第216話 オリジン

「それで?何か急ぎの用件がありそうだね?」


 手が見えない程袖を垂らしたまま、手を挙げて眼鏡をクイッとあげて問いかける研究者風の女の子。メイド服の上に白衣を着ていて、今までの例を見ればバレッタの姉妹なのだろうが、何やら不穏な気配を出している。


 そう、マッドな……。


「おう。ちょっと魔族達が合成獣にされちまったり、殺されたりしててな。ここならなんとかなると聞いてきた」

「ほほう。それはお目が高いね?誰の差金だい?」


 ずずずいーッと近寄ってニヤニヤと笑みを浮かべる彼女。


 ものすごく近い。普通に体と体が触れ合う距離だ。顔も数十センチしか離れていない。人との距離感というものの取り方が物凄く極端なタイプか?


「あなた、ちょっと近いわよ!!」


 不機嫌になったリンネが姉妹メイドと俺をグイッと引き離す。


 メイドだとは分かっているだろうが、それでも俺が異性らしい者とくっつくのは許せないらしい。


 嫉妬してくれるとは……尊い。


「おっとこれはダメだったね。失礼しました、姫さま」

「ひ、姫?」


 引き離された研究者メイドは、少し近づきすぎだったと、貴族のように一礼して謝罪するが、呼び名に赤面するリンネ。


「マスターの恋人でしょ?僕にとったら姫そのものさ」

「そ、そう。分かってるみたいだから許してあげるわ」


 研究者メイドは両手を広げて仰々しく振る舞うと、リンネは顔を赤らめて髪の毛をいじりながら満更でもなさそうな顔をしている。


 相変わらずチョロい。


「まぁ話を戻すと、バレッタに聞いたんだ。お前達の長姉だろ?」

「なんと、バレッタ姉が起きてるのかい?それならここを紹介するのも頷けるか、うんうん」


 イヤンイヤンと体を揺らして自分の世界に入っているリンネを尻目に俺と研究者メイドは話を進める。


「一応、バレッタ、アンリエッタ、テスタロッサ、ワイスの4人はすでに起きてるぞ。名前は知らんが、お前が五人目だ」

「なんと既に半数以上が目覚めているとは!?それと自己紹介を忘れていたね。僕はこの研究施設『生命研究所オリジン』の管理者を務める研究者メイド、イヴだよ。よろしくねマスター」


 一度瓶底メガネの奥の目が見開いて驚いた後、気を取り直してにゃははと笑いながら、敬礼するようにイヴは俺に挨拶をした。体格に合わない袖がブラリと揺れる。


 なんとも締まらない雰囲気の持ち主だ。


「ああ、よろしく頼むイヴ。それで早速なんだが、魔族達をどうにかする事はできるか?」

「任せてよ。まずは魔族の死体も必要だね。こんな時はじゃん!!この子達!!なんでも見つける君とどこでもいける君」


 さっすが、バレッタの姉妹!!

 俺の記憶はいつの間に共有されちゃったのかな?


 それはさておき、イヴがどこからか取り出して差し出してきたのは、一つのでかい目玉に羽が生えたような生き物と、走ってるジェスチャーで固まってる埴輪のような生き物。


 どちらも「お゛ぉ゛お゛お゛お゛お゛お゛」と地獄の底から響いてくる怨嗟の声みたいにおどろおどろしい声を出している。


「そいつらはなんだ?まぁ名前から想像できるが、一応説明してくれ」

「おっけー!!なんでも見つける君は、探してる物がどこにあるか見つけてくれる生き物。マスターの探している魔族の死体もすぐ見つかるさ。そして見つかっても連れてくるのが面倒。そんな時に役立つのがこのどこでも行ける君。なんでも見つける君と連動していて、なんでも見つける君が探した場所に、どこでもいける君は転移で移動することができて、目的の物を持ち帰ってくれるよ」


 なんとも便利な生物達だが、犯罪に使われそうな奴らだな。

 

「ちなみに探し物が生きていて、コミュニケーション可能だった場合は、ちゃんと同意を得ないと連れて来れないから安心してね」


 俺の懸念もあっさり晴れる。


「それじゃあ、俺達は研究施設で改造された奴らだけ連れてくればいいか?」

「別にそっちも回収してきてもいいんだけど、囚われた人たちの件あるからお願いしてもいいかな?」

「そりゃあこっちが頼んでんだから当然だろ」

「ふふふ、そうだね。それじゃあお願いね」

「了解」


 なんだか上機嫌になったイヴを尻目に、俺たちは再び魔族を捕らえていた研究施設へと飛んだ。


 

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