第195話 分担
俺たちは現在ヒュマルス王国内上空をステルス状態の船で航行している。ある程度高度を落として地上を複数のカメラで映す。
王城以外は知らないが、なんというか全体的に疲弊しきってるって印象だ。土地がやせ細り、領主直下の街は比較的富んでいるように見えるが、離れるほど民が貧しくなっていく。
「腐ってやがる」
貴族や中央が富むのは管理者としてある程度は分かるが、義務も果たさずに何もせず、自分達だけのうのうと生きて、民を疲弊させるだけではその状態では長くは続かないだろう。
だから魔族に目を付けた?
いや、そう決めるのはまだ早計だ。
バレッタによれば細かいところまでは分からないが、数万を超える魔族軍がヒュマルス王国に向かって進軍しているという。衛星カメラみたいなものでその様子を捉えたらしい。
何はともあれ情報収集だろう。
「俺の同郷の人間を助けるのは確定だが、アイツらは仮にも勇者としてこっちに呼ばれた奴だ。すぐにどうにかなることはないだろう。ひとまずどこかで何が起こっているのか、そしてどうして魔族がヒュマルス王国に進軍しているのか情報を集めたいと思う」
「ええそうね。何が起こってるのか分からないと動きようがないわ」
情報収集するのはいいとして、ヒュマルス王国側だけでなく、魔族側の情報も欲しい。一方だけの情報だと確実に質が偏る。両方の情報を得てこそ納得のいく判断が出来るだろう。
まぁ十中八九ヒュマルス王国側が何かしたせいだろうと思うが、決めつけはよくない。まぁヒュマルス王国のせいだと思うけど。なにせあの糞王が王の国だからな。それだけじゃなく異世界の純粋な人間だけを人間だと主張する国だ。魔族なんてあいつらからしたら魔物と変わらないんだろう。
それはそうとして、ここは二つのチームに分かれるのが得策だろうか。
「ヒュマルス王国は人間至上主義の国だ。カエデには悪いが、何かといい思いはしないだろう」
「ふむ。別に私はさして気にしないんだがな」
カエデは肩を竦めて苦笑いを浮かべる。
本当に対して気にしてはいないだろうが、それでも全く気しないわけではないだろう。俺にはそれが嫌だった。
「そう言うな。俺の気分が悪い」
「そうね、私もカエデが馬鹿にされるのは嫌だわ。思わず切っちゃうかも」
「切るな。剣を抜くな」
カエデが蔑まれているシーンでも思い浮かべたのか舌なめずりするように剣を抜くリンネを諫める。
分からんでもないが、それは最終手段だ。
「ということで、そんなカエデには魔族の国に行ってもらいたい」
「主君は過保護だな。まぁ悪くはないだが。いいだろう、私は魔族の国に行こう」
「ああ。それで一人で、というのもなんだから、誰か一緒に連れて行って欲しいが……」
「私は一人で構わないぞ?」
カエデはそういうが、戦闘力という点では一番低いままだ。もちろん隠密行動という点では特筆すべき能力の持ち主ではあるが……。
「それではテスタロッサを連れて行ったらいかがでしょうか?」
「テスタロッサを?」
バレッタがそう提案してくる。
あいつが隠密に向く性格とは思えないんだが……。
「あれはあれで自制はききますよ。仮にも私の姉妹ですので」
ニッコリとした笑顔でそう言われてしまうと俺としては何も言えないんだが。
「それにテスタロッサを連れていけば、彼女も帰投できますから合流も容易いでしょう」
「なるほどな」
そうか、後程の合流のことを考えていなかった。確かに転移できるのならその恩恵は計り知れないだろう。何かあればすぐに戻って体勢を立て直せるしな。
「確かに普通に移動していたら主君との合流に時間がかかる。それでは間に合わないだろう。テスタロッサが一緒に行ってくれるならぜひ助力願おう」
「分かりました」
こうして俺たちは俺とリンネとイナホ、カエデとテスタロッサに分かれて情報収集することになった。
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