第245話 土地、買いました

「いらっしゃいませ」


商業ギルドに行くと、身なりも恰幅もいい四十台ほどの男性に出迎えられた。


「おっと、剣神様とリンネ様でございますね?」

「あ、ああ、そうだが……」


 グイっと顔を近づけてくる男のなんともいえない迫力に俺は気おされるようにのけぞった。


 誰だよこいつは。


「やはり!!いつこの商業ギルドにお越しいただけるのかと一日千秋の思いでお待ちしておりました!!私、商業ギルドのギルドマスター、チョンマルと申します。以後何卒よろしくお願いいたします」

「そ、そうか。よ、よろしくな!!」


 俺たちの素性を確認した後、チョンマルは先程までの態度はなんだったのかというほどの変わりようで、非常ににこやかな表情へと変わり、饒舌で早口になって俺達への気持ちを熱く語った。


 俺はタジタジのまま握手を交わす。


「はい、ギガントツヴァイトホーンには非常に稼がせていただきましたし、アイツは家族の仇でもありました。とにかく感謝を申し上げたかったのですが、私が出先から帰ってきた際にはすでに剣神様はこの街を立たれたあとでして……」

「それはすまなかったな」

「いえいえ、とんでもございません!?こうして今感謝をお伝えできているのです。何も問題ございませんよ!!……コホンッ、そ、それでは私の話はこの辺にして、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 徐々にしょんぼりしていくチョンマルに申し訳なくなって俺が頭を下げると、恐縮したように体の前で手を振って慌てた。その後、場の雰囲気が微妙になっているのを感じてハッとした表情になり、一度咳ばらいをして本題に移った。


 商人なのに表情がころころ変わる人だ。


「おお、やっとか……。今日は家と商売をする店舗が欲しいと思ってな。紹介してほしいんだが……。一応紹介状もある。それと商業ギルドへとの登録もお願いしたい。」

「剣神様はただでさえ恩人であるので便宜を図るのは当然ですが、冒険者ギルドのグランドマスターの紹介状もお持ちとあらば、私たちの紹介しうる最高の物件をご紹介いたしますね。冒険者登録はこちらでやっておきますね」


 正直家の件とは別に登録するのは面倒だったんだが、それも解決した。


「そっちで登録してもらえるんだな、助かる。家はどのくらいになりそうだ」

「なんのなんの。最大限勉強させていただきますのでとてもお安くなりますよ!!」


 チョンマルが揉み手をして答える。


 あまり無理はしなくていいんだが……。

 でもそれを言ったとしてもチョンマルは引きそうにないな。

 それならその行為に甘えさせてもらおう。


「そうか。それじゃあ紹介してもらえるか?」

「分かりました。おい、君、この方たちを応接室に案内して!!」


 もはや忠臣と言ってもいいくらいにこちらに便宜をはかってくれるので、俺とリンネも思わず困惑した顔を見合わせて、お互いに小さく笑った。


「はい、承知しました!!」


 俺たちは近くに居た女性のギルド職員に案内され、応接室に通された。


「いやいや、お待たせしました」


 チョンマルはデカい冊子をいくつも抱えて応接室へと入ってきた。


「いや、気にしないでくれ」

「別に大丈夫よ」

「恩人をお待たせするなど私の矜持が許さないのですがね。物件の資料を集めてまいりました。条件はございますか?」


 俺もリンネも気にしていなかったが、チョンマルは恐縮しつつも不敵な笑みを浮かべて俺たちに尋ねる。


 条件か~。


 俺とリンネで思いついた条件を言えるだけ言うと、チョンマルは崩れ落ちた。


「申し訳ございません。それだけの敷地と設備となりますと、既存の物件では対応できそうにございません」

「そうか……」


 やっぱり既存の物では難しいらしいな。

 元々ダメもとだったし、オーダーメイドするつもりだったから問題ない。


「それじゃあ、オーダーメイドで造りたいんだが、土地は紹介できるか?」

「それはもちろん。先ほどおっしゃっていただいた条件に当てはまる土地に心当たりがあります」

「それじゃあ、その土地を見せてくれ」

「承知しました。職人や材料などはよろしいので?」


 土地だけを依頼する俺を不思議そうにチョンマルが見つめる。


「ああ、自分で作るし、材料も自分でとってくる」


 実際魔法やワイス、イブなんかを呼べば大抵の物が作れると思う。

 分からなければ無限図書館で調べればいいしな。

 材料も伝説の好物が空の彼方に沢山浮いているから取り放題だ。


「流石剣神様多才でございますね。御見それしました。それでは早速向かいますか?」

「ああ、土地を見られるのならすぐにでも頼む」

「分かりました。馬車を手配いたしますので、ここでもうしばらくお待ちください」

「了解」


 チョンマルが凄い勢いで部屋から飛び出した後しばらく待つと、俺たちを案内してくれた女性職員がやってきて馬車へと連れて行ってくれた。


 そして俺たちは街の中ではなく、外の土地で条件にあった場所をいくつか見せてもらうと、その中の一つが気に入ったので買うことにした。


 根無し草だった俺はついに土地所有者となったのである。

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