第196話 情報収集①
俺たちは船で、魔族の国のヒュマルス王国との国境付近の町ダークスの近くに寄り、その後、首都アルバリスの近くまで飛んでカエデとテスタロッサを下した。
アルバリスだけでなく、ダークスにも寄ったのは、進軍している情報が首都だけでは歪んでしまう可能性があったからだ。これでカエデたちは首都で情報収集した後、帰投機能を使えば、ダークスでも情報収集が出来る。俺達もヒュマルス王国側の王都と国境付近で情報収集するつもりだ。
俺たちは王都の近くの人目に付かない場所に船を下し、今回は徒歩で王都に向かう。流石にあのゴーレム馬車やレグナータを使うと、あのろくでなしどもの事だ。同じ人間でも下々の事は何ともおもってないからな。誰も止めることなく、奪いに来るだろう。そんなトラブルに巻き込まれる趣味はない。
『偽装魔法』
俺は、俺とリンネがその辺の普通の冒険者に見えるように偽装魔法を掛けてから王都に向かって歩き出した。
「ここまでする必要あるの?」
「ああ。ここには俺を知っている人間がいるかもしれないからな。念のためだ」
リンネに理由を説明しながら進んでいく。
「あ!?」
俺はリンネの手をそっと握る。久しぶりの二人での行動だ。こんなことをしたってバチは当たらないだろう。
リンネは突然のことに驚いたのか少し俯いて大人しく俺に手を引かれて少し後ろをついてきた。
「身分証を提示してください」
城門に着くと俺とリンネは門番に冒険者カードを提示した。
「Bランク冒険者のご夫婦ですか。ようこそ」
そう言われて驚かれることもなく、城門を突破する。
門番は仲睦まじげな俺達を見て微笑ましい表情を浮かべていた。
「ちょ、ちょっと……さっきのは何よ?」
街に入ってしばらく経った後、リンネは慌てたように尋ねる。
「さっきの?」
「冒険者ランクがBだったり、その……夫婦ってとこよ」
城門で意味不明なことを言っていた門番。その原因は……。
「精神魔法でチョロっと催眠を掛けただけだ」
精神魔法で俺達の冒険者カードがBランクの物に、そしてお互いが夫婦になるように俺の家名がリンネの名前の後ろに付いて見えるようにしておいた。
「ち、違うわよ!!そこじゃないわ!!なんで夫婦なのよ。私たちはまだ……その……違うじゃない……」
気になるのはそっちか。
相変わらずこういう話題に弱いリンネ。しどろもどろになって俺に尋ねる。
いつもながら普段はきりっとしてるのに、突然オドオドし出すそのギャップが可愛い。
「別に良いだろ?実質殆ど同じモノだし。手続きして式を上げてるか、上げてないかくらいの違いしかないだろ」
「そ、そうかしら……?」
「なんだ?嫌なのか?」
モジモジするリンネが可愛いので、嗜虐心をくすぐられた俺は意地悪な笑みを浮かべて問い返した。
「も、もう!!分かってるくせに!!ケンゴの意地悪!!」
「ははははは、怒るなよ。相変わらず可愛いな」
「べ、別に起こってなんかないわ」
弄られていると分かったのかリンネはプイッと顔を赤くしたままそっぽを向く。でも手はギュッと握られたままだから、怒ってる体を表しているに過ぎないと分かる。
「勇者様たちが少数の兵士を率いて魔王種の討伐に向かったらしいわ!!」
「そうみたいね!!これで私たちは魔王種におびえなくて済むんだわ」
リンネとひとしきりイチャイチャして満足した後、俺達は情報収集を開始した。
それと同時にあっけなく情報を掴むことが出来た。なぜなら街中で話題になっているからだ。
おそらく魔王種っていうのは魔族のことだ。それを勇者を使って討伐してるらしい。全く差別思想も困ったものだ。
それにしてもあいつらが魔王種討伐に加担している訳だが、喜んで参加しているのか、それとも強いられているのかで俺の対応も変わるぞ。喜び勇んでコミュニケーションを取れる種族を問答無用で滅ぼす奴らなんて助けるつもりはない。
それに今回の魔族侵攻はどう見てもそれが原因だろ。
こりゃあちょっと中枢にお邪魔するしかないか?
俺はそんな風に考えながら遠くに聳える城を見上げて睨みつけた。
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