第211話 何も知らぬ者達(第三者Side)

 健吾達が高校生勇者を解放し、人質も連れ出した頃、王城の一角ではまだ集まる者達がいた。室内は薄暗く、テーブルの上の蝋燭と、淡い人仮のランタンのような道具が淡い光を放っている。


「計画は順調のようですな、陛下」

「うむ。このままいけば魔王種どもはこの国に戦争を仕掛けてくる。しかし、あの人間もどき共が居れば相手にもならんだろう」


 片眼鏡をし、枯れ木のような体躯に緑を基調とした豪奢な衣装を着た老人と、王冠を頭に乗せ、深紅のマントを羽織った如何にも偉そうな人物。ヒュマルス王国の宰相と国王である。


 二人は仄暗い一室で醜悪な笑みを浮かべていた。


「そうですな。しかし油断は禁物ですぞ?」

「分かっておる。その時のための魔族、おっと魔王種の合成獣であろうが」

「そうでしたな。ほっほっほ」


 宰相は国王の慢心を心配して念のため釘を刺すが、国王は反論する。そしてその反論に宰相も確かに問題ないと思いなおしたのである。


 高校生勇者たちの力はこの世界の一般的な魔族と比較しても圧倒的な力を持っている。たった数十人ではあるが、その戦力は国家戦力にも匹敵するものであった。その力をきちんと運用できれば、負けるはずもない。


 その上、魔族と魔物を掛け合わせ、より強力な生物となった合成獣までいれば、仮に想定以上の戦力がこちらに投入されても勝てる見込みであった。


「しかし、ここまで上手くいくとなんだか気味が悪いですな」

「何を言っておる。私とお前で綿密な計画を立てて、秘密裏にことを勧めてきたからであろう。なにもおかしなことはない」

「そうなのですがね。杞憂であれば良いのですが……」

「何も気にすることなどない。万事上手くいっておる。勇者の隷属化、魔王種の仕入れ、合成獣の研究、何も問題ない」


 宰相はあまりにことが上手く動き過ぎているため、どこかで失敗しているのではないか、という懸念を抱いた。その懸念はひどく正しいのだが、魔族の国の捕縛軍の兵士は連絡員も含めて全員気絶、人質を守る兵士や、教会の研究所の人員が催眠状態に陥っていることなど知る由もなく、国王は取り合うこともなく懸念を一笑に付した。


 彼らに情報を伝える人物がいない以上、彼らがその情報を得るのは、第三者が関わらない限りは当分先のことになるだろう。


「まずは魔族の落として、それを皮切りにその他の亜人の国にも侵攻する。人間こそがこの世界の頂点にたつに相応しいのだからな。人間もどきや亜人、魔王種など人が支配して上手く使ってやらねば何の価値もない」

「全くその通りですな。エルフの薬学や魔法に関する知識や技術も、ドワーフの道具精製能力も、獣人たちの身体能力も、魔王種たちの戦闘力も我が国の役に立ってこそ」

「うむ。奴らはわれらの生活を豊かにするための道具に過ぎない。国ごっこなどさせておる場合ではない。出来るだけ早く侵攻し、我が国のために働かせねば」

「擦れば我が国は世界一の大国となりましょう」


 話していてお互いに今後の国の展望について想像が膨らんでいく。


 ドワーフ達に快適な暮らしをするための道具を強制的に造らせ、エルフたちには病や毒、怪我などを治癒するポーションを作らせ続けたり、魔法を有効的に使わせる。


 また、獣人たちには土木関係の仕事や人が居やがるような汚れ仕事や、エルフの農業知識の元、農業をやらせ、魔族と勇者には他国を侵略したり、自分達人間を脅かす驚異の排除をさせる。万物の頂点だと疑わない人間である自分たちは何もすることなく、豊かな生活を享受する。


 そんな生活を何も知らぬ二人は夢想していた、そんな未来が来ることなどないとも知らずに。


「くっくっく」

「あーはっは」


 二人は笑いながら捕らぬ狸の皮算用を夜遅くまで語り合うのであった。

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