺めていると、ハッとして頬を染めてそっぽを向いた。
「一緒にいたら守れるけど、一緒にいたら何かあった時守れないだろ?」
「だ、大丈夫よ、これがあるもの」
俺が肩を竦めると、リンネはそっぽを向いたまま俺がプレゼントした髪飾りに手を当てて目を細める。
「ははは、そうだな。何かあったら呼んでくれ。すぐに駆けつけるから」
「わ、わかったわよ。何もないと思うけど、何かあったら呼ぶわ」
恥ずかしさから居心地悪そうに答えるリンネ。
「それじゃあな」
「うん、行ってきます」
別れの挨拶を行い、離れようとしたとき、グイッと体を引き寄せられて、唇にやわらかい感触が現れてはすぐに消えた。
「お返しよ!!」
ほんの一瞬の接触の後、彼女はとても自然なウインクを俺に向けてすぐに走ってこの場を去った。
俺はしばらく呆然としていた。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
思考が回復した後、俺は全能力を使って家づくりに邁進した。
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