【書籍化】おっさんと超古代文明〜巻き込まれて召喚され、スキルが言語理解しかなくて追放されるも、超古代遺跡の暗号を解読して力を手にいれ、楽しく生きていく〜
第237話 崩壊の夢想曲③(ヒュマルス国王Side)
第237話 崩壊の夢想曲③(ヒュマルス国王Side)
「はっ!?」
余は目を覚まして、先程の出来事を思い出し、サッと体を起こして周りの様子を窺う。すでに周りには宰相を含む部下たちの姿はなく、部屋には余一人であった。
先ほどまでのことが嘘のように静かで、辺りは真っ暗ですでに夜になっているようだ。しかし、起きてすぐにまた意識を失ったせいか、ここしばらくの出来事が現実なのか夢なのかいまだに自覚できていない。
臨場感は明らかにリアルではあるのだが、あの悍ましい夢魔との出会いもかなりリアルだった。それを考えると何が夢で何が現実か分からなかった。
―ガチャリッ
「これは陛下……お目覚めですか?」
余が起きてすぐにタイミングよく誰かが入室してきた。声により侍女長だと分かる。しかし、前回のことがあったため、警戒を解くことはしない。
「うむ。あれからどうなった?」
「はい。皆様会議に移動して対策を考えておられます」
「そうか……」
顔が見えるほど近づいてきた侍女長の顔はリーチェのように若返っていることはなく、いつもと同じもう初老に差し掛かる容姿だ。これなら何も間違いは起こるまい。
「どうされますか?」
「着替えてその部屋に向かおう」
「分かりました。お手伝いいたします」
「うむ」
余はベッドから降りると、侍女長の手を借り服を着替えはじめた。衣擦れの音だけが室内に響き渡る。侍女長が甲斐甲斐しく寝間着を脱がせ、仕事用の服を取り、余に着せる。
そうそう。これこそが余の日常なのだ。
リーチェが気づいたら、厳つい男に代わるようなこともなく、侍女長はいつもと同じように余を着替えさせている。
―ドスッ
しかし、そう気を抜いた瞬間であった。
「ぐっ!?」
脇腹に鋭い痛みが走る。視線を落として痛みの元を見ると、そこには包丁のような大きさのナイフが刺さり、血が少しだけしたたり落ちていた。
「何を!?」
振り返ると、穏やかにほほ笑む侍女長がいるはずが、目がおかしくなったのか、口端を吊り上げた悪魔のような顔をした侍女長が佇んていた。
「やっとよ……やっとこの時が来たわ!!あはははははは……」
狂気孕んだ笑みで高笑いする侍従長。
一体なんだというのだ?
―ドサリッ
痛みに耐えかねて余は床に這いつくばる。
「ぐわぁ!?」
脇腹に突き刺さったナイフを引き抜かれ、体から何かが抜けていくのを感じた。
「ふふふふふっ。今なら誰もここに来ない。このチャンスを逃す手はないわ!!」
「ぐふっ」
どこか超然とした表情を浮かべながら夜を蹴り、仰向けに転がす。
「なぜだ……」
余はなぜ侍従長がこんなことをするのか理由が知りたかった。
「ふふふふっ。なぜ?なぜですって!?陛下が私の息子を殺したんでしょう?」
侍従長は狂気じみた顔のまま、余の上にまたがり顔をグイっと近づけてくる。
「誰の……ことだ?」
朦朧とする意識の中、再度問う。
「覚えてないでしょうけど、いいでしょう。あれは三十年前……」
途切れる意識の中で分かったのは、ずいぶん昔、余がまだ王太子だったころに、侍従長の息子である獣人の子供を殺したということだ。
獣人など人ではないというのになぜそこまで怒る必要がある?
そう言うと、
「あなたには!!」
「ぐはっ!?」
「人に見えなくとも!!」
「ふぐぅ!?」
「私にとっては只一人の!!」
「はがぁ!?」
「子供だったのよ!!」
私の体に幾度も包丁を下ろしながら絶叫した。
もうほとんど意識が残っていないが、余にはいまだに彼女が何を怒っているのか理解できなかった。あんな汚らわしい者など人間に虐げられ、蹂躙されて当然なのだから。
そんな風に思いながら、余は意識を閉じた。
…
…
…
…
…
そこで余の生涯は終わったはずだった。
「はっ。……はぁ……はぁ……」
しかし、余は再び目が覚めた。しかも無傷で。服は着替える前の寝間着のままだ。
「余は死んだのではなかったのか?あれも夢か……?」
全く意味が分からなかった。
―ガチャリッ
「おお、陛下!!お目覚めですかな!!」
また余が起きたタイミングで人間が入室してくる。今度は執事長だった。侍従長ではなかったのはほんの少し安堵した。
「おや、顔色が優れませんな?」
「いや、問題ない。悪い夢を見たモノでな?」
執事は余のベッドに顔を覗き込むと眉を下げるが、心配ないと首を振る。
「ほう?」
一瞬驚いた顔をした執事長であったが、
「こんな風な、ですかな?」
「ぐふっ!?」
とても目が笑っていないのに、口端が大きく上がった笑みを浮かべた。少し下を向くと、胸には侍従長が余を刺したナイフと同じものが胸に刺さっていた。
余は再び殺されてしまった。
それから幾度となく殺された。家族、重鎮、兵士、貴族などなど、おおよそ余に近しい者達全てに殺され、もう何度殺されたか分からない。
しかし、殺す相手が言うのは、人間以外の何物かを殺された恨み、だというのだ。
人間が人間以外の下等生物を殺して何が悪いと言うのだ。
それからも余の悪夢は終わることはなかった。
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