結婚と新婚生活

第243話 拍子抜け

 昨日飲み明かしたばかりだが、俺とリンネは再びアルクィナスへと向かった。


「あれ?また来たんですか?」

「ん?ああ、ちょっと冒険者ギルド本部に用があってな」


 今日もいつもの門番が立っていて、顔なじみとなっている俺と軽く会話を交わす。


「へぇ、そうなんですか。分かりました。どうぞお通り下さい」

「んじゃまたな」


 俺が手をひらひらさせて城門をくぐっていくと、


「はい。リンネ様、今日は二人きりのご様子。新婚旅行を楽しんでくださいね!!」

「まだ結婚もしてないわよ!!」


 後ろで相変わらずリンネがからかわれていた。


「よっす。おっさん元気だったか?」

「ん、おおおう!!剣神じゃねぇか。元気に決まってんだろ。ってそうじゃねぇ、だから俺はおっさんじゃねぇって言ってんだろ!?」

「はははは、今日もいいノリ突込みじゃねぇか。それじゃあ二本な」

「ったく仕方ねぇ奴だ。ちょっと待ってろ」

「あいよ」


 高校生たちをここに届けた時も昨日もロドスの串焼き屋に寄らなかったので、久しぶりに買いにやってきた。


 相も変わらず元気そうで何よりだ。


「はいよ、出来立てだ」

「ん?二本多いぞ?」


 頼んだのは二本だったのに手渡してきたのは四本だった。


「ん?あぁ、最近黒髪の奴らが大勢ここに買いに来るようになってな。お前の知り合いだって言ってたからな。宣伝してくれたんだろ?その礼だ」

「別にそんなのいいのによ」


 高校生たちにもここの店は安くて美味いって宣伝したのがバレたか。

 あいつらも律儀にここに来てくれたんだな。


 俺はなんだか心が温かくなった。


「儲けさせてもらってんのにそんな不義理な事できるかよ。もっていけ」

「へいへい、ありがたくいただくよ」


 俺は四本になった串焼きを押し付けられるように受け取った。


「リンネはどうする?」

「二本食べてもいい?」

「はいよ」

「ありがと」


 リンネに何本食べるか聞いてほしい数を渡してやる。


「ははは、もう完全に夫婦じゃねぇか。仲が良くてなによりだ。爆発しろ!!」

「ははは、いいだろ?お前も早く女房捕まえろよ!!」

「言ってろ!!」


 これ見よがしにリンネを抱き寄せてドヤ顔で答えると、ロドスは悔しそうに捨て台詞を吐いた。


 リンネは串焼きをモグモグと頬張りながら、頬を赤らめつつこちらをジト目で睨んでいる。


『悪かったって』

『ふん。べつにいいわよ』


 俺たちは念話でやり取りを交わした。


 ロドスも俺とそう年齢は変わらないけど、それなりに渋くてちょい悪って感じのおっさんだし、嫁さんの一人二人できそうなのになぁ。勿体ない。


 今度誰か紹介してみようか。


「んじゃ、そのうちまた来るわ」

「へいへい、ありがとうございました!!」


 俺がニヤリと笑うと、ロドスは追い払うような手のしぐさをしながら嫌そうな表情を浮かべて俺たちを送り出した。


 全く素直じゃないな!!


「いらっしゃいませ、あっ、リンネ様とケンゴ様じゃないですか!!」


 冒険者ギルドに足を踏み入れ、窓口にちょうどキラリさんが立っていたのでその窓口を選んだ。キラリさんは俺たちの顔を見るなり、澄ました笑顔から満面の笑みになって叫んだ。


 キラリさんは俺を冒険者登録してくれた思い出深い人物の一人だ。冒険者ギルドにも長い事寄っていなかったのでかなり久リぶりの再会となる。


「リンネ様だと!?」

「あっちは剣神じゃねぇか?」

「やっぱりあの二人はラブラブだな」

「そうだな、俺もあんなカップルになりたいぜ」

「ははは、その前に相手を見つけろよ!!」

「ちげぇねぇ!!」

『かんぱぁあああああい!!がーっはっはっは!!』


 キラリさんが叫んだことで隣接された酒場に俺とリンネが現れたのがバレた。俺たちを見つけた冒険者たちによって酒の肴にされる。


 まぁ楽しそうに飲んでるだけなら問題ない。


「元気そうね、キラリ」

「キラリさん、久しぶり」

「お二人も元気そうで何よりです」


 酒場の連中は無視して三人で挨拶を交わす。


「あ、そういえば、お二人がギルドに来たらマスターの部屋に呼んでくれて言われてたんでした。早速ご案内しますね」


 なんだろう?

 俺達としては元々話があったからちょうどいいけど。


「そうなの?それは渡りに船ね。私たちもグランドマスターには用があったから」

「そうなんですか?なんていうかタイミングがいいですね。それではいきましょう」

「ええ」

「了解」


 リンネとキラリさんはお互いに笑いあった後、キラリさんが受付を他の受付嬢に引き継いでカウンターの外に出てきた。そしてそのまま案内されてグランドマスターの部屋に向かった。


―コンコンッ


『入れ』


 キラリさんがノックをすると、扉のむこうから懐かしい声が聞こえた。


「失礼します」


 キラリさんが挨拶をしながら中に入っていき、俺達もその後に続く。


「おお、リンネとケンゴではないか。久しぶりじゃな」

「マスターも元気そうね」

「まだまだ元気そうだな」

「ふぉっふぉっふぉ。まだまだ若い者には負けんわ」


 俺達がゾロゾロと入っていくと、執務机に向かっていたグランドマスターが顔を上げ、俺達を見るなりその好々爺じみた顔の皺をより深めて俺たちを出迎えてくれた。


「それで?私たちに何か用があるって聞いたけど?」

「うむ、お前たち、というよりケンゴにじゃな。でもお前たちはラブラブじゃからな。一緒に来てもらったわけだ」


 リンネの質問に、ニヤリと口端を吊り上げて、いたずらが成功した子供みたいな笑顔でグランドマスターが答える。


「うるさいわね!!それが何か悪いの!?」


 顔を真っ赤に反論しているが、ラブラブな部分を否定しない所はかなり成長したのではないかと思う。


「いやいや、儂は嬉しいぞ?」

「なんだか釈然としないわ!!」


 生暖かい目で見るグランドマスターに軽くいなされて、リンネは腕を組んでそっぽを向いた。


「それで?俺に用ってなんだ?」

「これを渡そうと思っての」


 グランドマスターそう言いながら俺にカードらしきものを投げてよこした。


「これは!?」


 俺はクルクルと高速回転して飛んでくる物体を掴み、その表面を見て愕然とした。

 なぜならそれはズバリ俺が欲しかったものだったからだ。


「そうSSSランクの冒険者カードじゃ。つまり、今日からお前はSSSランクじゃ」


 うろたえる俺を孫を見守る祖父のような目で見ながらグランドマスターが呟いた。


 推薦を勝ち取ろうと意気込んできた俺のこの気持ちはどうしたらいいんだ……。


 俺は拍子抜けしてソファーへとガックリと崩れおちた。

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