第226話 国境横断ウルトラウォーズ
隊列を組み終わった魔族の兵士たち。
「諸君!!救国の英雄リンネ様の伴侶であるケンゴ様がお前たちに直々に補助魔法をかけてくださるそうだ」
『うぉおおおおおお!!』
バルスが隊列の前に立ち、俺達はその隣に立たされている。いやひっそりやるだけでよかったんだが、ぜひにということでこういうことになった。
「補助魔法掛けられたいかぁ!!」
『うぉおおおおおおおおおお!!』
「どうしても掛けられたいかぁ!!」
『うぉおおおおおおおおおお!!』
「死ぬのは怖くないかぁ!!」
『うぉおおおおおおおおおお!!』
「死んでもよみがえらせて欲しいかぁ!!」
『うぉおおおおおおおおおお!!』
どう見てもどこかのクイズ番組のようなノリになっている。俺には困惑しかない。
「それではケンゴ様お願いします!!」
『うぉおおおおおおおおおお!!』
なんで俺に対する言葉なのにお前たちが返事しているんだよ!!
完全に場に酔ってるだけじゃねぇか!!
『筋力上昇、魔力上昇、耐久上昇、器用上昇、精神上昇、消費軽減、結界』
各種ステータスアップと、体力や魔力の消費軽減、そしてある程度までのダメージを遮断してくれる結界を張ってやった。
これでよほどのことがなければ問題なく勝てるだろう。
「なんだこれ、力が漲る!!」
「やべぇ、今なら誰にも負ける気がしねぇぜ」
「これで勝つる!!」
「はっはっは!!敵がゴミのようだ!!」
バフを受けた魔族達がその効果にそれぞれの反応を示す。
そうじてワクワクしているようだ。
相手は弱っている上に、こっちは能力の上昇に結界まで貼ってある負ける要素がないので、士気も爆上がりだ。
「それではこれよりヒュマルス王国の奴らをボコボコにしてやるぞ!!ただし誰一人殺すな!!わかったか!!」
『うぉおおおおおおおおおお!!』
こうして魔族達は進軍を開始した。
魔族達はバフによって向上した身体能力を活かし、野を越え、山を越え、谷を越えて草原へとたどり着いた。
そこは通称邪龍平原、邪龍戦役で最も戦闘が激しく、多くの邪龍が命を落とし、その怨念がとどまっていると言われている、何やらどんよりとした重い雰囲気が漂っている草原だった。
前方、豆粒くらいに人が見えるくらいの距離にヒュマルス王国軍が隊列を組んでいるのが見える。
あいつらカエデたちにあんな状態にされてもちゃんと並んでいるんだなぁ。
だとしたら凄い精神力だ。ちょっと尊敬する。
それにしてもあっちの斥候は良くもあの状態で偵察できたものだ。
きっと尻をすぼめてひょこひょこ動きながら、そして途中で垂れ流したりしたのかもしれないなぁ。
俺は相手の苦労を想像して一筋の涙を流した。
こちらも陣を展開し終えた後、一人の魔族がヒュマルス王国へと掻けていく。豹のような見た目の種族だ。おそらく宣戦布告を告げる使者という奴だろう。
相手は自分たち以外の種族を人とは認めない頑な種族。いきなり攻撃してこないか心配だ。
「あっ」
案の定その心配は当たり、豹兵士に突然矢が斉射攻撃が降り注ぐ。しかし、相手は狙いをきちんとつけられていないのか、明後日の方向に弓矢が飛んでいき、豹兵士の元に届く矢は多くない。
豹兵士は元々のスピードをバフで上昇しているためか、矢をまるで躍っているかのように軽やかに躱しながら突き進む。その動きは残像が見えるほどだ。矢は誰もいない地面に吸い込まれるように突き刺さり、ついには豹兵士が相手の軍の正面に辿り着いた。
「ヒュマルス王国は我々魔族の民をなんの連絡もなく、不当に拉致、拘束し、また死に至らしめた。それを認め謝罪するのであればこれより進軍を止めることを検討する。そうでないならこのまま全軍をもって侵攻する!!返答や如何に!!」
豹兵士が思いきり声を張って叫んだ。
その口上に対しての答えは再び降り注ぐ矢の雨であった。
「それが答えか!!首を洗って待っていろ!!私たちはお前たちを許さない!!」
目にもとまらぬステップを踏みながら矢を躱してそう答えた豹兵士。まるで背が見えているかのように後ろ向きのままこちらに後退してくる。
「全軍、あの愚か者どもに眼にもの見せてやれ!!」
『うぉおおおおおおおおおお!!』
使者に攻撃されたことを確認した司令官が突撃命令を出す。
そういえば魔族は武器を持っていないな。
俺が殺さないでほしいという指示を出したのを考えてのことだろうか。
兵士たちは全軍をもってヒュマルス王国軍へと突っ込んでいく。矢が飛んでくるが結界に阻まれ、魔族達に届くことはない。
使者は気付かせない為にわざとかわしていたのだ。
矢を諸共しない魔族軍にとって、魔法部隊もいない敵軍は遠距離攻撃を失った歩兵だけの部隊。
恐るるに足りない。魔族達は一心不乱に敵陣へと突っ込む。
「ひっ、ひぃ!?」
「助けてくれぇ!!」
怯む様子の無い魔族軍の波を見たヒュマルス王国の兵士たちは、ただでさえ腹を壊している者が大半な上、装備も鎧の下に着る下着のような物だけ。
そんな状態ではまともに戦うことは出来ない。ここに来たのも上官の命令で仕方なく、という兵士たちが多いだろう。
だからこそすぐに恐慌状態に陥り、あっという間にヒュマルス王国軍は瓦解してしまった。
「一人も逃がすな!!」
「殺すんじゃないぞ!!俺たちの仲間に手を出したことを後悔させる為に痛めつけるんだ!!」
「まかせろ!!」
ただでさえ弱っている相手に、俺のバフが重なり、魔族軍は薄く横に広がり、包囲するようにヒュマルス王国軍を追い詰めていく。
勇者達を頼りにしていたヒュマルス王国軍の人数は魔族軍の半分程度。それから1時間程度で国境沿いの戦いは終わる……はずだった。
「なんだか嫌な気配がするな?」
「ええ。何かしら……」
俺たちは平原に何か不穏な気配が集まるのを感じた。その気配はどんどん大きくなり、辺りに紫のような毒々しい霧が薄く立ち込める。そして事態は急変する。
地面がぼこりぼこりと盛り上がり、異形の者が這い出した。
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